その692 ご報告

『やはりあったか……』


 採用が決まったミケラルドじるしのギルド通信から聞こえて来るアーダインの野太い声。

 ギルド通信室でシェルフにダンジョンが見つかった事を報告した俺は、アーダインの深い溜め息を聞いた。


『はぁ~……聞いてくれるか、ミック』

「いや、聞きたくありません」


 そう断るも、アーダインお爺ちゃんの耳は遠くなっているようだ。


『俺はな? シェルフからの返答が一ヶ月程とネム経由で聞いてたんだ。が、しかしだ? 法王国から炎龍ロイスがいなくなった数日後にシェルフに四匹の龍族が現れたって言うじゃないか? そこで俺はピーンと気付いたんだ。『あぁ、またどこかの元首がとんでもない事をしたんだ』ってな? あの国はどこだったかな? あー、えー……ミー、ミー……なぁミック、知らないか?』

「すみません、通信障害みたいですね。あーあー、どうもミケラルドです。聞こえてます?」

『でな? こっちも一ヶ月って期間を想定して動いていたんだ。だが、その一件があったおかげでたった半月にまで縮んでしまった。確かに仕事が早いのは喜ぶべき事だ。だがな? こっちにも段取りってものがあるんだよ。そこんところわかってるんだろうか、某国は?』


 まるで言っちゃいけない国名みたいな扱いを受けているぞ、ミナジリ共和国。


『あの国は参謀が優秀らしい。噂じゃリプトゥア国から引き抜いたって話だ』

「へぇー」

『剣神イヅナを超える剣士がいるらしい。噂じゃ魔界から引き抜いたって話だ』

「ほぉー」

『シェルフには来なかった龍族が所属しているらしい。噂じゃそこの元首にベタ惚れって話だ』

「ふーん」

『中でも優秀なのがハーフエルフの少女でな。どうやらあの国の馬鹿げた武力を司る軍備を任されているらしい』

「まるでおとぎの国のようですねぇ」

『魔窟の間違いだろうが』


 中々良い感じのドス声ですね。

 これまでのネチネチした言い方を忘れる程に、アーダインの声は清々しかった。


『それで、見た感じどうだった?』

「外側から見ただけじゃわかりませんよ。高難度だって事がすぐにわかる転移装置付きの入り口です。外界と直接繋がってたらとんでもない惨事になると思います。霊龍なりのこだわりがうかがえますね」

『入ってすらみなかったのか?』

「冒険者ギルドの許可が必要ですから」

『ちっ、少しくらい入ったって……あ、いや。これは俺が言うべき事じゃないな』

「その通りです、アーダイン殿」


 だが、気になる言い方だ。

 アーダインは、まるで俺にフライングしてダンジョンに入って欲しかったような言い方に聞こえるが……?


「何か問題でも?」

『この報告をもってダンジョンの情報は冒険者ギルド預かりとなった。で、面倒なのがこの先だ』

「というと?」

『ギルド規定で、新しいダンジョンが見つかった際、調査に赴くのはランクAパーティという決まりがあるんだよ』

「あー……そういう事ですか」


 つまり、アーダインは残された時間を使って、その規定を改定しようとしてたのだ。しかし、それが変える前にダンジョンが見つかってしまった。

 俺が先んじて入って冒険者ギルドに報告していれば、そうならなかった……だからアーダインは『先っちょくらいいいじゃねぇか』って言ってたのか。

 聖域の調査は俺一人。しかし、ダンジョン内となると根回しが必要だった。その根回しに使うはずの時間を、龍族が壊してしまった。そういう訳だ。


『ま、無駄に冒険者を殺す訳にもいかない。わざわざ龍族が説得した上、SSダブルダンジョンの報酬で姿を現わすような場所だ。ランクA如きで務まるはずもない』

「入った瞬間に死ぬ場合もありますからねぇ」

『しかも、今回はシェルフの息もかかったダンジョンだ。シェルフから信用のあるミック一人ならともかく、そうでないパーティを送り込むのも難しい。それがたとえ調査だとしてもだ』


 確かに、これは非常に難しい問題かもしれない。


「八方塞がりって事ですか……」

『いや、一つだけ手がある』

「おぉ、流石は総括ギルドマスターですね。して、一体どのような?」

『シェルフに認められているミックを、低ランクの冒険者と組ませ、臨時のランクAパーティを強引に結成する』

「……お、思ったよりも力業ちからわざですね」

『わざわざリルハにまで知恵を貸してもらいに行ったが、これが限界だったんだよ』


 いや、まぁ確かにそれしか方法はないか。


「でも、それじゃあ低ランクの冒険者に対してシェルフから何かしらあるのでは?」

『エルフの冒険者を使うに決まってるだろう』

「あ、そういう? それで一体誰を?」

『現状ダンジョンはトップシークレット。この部分以上に、ミックやシェルフの問題と干渉しないエルフといえば【メアリィ】しかいない』


 エルフの姫じゃねぇか。


「え、マジすか? ランクBですよ、あの子」

『そこは総括ギルドマスターの裁量権よ。本来であれば、SSSトリプルとランクBがパーティを組めば、その中間であるランクSパーティとして認定される。しかし、メアリィは才こそあれど年若く、ランクBにもあがったばかり。そして、言わせてもらえばミックもSSSトリプルに上がったばかり……と、ここを総括ギルドマスターが強引に考慮すれば、ランクSではなく、ランクAパーティで承認をかける事が出来る。そういう訳だ』


 何から何まで力業故に、ダンジョン調査が心配になるミケラルド君だった。

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