◆その682 ミックの狙い
「うぅ……」
雷龍シュガリオンの意識が戻り、その目がうっすらと開かれる。そこに映るにやけた顔のミケラルド・オード・ミナジリ。
「あ、気付きましたぁ? 魔力と傷は完全に回復してるはずです。回復魔法を掛けた後にエリクサーぶっかけましたからね。頬が赤いのは気付けのビンタの影響です。ビンタってもしかしたら医療行為なのかもしれませんね」
そこまで言い切ったところで雷龍シュガリオンが覚醒する。
バッと起き上がり、ミケラルドから距離を取るように離れたのだ。
「わかりますわかります。頬の赤みは私への恋かもしれないって言いたいんでしょう? それに気付いたからこそ距離を取る。なんとも可愛らしい性格じゃないですか」
「私は……負けたのか……?」
目を見開き、自身に起きた状況を呑み込めずにいる雷龍シュガリオン。ミケラルドの隣にいた
「お前の負けだ。あれが良い証拠だ」
そこでは、野外用の敷物を敷き、そこに腰を下ろすミケラルドの仲間たち。
「ほぉ、中々うめぇじゃねぇか、この
豪快にサンドウィッチを喰らう剣鬼オベイル。
「ミックがね? サンドウィッチ伯爵がどうとか言ってたけど、そんな家名聞いた事ないよね」
ナタリーがオベイルにサンドウィッチを渡す。
「ほぉ、これは……紅茶にミルクを淹れたのか。ふむ、美味い」
ミルクティーを美味しそうに
「ミックがね? これでもうすぐ
「私、ミルクティーだーいすき」
甘さ控えめと書かれた水筒からミルクティーを注ぐ勇者エメリー。
「んぐお! ぐぉ!」
現在は昼に近い頃合い。皆で昼食をとっているのだ。
しかし、その中でも食事をとらなかった者が三名。
リィたん、ジェイル、そして聖女アリスである。
「腹が減ったな、ジェイル」
「食ってもいいんだぞ、リィたん」
「ダメだ。食事はミックと一緒がいい」
「さっき『マナポーションで水っ腹』とか言ってたが、ミックの腹に余裕はあるのだろうか」
「一緒に食卓を囲む事が重要なのだ」
「確かに、それには同意する」
ジェイルがそう言うと、わなわなと震えていたアリスが愚痴のように零す。
「何か、真面目に立ってる私が馬鹿みたい……」
それを耳で拾ったオベイル。
「聖女っつーのも大変だな」
「あれは性格だ」
イヅナがそう言うと、気を利かせたエメリーがアリスに言う。
「あの……アリスさんもどうですか?」
「いえ、雷龍シュガリオンも起きましたし、これで何かアクションがあるはずです」
「あ、ホントですね」
リィたんとジェイルの間から覗き込んだエメリーと、雷龍シュガリオンの目が合う。
「わっ!」
「どうしたのエメリーちゃん?」
ナタリーが聞くと、
「目が合っちゃいました」
エメリーが顔を覆ってそう言った。
するとテルースがフォローを入れる。
「多分、向こうもそう思ってますよ。
そんな会話が聞こえるお昼時。
雷龍シュガリオンは、顔を背ける
その目には怒気こそあれど、ミケラルドの意図を探ろうという警戒があった。
「何を企んでいる?」
「美女に囲まれながら死ぬ計画です」
「はっ、なんとも浅ましいものだな」
「いやいや、これがなかなかどうして、かなり奥深くてですね? どうやらまずは魔王を倒さなくちゃいけないみたいで困ってるんですよ」
「我の怒りを買ってまで……いや場合によっては霊龍の怒りすら買ってまで罠を用意した理由を聞いているのだ」
「霊龍が約束を反故にするとは思えません。従って、この勝負は私の勝ち。それは揺るぎないものですよ。シェルフへの交渉、よろしくお願いします」
「ふん、約束は約束だ。がしかし、その後については霊龍の預かり知るところではない……と言ったら?」
雷龍シュガリオンの言葉はミナジリ共和国への脅迫と言えた。
直後、ミケラルドの魔力が爆発的に膨れ上がる。
「ほざいてろ、電気トカゲ……!」
「……ふ、そうでなくてはな」
これに感応するかのように雷龍シュガリオンの魔力が大きく広がる。雷龍シュガリオンはミナジリ共和国を盾にミケラルドを挑発した。そして、罠など用意しようがない状況下でミケラルドに再戦を申し込んだのだ。
ミケラルドの怒りを買えば、当然ソレは受けざるを得ない。雷龍シュガリオンの狙いは正しかった。
しかし、それこそ、この再戦こそがミケラルドの狙いだとしたら……。
リィたんとジェイルは見合って頷くと、再戦の場から
「まったく、付き合ってられんな」
「
「何?」
それは信頼と絆の証。
このリィたんの発言にジェイルが続く。
「ミックの狙いはこの戦いにこそある」
咬王ミケラルドと雷龍シュガリオン――第二回戦の開始である。
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