◆その549 お買い物
ナタリーが皆に提案した買い物には、多くの者が付き添った。
リィたんとナタリーが先頭を歩き、クレアとメアリィがその後ろに、更に後ろを歩くレミリアの隣には途中から呼ばれたキッカが、そして、最後方にエメリーとアリスが歩いていた。
目的の店舗に向かう途中、エメリーがアリスに語り掛ける。
「アリスさん……先日の事――」
「――先日? もしかしてミナジリ共和国の事ですか?」
アリスが言ったのは国の名前のみ。
これは、ミケラルドが大々的に勇者と聖女をミナジリ共和国に招いた事もあり、闇ギルドも有している情報だからである。しかし、アリスはその内容の深くには
何故ならそこには、賢者プリシラという秘匿にすべき名前があるからだ。
「あの話、どう思いますか?」
「ん~……私もイマイチピンときてないんですよね」
それは、ミナジリ邸で会ったプリシラに、元首であるミケラルド・オード・ミナジリが退出させられた後の出来事だった。
◇◆◇ ◆◇◆
「――美味しいのを頼むよ」
「美味しいですよ」
ミケラルドがプリシラに皮肉を言った後、プリシラの部屋の扉は閉められた。
「見たかい、あの顔?」
「見ました。あの顔は中々見られませんっ」
「お、今回の聖女はノリがいいね」
言いながらプリシラはエメリーを見た。
そのエメリーはちらりと天井を見ていたのだ。
「うんうん、優秀だねぇ。ラジーン君?」
ミケラルドを退室させたのであれば、プリシラは三人での密会を希望している。その考えを見抜いたエメリーは、ラジーンの存在をどうするのか考えていたのだ。
「……何か?」
天井からラジーンの声が聞こえてくる。
「君の
その後、プリシラが
「随分と慎重なんですね?」
「ここの警備は魔族四天王の住処以上だからね。これくらいは当然さ。さて、音の遮断も終わったところでアドバイスその二だ」
賢者プリシラが味方であるミケラルドを退室させてまで用意した場、エメリーとアリスが気にならないはずがない。二人はプリシラの顔を覗き込むように耳を傾けた。
――――彼の助けになってやって欲しい。
それは、アドバイスとは形状し
◇◆◇ ◆◇◆
「理由は上手くはぐらかされちゃいましたからねぇ」
腕を組み、難しい顔をしたアリスにエメリーが言う。
「私、まだまだミケラルドさんを助けられるような事出来てないですよね」
「そ、それはっ――……私もだったり……」
焦りを見せるもすぐに俯き、過去の自分を後悔するかのようなアリス。
「でも、どうしてあの人は敢えてあんな事を言ったんでしょう?」
そして、率直な疑問をエメリーにぶつけたのだ。
「え?」
「だってそうでしょう? そもそもミケラルドさんはオリハルコンズですよ? パーティメンバーだったら助けるのは当たり前じゃないですか」
アリスはオリハルコンズの初期メンバー。
「ぁ……確かにそうですね」
「私たちだけにそう言った理由が……う~ん、わからない」
「……私たちにだけしか出来ない事?」
「それはつまりリィたんさんにも出来ない事――」
「――魔王討伐」
エメリーが口にした言葉は、二人に与えられた大きな使命。
しかし、現段階では二人の力は余りにも弱い。
そう考えた時、二人は見合いプリシラの言葉を思い出す。
――――彼の力はその内……魔王の首元に届き得る。
それを思い出した時、エメリーは自身の手を握り拳を作った。
「……もしかして魔王は、私たちが思っているよりずっと早く誕生するんじゃ?」
「でも、勇者の覚醒に合わせて誕生するって話じゃありませんでした?」
「「…………う~ん」」
当然、賢者プリシラの意図は二人には読めないままだった。
決して解けない問題に対しいつまでも悩んでいても仕方がない。そう考えたエメリーは、パンパンと自分の頬を叩きその迷路から逃れる。
「うん、とにかくミケラルドさんに追いつけるよう頑張るだけですね」
「私としては、思いっきり抜き去りたいところですっ」
ふんすと鼻息を荒くしたアリスに、エメリーが苦笑する。
そして、思い出したかのように言ったのだ。
「そういえば、何で
そう、この団体が向かっているのは法王国のミケラルド商店。
買い物をする上で、アリスが
「【
「
「えぇ、【ダークヒール】って魔法です」
それは、アリスがプリシラの言葉に従ったからなのか、彼女が聖女だからなのか、それともまた別の理由なのか。
それは誰にもわからない。しかし、隣を歩く勇者には同意を得られたのだ。
「いいですね、私も買います!」
勇者と聖女――光魔法を得意とする二人が覚える魔族用回復魔法【ダークヒール】。この異例とも異常とも呼べる事態に、彼女たちの仲間は、オリハルコンズの仲間は、誰一人として反対する者はいなかった。
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