◆その531 不死王リッチの動き
最後方で戦うエメリーたちへの
正面で尚も戦いを続けるミケラルドを見ながら魔人が唸る。
(なんという化け物。あの分裂体のせいでスパニッシュ殿とレオ殿の動きが制限されたと言ってもいい。何よりも解せないのは、あの分裂体の戦闘力を保ちながら。この本体の戦闘力が落ちていない事。この私と同等の実力者……
ミケラルドと魔人の戦いは、正に一進一退と言えた。
ミケラルドの攻撃が決まるもそれは決定打にならず、魔人の魔法によって回復し、魔人の攻撃が決まるも決定打にはならなかった。
互いに有する魔力は有限ながら膨大。戦争という特殊な状況故、その魔力を一気に消費する事は両者にとって避けたい事であった。
後方の動き、前線の動きは停滞。
ならば、次に動くのは不死王リッチしかいなかった。
戦局を見渡す位置にいる敵軍最後方のリッチは、スパニッシュとレオ、そして魔人を見た後、更なる【闇空間】を真横に広げた。
(くそ、やっぱり動いたか! っ!?)
「よそ見とは感心しないな」
「ぐぁ!」
ミケラルドはこれに気をとられ、魔人の一撃をもらってしまう。
吹き飛んだミケラルドが、体勢を直しつつ魔人を睨む。
「にゃろう、いつか操ってやる」
直後、リッチが展開した【闇空間】から雄叫びが轟く。
「魔獣族――ドッグウォーリアで構成された一団か。あれが最後の援軍であって欲しいものだな」
ミケラルドは血が垂れる口を拭って言った。
両翼に広がったグール、レイス、アークレイスの猛攻を受ける法王国騎士団と、ガンドフ陸戦隊。彼らにこれ以上の負担は不可能である。
(それに加えて……奴か……!)
ドッグウォーリアーの軍団が闇空間から出た後、その後ろから最後に出て来たのは――リプトゥア国の元国王――ゲオルグ・カエサル・リプトゥアであった。左翼の冒険者集団の中にいる息子ゲラルドがそれを見てピタリと止まる。
「……親父……」
キッカ、ラッツ、ハンもこれに気付き少なからず動揺を見せていた。
「あれってゲオルグ王だよね……?」
「魔族軍に付くとはな。かつての王とは思えんな」
「どうせ戦力を対価に国を取り戻す約束でもしたんだろ……だが――」
ハンは言いかけるも言葉に詰まった。
何故なら、実力者で構成された冒険者たちにも、目の前に広がる絶望を拭えなかったからである。
今現在、眼前に迫るドッグウォーリアーを抱えられる余力はどこにもない。戦意喪失に近い両翼には援護が必要。
ミケラルドは後方に分裂体を送りつつ、更なる援軍を要請していた。
リィたん、ジェイル、
「――どーん♪」
降り注ぐ魔力弾の数々。
それらは、出現したばかりのドッグウォーリアーを巻き込み、魔獣軍に甚大な被害を与えた。
ピタリと止まる不死王リッチ。
その視線は空へと向かい、不遜にリッチを見下ろす魔法使いが一人。
「正に絶体絶命だったってやつ? あはは、僕ってもう救世主でしょ」
ゲオルグが見上げ、睨む先にいたのは――、
「【
「あ、筋肉男発見」
指で眼鏡を作って覗くパーシバル。そんなおどけた態度に喝を入れる拳が一つ。
「っ!? アイテッ!?」
鈍痛に頭をおさえるパーシバル。
パーシバルの頭をどつける人間はこの世界に多くない。
パーシバルが涙目になって見上げる人物、それはパーシバルに魔法を指導した師匠に他ならなかった。
「何を調子に乗っとるんじゃ! 魔族四天王を前に気を抜くでない!」
空に浮かび、パーシバルに拳骨を喰らわせた男――【魔帝グラムス】。
「くぅうう~……いてぇ……」
「修行が足らん!」
「そう言いながら僕が教えてあげた【エアリアルフェザー】、まだぎこちないじゃないですか――アイテッ!?」
「お前が早すぎるんじゃ!」
「今の僕関係ないじゃないですか!」
「言い争っとる場合か! くるぞぃ!」
二人の眼下では、不死王リッチが強大な魔力をまとめ、ゲオルグが剣に魔力を集中させていた。
両者は示し合わせたかのように空に浮かぶ二人に向かい魔力と斬撃を飛ばす。
しかし、
「「【エアウォール】」」
破壊魔と魔帝が繰り出した風の盾は、リッチとゲオルグの力をもってしても貫く事は出来なかった。
対峙し合う四人の間を縫うように、ミケラルドが飛んでくる。魔人が追いかけその猛攻を防ぐミケラルドがパーシバルとグラムスに対し【テレパシー】を発動する。
『悪いな、急に呼んで』
『ホントだよ、何? ソイツが魔人?』
『厄介な相手じゃの』
『そっちはリッチとゲオルグを頼む』
『ふん、任せんかい!』
『あ、僕との約束忘れないでよね!』
『わかってるよ、そもそもミナジリ共和国でお前を匿うって契約書だったろ?』
『契約の再確認はジョーシキだよ』
(ビビリなだけじゃろうに……)
呆れ眼で横にいるパーシバルを見るグラムス。
破壊魔パーシバルと魔帝グラムスの出現に驚いたのは、何も連合軍だけではなかった。
「……解せないな」
魔人の言葉は、正面に着地したミケラルドにかけられたものではなかった。
ミケラルドは自身の肩の土汚れを払うようにポンポンと叩きながら、魔人を見ていた。
(正直、このタイミングでパーシバルを戦争に参加させたくはなかった。ここにパーシバルを呼んでしまったが最後。パーシバルは闇ギルドの標的と化す。もう少し
各地で起こる戦闘は時間と共に大きくなる。しかし、それが最大を迎えた時、戦闘は消耗戦と化す。不死王リッチが次なる行動を起こさない以上、両者の手駒は戦場に出揃ったのだ。
リプトゥア防衛線は既に昼近く、佳境を迎えるのだった。
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