その697 突入! 急造調査パーティ【ミアリィ】!
「それでは、行ってらっしゃいませ。メアリィ様」
深々と頭を下げるバルト。
メアリィはコクンと頷くも、緊張からか声が出ていない様子。
バルトは俺に向き、
「メアリィ様をよろしくお願い致します、ミケラルド殿」
「必ずメアリィさんを無事に連れて帰るとお約束します」
俺はそれだけ伝え、メアリィと共に転移装置の上に立ったのだった。さぁ、急造臨時パーティ【ミアリィ】の始動だ!
◇◆◇ 一階層 ◆◇◆
転移した場所は細長い通路。
四人で歩けば埋まりそうな幅と、アーダインが手を伸ばせば届きそうな天井。それ以上に気になるのが――、
「ミケラルドさん、これって」
「そうですね、壁一面ミスリルとは霊龍も気合いが入ってますね」
さて、早速気にしなくてはいけないのが――、
「へ?」
俺はメアリィの手を引き、転移装置を離れる。
そして、再び転移装置に乗ってみたのだ。
直後、メアリィの顔が
「反応無し。やっぱりこれまでのダンジョンとは違うようですね」
「そ、それってつまり……調査でも最下層まで行かなくちゃならない……って事ですか?」
「うーん、これまで救済措置を与えていた霊龍がいきなりそんな事をするとは思えないんですよね」
「え、じゃあ……?」
メアリィが聞くも、俺はその答えを持ち合わせていなかった。
霊龍は冒険者を叩き、育成するという方針でダンジョンを造っているはず。ならば、死んでしまう可能性が高いダンジョンで入り口をこうした理由。……不退こそが訓練だとでも?
だが、待てど暮らせどここで何か起きるという事はなさそうだ。
ならば、先に進むしかないだろう。
「私の転移も使えないようなので、進むしかありませんね」
「はいっ」
「プラン通り、先頭は私の分裂体、次にメアリィさん。そして最後尾に私という事で」
「わかりました」
出現する俺の分裂体。闇空間から取り出した打刀を渡し、先頭に加える。
皆でダンジョンの調査を始めて五分、おかしい。モンスターが出現する気配がない。これまでのダンジョンであれば、一匹や二匹出て来てもおかしくはないのだが?
それに、ずっと一本道だというのも気になる。ん?
「ストップ」
「え、はい!」
杖を構えるメアリィ。
しかし、俺がメアリィを止めたのは、モンスターの気配を察知したからではない。光源魔法を投げ、遠くを照らす俺。
「あれは……!」
目を細める俺を見るメアリィ。
「ミケラルドさん、あれって……」
「まぁ、とりあえず行ってみましょう」
俺は光源が照らす方に指を差し、再び歩を進めた。
やがて、そこへたどり着くと……、
「嘘……?」
「入口……ですかね? それとも次の階へ向かうための転移装置か」
「でも、起動していないみたいです」
俺たちが入って来た転移装置とまったく同じ。
左右の壁や天井だけでは見分けがつかない。
なるほど、こういうパターンですか。
「道中に分かれ道はなく、一本道。距離は歩いて十分弱」
「どうしましょう、ミケラルドさん?」
「まぁ、こういうのは混乱しない事が一番です。まずは……」
こちらの壁にバツの刻印を入れる。
「さ、戻ってみましょう」
「え、あ……はい!」
また歩く事十分弱。
「戻って来たんでしょうか……?」
「いえ、バツ印がありませんね。ここは本当の入り口……? いやまぁ、調査ですしね。根気勝負でいきましょう」
今度はこちらにマルの刻印を入れる。
ふたたび引き返すと……、
「刻印なし。バツもマルもなし……か」
「うぇえ? 一体どういう事なんでしょう?」
「考えられる可能性は大きく分けて二つ。歩くたびに別の場所に移動しているか、壁が刻印を修復しているか。前者だと面倒な事になりますけど、後者なら話が早い」
「どうやって確認しますか?」
「壁以外の目印……まぁ、この子ですかね」
俺はもう一人の分裂体を転移装置の前に立たせ、そこで待機するように命じた。
「顔が真っ赤です……」
「まぁ、単純に色分けみたいなものですよ」
また引き返し、転移装置の前までやって来る。
「い、いないです! 真っ赤なミケラルドさんがいませんっ!」
「じゃあ次は真っ青なミケラルドを置いて行きましょう」
「今にも倒れそうな顔色です……」
メアリィは心配そうな顔で振り返りながら真っ青ミケラルドに手を振った。
「……お、赤ラルドじゃーん」
「赤ラルド」
「赤ラルド。道中考えてたんですけど呼びやすいでしょう?」
「うーん……確かにそうですけど……」
「さてさて、青ラルドは入口側だから」
「青ラルド」
「この赤ラルドが出口側。後は転移の可能性を排除しとくのが必要かな。メアリィさん、面倒ですけどもうあと三往復くらいしましょうか。一階層は現状危険はなさそうなので、ちょっと走りますよ」
「青ラルド……うぇ? あ!?」
闇空間から取り出した椅子にメアリィを座らせた俺は、そのままサイコキネシスで椅子を浮かべた。
「みゃ!?」
俺のダッシュと同時にバビュンと飛ぶ椅子。
ほんの数回の呼吸の後、青ラルドの下に着く俺たち。
「青ラルド発見、ターンします」
「ターン!? タ――」
「赤ラルド発見、ターン」
「ちょ、ちょっとミケラルドさん!」
「青ラルドターン」
「く、くく……」
「赤ターン」
「赤ラルドさんです!」
「青」
「赤です!」
そこからメアリィは、楽しそうになりながら椅子コースターに乗っていた。調子にのって五往復してしまったのはご愛敬だろう。
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