◆その623 若き日の思い出1
無数のモンスターを前に奮戦するパーティ。
先頭に立ち指揮を執る黒髪の男。
「
「「了解!」」
これは、はるか昔に存在した伝説のパーティ【聖なる翼】に所属した勇者レックス……の話ではなく、彼らを支える一人の聖女の物語。
「ぷはぁ! 頑張った後の水は最高だな、イヅナ!」
快活にそう言った者の名はレックス。勇者として天啓と天恵を受け、【覚醒】して間もない
「はぁ……何でこんなヤツが勇者なんだ……」
レックスの隣で呆れ、
「神様の趣味に文句を言わない方がいいわよ、イヅナ」
杖の先端部の水晶を磨く女の名はヒルダ。強い魔力を秘めた巧みな魔法使いだが、それ以上に彼女の持つ、世界やモンスターに関する深い知識が武器である。
そして――、
「……頑張ってるのはどう考えても私たち三人よ」
仏頂面でレックスをじーっと見る女こそ聖女アイビス。【聖加護】のコントロールは、長い聖女の歴史の中で一番と言われているものの、勇者レックスに振り回され、魔力が枯渇にまで追い込まれる事もしばしばある。
アイビスの言葉に首を傾げるレックス。
「それはどういう事だい? 僕が頑張っていないと?」
「頑張ってたら今日私たちはこんなところで休憩してないわよ」
アイビスの意見に同調するのはイヅナだけではなかった。
ちゃっかりとヒルダもうんうんと頷いているのだ。
「……はて?」
再度首を傾げたレックスを前に、イヅナが立ち上がる。
「あのな! 普通、法王陛下との謁見の日を忘れるか!? 依頼受けて、その佳境になって『あ、そうだ』とか間抜け面で思い出すってどういう事だよ!? おかげで、ここまで、休憩なしで、頑張って! 頑張ったのに褒めてくれる人はいない! 何故ならパーティリーダーが間抜けなせいで自業自得なんだからな!」
「大丈夫」
「何が大丈夫なんだよ!?」
「この速度なら謁見の日までには間に合う計算だよ」
と、レックスが爽やかな顔で言うも、イヅナの顔を真っ赤にさせるだけだった。
「っっ~~! てめぇ! 今日こそ、そのド天然の頭をド突いて矯正させてやる!」
「おっ、剣の稽古かい? それはありがたい! イヅナの剣は何度見ても勉強になるからな!」
「【覚醒】したからって調子乗ってんじゃねぇぞ! 剣の錆にしてやる!」
レックスとイヅナの剣が交じり合う中、アイビスは深い溜め息を吐く。
「はぁ~……」
「どうしたの?」
ヒルダが聞くも、膝を抱えて座るアイビスは再び深い溜め息を吐いた。
「はぁ~……」
そして、レックスの背中を見ながらヒルダに言ったのだ。
「謁見の日には間に合うと思うんですけど……絶対ギリギリですよ」
「そうね……この調子なら謁見の三時間前に法王国に到着ってところかしら」
「ホーリーキャッスルの前入りを前提に準備時間を考えたらお風呂にすら入れないです……」
ピクリと止まるヒルダ。
「……そういえばそうね」
「おまけに徹夜続きで動いてるので見てください、この目のクマ! こんな状態で法王陛下に謁見するって……どうなんです?」
「……不本意だけどそれは大丈夫でしょう」
「どうしてです?」
「法王陛下はレックスの性格をよく知っておいでだから」
「確かにそうですね……でも私にも世間体ってものがあるんです……」
膝に顔を
「あなたがいてくれて助かってるわ、アイビス」
「い、いきなりなんですか、ヒルダさんっ」
「単純な事よ。過去の勇者、聖女は皆、力のコントロールを壁としていた。けれど、あなたの聖女としての力は、過去のどの聖女よりも早く成長し、コントロール出来ている。だからこそレックスはあの若さで【覚醒】に至った。そうじゃなければ、これまで以上の窮地があっただろうし、もしかしたら私たちは全滅していたかもしれない。だからこそ私は、このパーティの
「そんなっ、私はいつもヒルダさんに助けてもらってます! そうじゃなければ私はもう――」
「――私のは師匠の教えをひけらかしているだけ。私自身の力なんて……」
すんと鼻息を吐いたヒルダを不甲斐なさそうな表情を見て、アイビスは何も言えなくなってしまった。
だからこそヒルダはそれに気付き、話題を変えたのだ。
「ところで、このパーティのパーティ名について質問があるのだけれど」
「うっ!?」
ヒルダの質問にアイビスが驚き、顔を背ける。
「私はパーティが結成してから加入したから、その由来を知らないんだけど、どうしてこのパーティは………………聖なる何とかなんて名前なの?」
(凄い、パーティメンバーがパーティ名を誤魔化してる……)
アイビスは、ヒルダの真剣な質問に、何も言えなくなってしまった。
だからこそヒルダはそれに気付き、話題を変えなかったのだ。
「これは言って欲しいわね」
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