その662 ナタリー式盗賊討伐

「いや、これだと、私が盗賊の靴を舐めたり腹踊りした理由がないような気がするんですけど?」

「何事も応用が大事なんでしょ? だったらこれも立派な戦術だよ」


 俺とナタリーは、深夜に手つなぎピクニックを敢行かんこうしていた。お夜食はサンドイッチとミルク。割と多めなのはマスタング講師分もあるからである。

 特殊な指定任務の初日から徹夜を強いられ、あまつさえ夜食を差し出されるマスタング講師は、おそらく新しい世界を感じている事だろう。

 さて、今回、ライゼン学校長の直弟子たちと言って過言ではない聖騎士が盗賊として野営を行っている場所は、法王国から南西十キロ程にある荒野地帯である。更に南西へ進めば元ディザスターエリアがあるのだが……どこかの元首が殲滅してしまったらしい。という訳で、南西付近はディザスターエリアが近かった事もあり、あまり開拓はされていないのだが、これくらいならば盗賊がいてもおかしくはない。

 が、しかしだ。こんなところに盗賊がいれば、すぐにでも討伐隊が組まれてしまう。それでも、ここの情報は冒険者ギルドにすら流れない。何故なら聖騎士学校が用意したある意味国営の盗賊なのだから。この違和感に気付く事も、聖騎士学校の生徒としての課題なのだろうが、まぁ、今期はその黄金期とも呼べる世代だ。これを見抜ける者は多いだろう……というのがライゼン学校長の思惑。

 だからこそランクSとも言える聖騎士が集った盗賊なんて用意したのだ。これを攻略出来る者は……おそらくエメリー、ゲオルグ、レミリア、そしてリィたんだろう。

 リィたんたちは実力的に十分。荒野にいる盗賊の数は十。小規模な集団と言えるが、リィたんたちならばそこまで策を弄さなくても攻略が可能な数と言える。故にリィたんたちには簡単な任務を振るのだろうが、こんな事、、、、をした場合、ナタリークラスの実力者でもそれが可能になってしまうのではなかろうか?


「うーん。やっぱりルークの魔力は凄いねー……引っ張っても引っ張っても底が見えないよ」


 手を繋ぎ、嬉しそうに語るナタリーちゃん。

 そう、今回の指定任務には、ナタリーは俺をサポートとして選んだ。サポートの規定には、盗賊討伐の直接関与がNGとある。つまり、俺が直接的にライゼン学校長の用意した盗賊を倒したり、正面から突っ込んだりは出来ないという訳だ。

 直接的な行動はナタリーしか出来ないからこそ、俺は魔力タンクとして間接的にナタリーに魔力を渡す事のみに専念している。


「いやぁ、グラムスさんでもこんなやり方思い浮かばないでしょう……」

「グラムスさんなら笑って褒めてくれるよ」


 ナタリーに教えた闇魔法【催眠スモッグ】。

 彼女はこの魔法にたいして光魔法【歪曲の変化】の変化を施した。【催眠スモッグ】はその名の通り、闇色に染まった煙のようなものである。しかし、これに【歪曲の変化】を掛ければあら不思議、視覚困難な水蒸気のような気体へと変わるのだ。

 遠方から野営地の前後左右、余すところなく【催眠スモッグ】を飛ばすナタリーちゃん。それを可能にしているのは世間一般では多いとされる我が魔力。

 ……あれはもう災害なのでは? と思うくらいには張り巡らされた【催眠スモッグ】の牢獄。隣で無邪気に笑うナタリーちゃんがバッと腕を振り下ろす。

 災害発動である。

 一人、また一人と倒れて行く盗賊たち。Bランクの魔法使いでもこのくらい出来るんだぞ、という意思表示かのようにランクS相当の盗賊風聖騎士が倒れていく。

 サンドイッチを食べながら登場したマスタング講師が、何やら考え込みながら俺とナタリーを見る。

 勝利のVサインを見せたナタリーの笑顔に押し負けたのか、マスタング講師は深い溜め息を吐いてから言った。


「合格である!」

「やったぁ!」


 飛び跳ね喜ぶナタリー。

 さて、実力者組はわからないが、オリハルコンズのメンバーは俺を指名する可能性が非常に高い。となると、ナタリーの攻略法がパーティ内に広まるのは一瞬だろう。

 この攻略法の共有は、冒険者内であろうと聖騎士学校内であろうと口止めする事は出来ない。何故なら、情報の共有こそが、生き残る最大の手段なのだから。

 その後、メアリィとクレアも同じ方法でこの任務をクリアした。俺が元首としてシェルフとの折衝中だというのに、何とも逞しい事である。まぁ、そう言ったところで、俺がメアリィたちでも俺を使うだろう。それは間違いない。

 案の定、リィたんには非常に簡単なゴブリン討伐任務が課せられた。しかし、何故か俺がサポートとして選ばれたのだ。

 この謎を探りにゴブリン巣窟内に潜ったが、リィたんは終始ニコニコしているだけで何も教えてくれなかった。

 そして――、


「私は絶対にルークさんの力を頼りませんっ!」


 ふふんと言い切るのは聖女アリス。


「……いや、サポートに選ばれてるじゃないですか」


 自分を指差す俺。


「大丈夫です。ルークさんは何もしなくてもいいですから」


 なるほど、何もせず隣で見ていろと。

 俺に自分の成長を見せたいというか、見せつけたいのだろう。

 しかし、ランクSになったとはいえ、アリスには難しい任務である。はてさて、どう攻略するのだろうか。

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