その634 武闘大会6
「おー、ゆっくりしてたら第一回戦はもう全部終わっちゃったのか」
エメリーが起きた後も、戦闘の考察などに華が咲いてしまった。
エメリーの戦闘法は良くも悪くも真っ直ぐ過ぎる。
勿論、俺相手という条件が付いているからというものもあるが、嫌らしい戦い方が出来ないのは弱点とも言える。その中で、最後の騙し打ちの攻撃は光るものがあった。
エメリー
「んーっと、あ! キッカさん勝ってますね!」
エメリーが勝ち上がったキッカの名前を見つけ、顔を綻ばせる。
さて、ネムはというと……、
「むぅ……ここはやっぱり手堅くアリスさんですかね……!」
賭けの倍率表を見ながらプロの顔をしている。
「今日は休みじゃないだろうに……」
俺がそう言うと、ネムは嬉しそうににへらと笑った。
「ちっちっち、今日の私の仕事はミケラルドさんのお付きですよー? ミケラルドさんは先程【開会の儀】をしっかりやってくれたので、もう私の仕事は終わりという事です」
なるほど、お付きとは言っても俺の役目が終わるまでの制限付きだったという事か。つまり、ネムは今――退勤後の一般人という事になる。
そりゃ別のプロにもなるか。
横目にネムを見るラスターの目は渋いけどな。
「あ、リィたんさん発見です!」
観客席ゾーンを指差すエメリー。
大きく手を振るナタリーと微笑むリィたん。とはいえ、あの観客席は異常だな。
ラッツ、ハン、レミリア、ゲラルド、ファーラもいるし、勿論メアリィもいる。正規組のルナ王女やレティシア、サッチの娘のサラも実力が上がってきている。だからこそというかリィたんもいるおかげで、あそこだけ魔力の密度がヤバい。
皆の手招きもあり、俺はナタリーとリィたんの間に腰を下ろす。エメリーはレミリアとメアリィに健闘を讃えられている。
「お疲れ様、遅かったじゃない?」
ナタリーに言われ、俺はエメリーと試合の反省会をしていたと説明した。すると、リィたんがあの試合を振り返りながら言った。
「あの【
水龍リバイタンのお墨付きを頂き、後ろに座るエメリーが恥ずかしそうに鼻下を擦る。
「へへへ……」
俺はそれを見てくすりと笑った後、ラッツとハンに言った。
「そういえば、キッカはどうだったの?」
「殴って勝ちました」
「は?」
「まぁ……どう言い繕ってもそうなるわな」
ハンがフォローしようにも、ラッツの単刀直入な言葉通りらしい。魔法使い部門で殴って勝つ、か。気になった俺は、ナタリーちゃんに補足希望のアイコンタクトを送る。
「杖に光魔法【シャイン】を掛けたの」
「【シャイン】って強力な閃光魔法の、アレ?」
コクリと頷くナタリー。
俺が開発した【フラッシュ】ではなく、戦闘の攻撃用途、援護用途として使う強力な閃光魔法。それが【シャイン】である。それを杖に掛けたって事は……。
「もしかして指向型に?」
「せーかーい」
本来【シャイン】は周囲を照らす魔法である。それを上手く杖の先端に掛けたならば、指向型のフラッシュとなる。相手に究極の目潰し閃光攻撃をし、目が眩んだ隙にポカン。
魔法を使ってるし、魔法を掛けた杖で殴ってるし、確かに魔法使い部門のカテゴライズではあるが、相手選手もこの戦闘法は予想だにしていなかっただろう。
なるほど、上手いこと省エネ魔力で頑張ってるみたいだな。流石は魔帝グラムスの二番弟子。やる事が一癖どころか二癖くらいあるな。
「あ、アリスちゃん出て来た!」
ナタリーが立ち上がり、試合場に出てきたアリスを指差す。
ふむ、流石に人前に出慣れていらっしゃる。顔に緊張は見られないし、魔力も落ち着いている。
しかし、対戦相手の魔法使いは緊張が見て取れるな。こりゃ一瞬でケリがつくな。
「始め!」
予選故、悠長に観客の反応を待つ訳ではない。
淡々と進められる試合開始の合図と共にアリスが駆けた。
……駆けた? あの子、戦士部門だったっけ?
「プロテクションッ! はぁあああああっ!!」
駆けながら
「……な! なっ!?」
対戦相手の魔法使いに、アリスはどう映ったのだろう。
俺としては、聖女ゴリラ計画は水面下で着々と進んでいる事にホッとしているが、対戦相手は聖女が向かってくるのかゴリラが向かって来るのかわからなかっただろう。
さて、話は変わるが、ネムが参加している武闘大会の賭けには、勝敗を決める「決まり手」を当てるという賭け事もあるそうだ。これが当てられると非常に倍率の良いバックがあるのだとか。
だがしかし、今回の場合、それを当てられる者はいないだろう。皆無と言っていい。
何故なら――、
聖女アリス初戦の決まり手――プロテクションタックル。
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