その645 観光ガイド
「へぇ、既にかなりの数の人間がシェルフに来てるんですね」
シェルフを歩き、見渡しながら言うと、案内人の
「これもミケラルド殿のおかげですよ。立地の関係からドワーフこそまだ少ないですけど、リーガル国は勿論、リプトゥア国、法王国からも人間の方がいらっしゃってます」
「でも、まだシェルフには人間への永住権は?」
「流石にまだですね。そこはお堅い老人連中次第なところもありますけど、世代交代も始まりつつあるので、その内、エルフの考え方も変わると思います」
「特殊な状況ですからね。ですが、国交が増えていけば、そういう風に自然になっていきますよ」
「ははは、そうありたいですね」
ダドリーは冒険者であり、VIPの護衛でもある。
クレアがメアリィの護衛に出ている今、シェルフの実力者は少ない。ダドリー自身も鍛えてはいるみたいだが、ランクSへの壁はまだありそうだな。
だからこそ、同期のクレアの活躍は気になるところだろう。
「そういえば、クレアはどうです? そろそろ武闘大会も結果が出るんじゃないですか?」
「魔法使い部門は今日決まりましたよ。戦士部門は明日です。安心してください、クレアさんもちゃんと残ってますよ」
「そうですかっ」
爽やかな笑みです事。
クレアの活躍が自分の事のように嬉しいのだろう。
腕を振り回し、『次こそは自分も』という様子だ。
嫉妬を覚えそうなものだが、ここはシェルフの国民性故か、それともダドリーの性格故か。
……まぁ、ローディ族長の護衛や、バルトの護衛を任されるくらいだ、おそらく後者なのだろう。
「ミケラルドさーん! こっち! ここのお店凄いオシャレですよ!」
あそこは聖女アリスが好きな「エルフでマカロン」こと「エフロン」のお店じゃないか。
そういえば、ミナジリ共和国にはまだ出店してなかったな。
ネムのヤツ、呼んだはいいが既に買ってるじゃないか。
「ふわぁ~! 外側はサクサクで、中がふんわりしてます! 何ですかコレッ!?」
溢れんばかりの笑みである。そのまま天界に召されそうなネムを見て、俺とダドリーが見合って笑う。
この時はいいのだ。しかし、今日の案内が終わった後、ダドリーは俺が今回シェルフに来た理由を知るのだろう。そして、今日を振り返りダドリーは何を思うのだろう。
そんな事を考えると少しばかり憂鬱になってしまうのだが、これも元首の辛いところと諦めてネムの笑顔に癒されるとしよう。
おやおやネムちゃん? そんなリスみたいに頬を膨らませてどうしたんだい? その頬には何が詰まってるのかな? 幸せかな? 幸せなのかな?
「あ、あげませんからねっ!」
なるほど、幸せ以外に強欲も詰まっていそうだ。
ネムの嗅覚、視覚、更には女の勘とやらで店を吟味する時間。案内人のダドリーも既に疲れ気味のご様子。
俺がおすすめした店なんて四店舗前の話だ。そこからはネムの気の向くまま。だからこそ疲れてしまう。
ゴールのわからない旅は気疲れしてしまうのも頷けるというものだ。
しかし、ネムの感覚は確かなのだろう。最終的に行き着く店は、シェルフの最高立地に建てられた巨大な施設。
現代で言うならばデパートと称する事が出来るようなこの店舗の看板には【バルト商会本店】と書かれている。
「いらっしゃいませ、ミケラルド様」
狙いすましたかのように現れた狐商人。それがバルト商会のボス――バルトである。
リーガル国の
俺を歓迎するかのような素振りの中に見受けられる鋭い目つき。きっとバルトは、ダドリーが俺たちを案内している最中に、会談の件をローディ族長から聞いたのだろう。
「そちらのレディは冒険者ギルドのネム殿……」
「レディだなんて、そんな……ふふ」
ネムちゃん、既にバルトの術中にハマっていらっしゃる。
まぁ、バルトも嘘は言わないからな。真贋の能力も意味を成さない。
バルトの場合は嘘を言わず真実を隠すので、こういう手合いが相手だと、真贋の能力も薄れてしまう。
「聞いたところによるとネム殿は甘味に目がないご様子」
「凄いです、ミケラルドさん! 情報が筒抜けですっ!」
「今日の案内を先んじて聴取してただけだろ」
「商人さんってやっぱり凄いんですねぇー」
バルトがニヤリと笑うと、その奥に控えていた従業員がネムに視線を合わせる。
「世界のお菓子コーナーが二階にございます。ネム殿に是非見て頂きたく」
「わぁー! 行きます! すぐ行きますっ! ねっ!?」
振り返るネムが俺に言うも……、
「ごめんネム、ちょっとバルト殿と話があるんだ」
俺がそう言うと、ネムは少しだけ寂しそうに「そうですか」と言った。だが、ネムもバルトの意図に気付いたようで、最後にはこう言ってくれた。
「お話終わったら二階に来てくださいね! 待ってますからっ!」
手を大きく振り、従業員の後を付いて行くネム。
応接室へ通されたのは俺とダドリー。
流石に長年付き合いがあるだけに、ダドリーはこちらに付くようにバルトがアイコンタクトを送っていた? ……いや、もしかしたら【テレパシー】かもしれない。
中に入ると、そこには――、
「リンダ様っ?」
ダドリーが驚いた相手は、シェルフのギルドマスター――リンダだった。
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