その664 アリス式盗賊討伐2
一体全体どうなっちゃってるのかわからんが、アリスは俺を引き連れてアーダインに【オリハルコンズ】へのパーティ依頼を提案した。
ここにオリハルコンズのパーティ命名師と、オリハルコンズ創設のキッカケとなった人物がいるというのに、アリスは何を考えているのか。それに、アリスは俺に頼りたくないとか言ってなかったか?
「しかしいいのか? パーティ指名となると
「そこで確認したい事があります」
「ほぉ?」
「確か、指名したパーティに欠員が出た場合、準備不十分という事で依頼料も割引されますよね」
あ、なるほど。
そういう事か。ここで俺たちがドンと構えていれば、オリハルコンズの欠員は確実に二人。この欠員割引が適用されるとすれば、単純に
欠員という事で俺に頼る事もせず、アリスの財力だけで事を解決できる。上手く考えたものだ。
「そうなるかはわからんが、確かに欠員が出てその依頼を遂行しようとすれば、割引の対象になるな」
「ご安心を既に多数決には勝利しました」
くすりと笑うアーダイン。
へー、俺がいない間に皆への根回しも済んでる訳か。
つまり、俺が反対したところで票数が揺るがない程の徹底交渉を済ませていたと。
ナタリーが、最近アリスが俺に似てきたとか言っていたが、なかなかどうして……雑草魂というか、確かに似てきているような気がする。
「まったく、こんな茶番じみた依頼をしてくるヤツは初めて見たよ。
アーダインがそう言うと、アリスはきょとんとか小首を傾げた。
「へ? 誰かってどなたです?」
「さぁな。隣でアホ面してるヤツに聞いてみたらどうだ?」
「……知ってるんですか、ルークさん?」
アリスのジト目。
おや、アーダインの俺への皮肉に気付いていないようだ。
アリスはこういうところがぬけている……と、思ったが徐々にアリスの表情が変わり出した。
「いや、ない! ないですから!」
遅れながらも気付いたか。成長してるじゃないか、聖女様。
「お前はもう知ってるだろうから話すが、オリハルコンズにいるラッツたちは、過去『法王国の闇を探れ』と依頼されて、どこかの誰かに振り回されたんじゃなかったか? というか、アリスは当事者だろう?」
「お、思い出させないでくださいっ!」
顔を真っ赤にするアリス。
そんなに恥ずかしがる事だろうか?
いや、確かに結果として俺はアリスたちを己の分を理解させるよう動き、シナリオに沿うようにオベイルとグラムスに引き合わせさせたし。アリスはその後この事実をナタリーから聞いて、俺にちょっとした怒りを見せていた。
まぁ、本人たちを思っての行動だったと知って矛を収めてくれたが……ふむ、何故か聖女が聖女に似付かわしくない目つきをしながら俺を見ている。まるで鬼か悪魔のようだ。霊龍さん、この人、本当に聖女の適正あるんですか?
「心外! 本当に心外ですっ!」
冒険者ギルドで依頼を完了した後、示し合わせたかのようにオリハルコンズの皆が入って来た。
中には今回の任務をまだやってない人間もいる。しかし、アリスは規定内の行動で事前情報を冒険者としての彼らに与えた。これは聖騎士学校の特殊任務を逸脱しない範囲での最大功労と言えるだろう。
アリスは気付いてないようだが、正直素晴らしい判断だったと言わざるを得ない。コネクションを利用し、聖女の名を利用し、聖騎士学校の規定を利用し、金を使う。
そこで俺は考えてみた。熟考と言っても差し支えないだろう。
――聖女とは一体何なのか?
「ねぇリィたん?」
「何だルーク?」
依頼の受諾手続きを、臨時の代表であるナタリーが行っている間、俺は正面に座るリィたんに言った。
「聖女って一体何なんでしょう? 清らかな心を持った人? 慈愛に満ちた人?」
「【聖加護】を使える女だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「大前提の部分だけって事ですか……なるほど」
「お前は難しく考えすぎだ。
人間だからこそ、成長や年とともに純粋な何かが失われていく。
アリスがこのまま俺の指導方針に従っていたら、もしかして聖女の力が失われるのが早くなってしまうのか? いや、この時点においてアリスの力は成長し続けている。だとしたら、霊龍なりの……安全装置といったところか。
年と共にその力が失われるようにプログラムする。なるほど、【超長期間作用する減衰型の
その後、アリスと俺は【オリハルコンズ】のメンバーと共に、聖騎士が扮する盗賊を捕縛した。
【オリハルコンズ】にはアリスの予言通り欠員メンバーがいた。ミケラルド君とアリスちゃんである。【オリハルコンズ】の真横に立っているのに欠員メンバーとは驚きである。
しかし、アリスは依頼人であり、俺はルークである。欠員になってしまうのも仕方ないだろう。
アーダインの言う通り、茶番ではある。
しかし、冒険者ギルドの規則を破ってはいないし、ギルドに金も落ちる。この茶番に付き合わないのは馬鹿というものだ。
それはもう圧倒的な捕縛劇だった。
聖騎士側から「嘘だろっ!?」とか「ずっる!?」とか「どうしてこうなった!?」とか言われ、その言葉の度にアリスが「うぐっ!?」と胸をおさえていたが、何とか大丈夫だったようだ。
アリスがナタリーと同じようにVサインを俺に向けた後、俺は何故かライゼン学校長の校長室に来ていた。
そう、俺は呼び出されたのである。ミケラルドとして。
「私もそろそろ愚痴を零してもいいと思うのだが、どうだろうミケラルド先生?」
ですよねー。
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