その672 撮影会

 ルナ王女の悔しそうな顔を拝んだ後、俺はミナジリ共和国に戻った。そして、ロレッソと簡単な打ち合わせをした後に簡単な内務や情報整理……なんかをしようと思っていたのだが、呼ばれてしまったのだ。彼女に……いや、正確には彼女たち、、、、と言った方がいいのかもしれない。


「へぇ、実に面白そうな任務内容だね。私が若ければ挑戦してみたかったところだ」

「師匠、広場いっぱいに土の城を築くなんて大それた事、ミケラルド殿にしか出来ないのでは?」

「そうだねリルハ、、、。私が若かろうがその時代にキミはいない。何とも歯痒い状況じゃないか」

「ふふふ、師匠。はいあ~ん」

「あ~ん。ん~、ヒルダ、、、が呑ませてくれる薬湯スープは本当に美味しいねぇ~。でもちょっと苦いかなぁ~」


 このベッド近辺の魔力濃度がおかしな事になっている。

 時代が時代なら国が警戒してもおかしな話じゃないというレベルである。

 そのもそのはずでここはプリシラの部屋。その両サイドにはプリシラの介護をするリルハとヒルダがいるのだから。


「さぁ、ちゃんと説明したでしょう。そろそろここへ呼んだ理由を教えてくれてもいいんじゃないですか?」


 すると、プリシラは左右の弟子たちを見てから言った。


「誰か彼を呼んだのかい?」

「「いいえ」」


 弟子のハーモニーは一瞬の鎮魂歌となって俺の耳に届いた。


「……何の用もなく呼んだんですか?」

「失敬な! そんな事する訳ないじゃないか。仮にもキミは元首なんだから失礼になってしまうよ。そうじゃないかい、リルハ?」

「仰る通りです、師匠」

「『仮にも』の時点でもう失礼ですよ……はぁ」


 俺が深い溜め息を吐くと、ヒルダがプリシラに提案をした。


「師匠。では、今から呼んだ理由を考えてみてはいかがでしょう?」

「それだ! 素晴らしいよヒルダ。さぞかし優秀な師がいるんだろうね!」

「はい、素晴らしい師を持ちました」


 ここまで自分たちをアゲられる師弟も珍しい。

 まぁ、プリシラに師事したんだ。最後まで諦めずそれを続けたのだから、ある程度は師匠に毒されても仕方ないか。


「ふむ、理由か……キミの考えを聞きたいな」

「何で私を呼ぶ理由を私自身が考えなくちゃいけないんですか」

「そういうの得意そうじゃないか」


 俺を呼んだ理由ねぇ……確かに、詰めておかなくちゃいけない事もある、か。


「あ、そうだ。お葬式のご希望あります?」

「キミ、本人の前で聞くかい、それ?」

「やだなぁ、身寄りのない方だから生きてる内に聞いとくんじゃないですか」

「む、リルハとヒルダは違うと言いたげだね?」

「血縁関係があれば違うと言わないんですけどね」

「むむむ……確かにそうかもしれない」


 俺は闇空間から紙を取り出し、ペンを走らせた。


「まず火葬と土葬、どちらがお好みで?」

「土葬した後に仮装して地面から出て来るってのはどうだい?」

「リビングデッド希望……と。弟子のお二人に黒魔術かなんか仕込んだので?」

「……いや、火葬でいいよ。骨は元首の部屋に撒いて欲しい」

「骨も残らない火力で……と」

「見なさいリルハ、ヒルダ。これが元首級のボケ殺しというやつだ」


 これ見よがしに俺を悪者にしてくるじゃないか、プリシラのヤツ。だが、そんなプリシラをリルハとヒルダは嬉しそうに見るばかりだ。

 なるほど、精一杯プリシラしてる、、、、、、、って事か。


「そうだ、キミの故郷ではどうするのか聞きたいな?」

「私の……魔界ですか?」

「のんのん。その前の話だよ」

「あー、そういう?」


 なるほど、現代日本の話か。


「国によっては違いましたが私のところは火葬でしたね」

「じゃあ火葬でいいね。葬式はどうしてたんだい?」

「さぁ」

「さぁってキミィ……」


 ジトリと目を向けて来るプリシラ。


「死と余り縁のない人生を送っていたもので。あ、そうだ」

「何だい?」

「棺の中に亡くなった方が好きだった物を入れてましたね」

「へぇ、何故だい?」

手向たむけとして……じゃなかったかな?」

「うーん、それは別にいいかな」

「でしょうね」


 この世界での神は一人。

 死後の世界があるという教えはなかったはずだ。


「後は……遺影?」

「何だい、そのイェイってのは?」


 それは独特な感性である。


「……ふむ、やって見せた方が早いか」


 そう判断し、俺は紙の裏にビジョンを転写した。

 俺はその紙をプリシラたちに見せると、皆驚きに満ちた表情を見せたのだった。


「凄いね、私たちじゃないか!」

「これは……金になる!」

「ミケラルド殿、こちらの紙、買い取らせて頂きたいのですが?」


 プリシラは嬉々として喜び、リルハは流石商人ギルドのギルドマスターって感じで、ヒルダはその写真を額縁に飾りそうな勢いである。


「こういう風に故人の生きてた頃の写真を飾り、葬式に来た皆でしのぶんです」

「いいね、とても面白い文化だ。じゃあ早速その写真とやらを用意しようじゃないか」

「え、これじゃ駄目です? 幸せそうですよ? 特に顔が」

「ダメダメ、そんなんじゃファンの心は掴めないよ」


 プリシラが言うと、ヒルダがそれにのって肉薄してきた。


「これを部屋一面に飾るには一体いくらのお金を積めばよろしいでしょうか、ミケラルド殿?」


 次にリルハが目を白金貨にさせて肉薄してきた。


「ミケラルド殿、これで聖女と勇者の肖像画を用意すればよろしいお値段になるんじゃないか?」


 最後にプリシラが――、


「私の横にキミを置いた肖像画が一枚欲しいね。出来れば服を脱いで半裸でレモンを齧りながらで頼むよ」


 そんな自由過ぎる賢者一派に振り回され、俺は遺影撮影会を行うのだった。

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