その665 担当官
「はい! そんな訳で、聖騎士学校から【オリハルコンズ】に対しイベント担当官を依頼されましたー。パチパチー」
この空間にはたった一つの俺の拍手のみ。
しかし、ラッツだけはそれに倣って数回拍手してくれた。
「あ、ラッツさんランクS、武闘大会優勝おめでとうございます」
「ありがとうございます」
現在、聖騎士学校の特別講師室に、やや窮屈ながらオリハルコンズのメンバーが揃っている状態である。
すると、キッカが俺に
「そ、それってやっぱり昨日の件が原因……?」
昨日の件とは、オリハルコンズが
「勿論。あ、キッカさんランクSおめでとうございます」
笑顔で俺が言うと、キッカが苦笑し、レミリアが顎先に手を添えて言った。
「確かに、昨日の一件でまだ任務に就いていないオリハルコンズのメンバーも、聖騎士学校の指定任務の内容を知った事になりますね」
「そゆ事です」
笑顔で俺が言うと、クレアがすっと手を挙げた。
「どうぞ」
「つまり、聖騎士学校側はこれ以上私たちに任務に関与される事を嫌がっているという事でしょうか?」
「いえ、そういう事ではありませんよ。あ、クレアさんランクSおめでとうございます」
「あ、ありがとうございます……」
「まぁ、それでもライゼン学校長から愚痴の五つや六つは言われましたけど」
笑顔で俺が言うと、腕を組んだハンが髪をかきあげて言う。
「つまり、学校側は『だったらいっその事、指定任務内容を知ったオリハルコンズを取り込み、他のやつらへの指定任務に協力させた方が得策』だって言ってるんすよね?」
「相変わらず勘がいいですね、ハンさん。あ、ランクSおめでとうございます」
「ハハハ……何か今日のリーダー怖いっすね……」
ハンがぎこちない笑みを浮かべながら言うと、次にメアリィが俺に言った。
「あの、私はまだ任務を受けてないんですけど、そちらはどうなるんでしょう?」
「本来であれば全員に指定任務をやらせてから我々に相談したかったそうですが、聖騎士たちの身体が持たないのと、マスタング講師の目の下のクマを見れば……ここが引き際かなと」
「確かに目元真っ黒ですよね……マスタング先生……」
「本来なら一日に三~四人くらい回せるそうですよ。でも、オリハルコンズのメンバーはガチで攻略しようとするから、二日で一人とかわけわからない進行になってるそうです」
笑顔で俺が言うと、リィたんが訝しんだ様子で言う。
「解せない。早目に終わらせたと思うのだが」
「リィたんとルーク君が行ったゴブリン討伐任務は世界最速レコードを記録したそうです。何たってマスタング講師が我々を見失って迷子になった程ですから」
「ふっ、そうか」
嬉しそうだな、リィたん。
次にエメリーが申し訳なさそうに言う。
「お、怒られちゃいましたか?」
「大丈夫ですよ。ライゼン学校長はそんなに器が小さい方ではありません。皆さんの成長を喜んでいる事は間違いありません。ただ、ライゼン学校長の手札が減ってしまった事は否めません。長い聖騎士学校の歴史の中で、自分に与えられた任務に対し、最強の冒険者パーティを雇うという超大物はいなかったそうです」
笑顔で俺が言うと、ナタリーがすっと視線を横へずらした。
その先にいたのは、この話を始めてから俺と視線を交わしてくれない一人の美少女だった。
「アリスさん、武闘大会優勝おめでとうございます」
「……」
目と目で、
「アリスさん、武闘大会優勝おめでとうございます」
「…………」
通じ合わない。
「おめでとうございます、アリスさん」
「そ、そんなにお祝い頂かなくても結構ですっ!」
バッと立ち上がるアリス。
よかった、ようやく視線が合った。
「どうせ私のやり方がまずかったですよ! えぇすみませんでしたっ!」
「何も言ってないですよ」
「今、超大物とか言ってたじゃないですかっ!」
「あの判断は秀逸でしたよ。正直、聖騎士学校が揺れました。聖騎士の中にはオリハルコンズ恐怖症なる病気が流行ってるってもっぱらの噂ですよ」
「わ、私は与えられた権限の中で精一杯やっただけで……」
もじもじと尻すぼみになるアリスの言葉。
俺はそれにくすりと笑い、アリスに言った。
「ははは、それについて文句を言う人はこの中にいませんよ。これは誇っていい事です。ただ、結果として人手不足に影響してしまっただけの事。言うなれば、この結果を見通せなかったライゼン学校長の問題と言えます。だからライゼン学校長は愚痴しか零せないんですよ。そして、苦肉の策として提案してきたのが、私たちへの打診です」
「イ、イベントって何をするんですか?」
「初回というだけあって、指定任務を受ける方は多いようです。しかし、人手不足からナタリーさんやアリスさんたちに与えたような指定任務は出来ない。その代わりをするのが私たちという訳です。勿論、これに参加したオリハルコンズのメンバーは全員、もれなく満点をもらえるそうです」
この説明に拳を強く握るキッカさん。
そうだよね、満点は嬉しいよな。
俺はアリスに視線を戻し言葉を続けた。
「イベント担当とは言っても、先の指定任務に匹敵するだけのものでなくてはなりません。
アリスが不安そうに俺に聞く。
「脱出ゲームです」
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