その519 連合軍
「ミケラルド様、お久しぶりにございます」
俺の前にやってきた大男は、姿勢をぴんと伸ばし俺に敬礼して言った。
「【ストラッグ】さん、お久しぶりです」
アルゴス騎士団長含む法王国の騎士団。その第二部隊の隊長が彼である。
オリハルコン輸送任務の時から成長が見て取れる気力だ。
「聖騎士団の方々は?」
「我々は先発隊ですので、後発の聖騎士団とは別行動なのです。しかし、我々が発った翌日には出発しているので、彼らの脚を考えれば間もなく到着かと」
「わかりました。後程オルグ団長にもご挨拶に伺います」
「指揮官殿相手にそういう訳にもいきません。団長もこちらに到着次第、
「助かります。何か不足はありますか?」
「これといって。この後は参加冒険者の部隊編成を行う予定です」
「わかりました。何かあればいつでも連絡を」
「はっ! 失礼致します!」
ストラッグが去った後、いや、ストラッグと話している間ずっとなのだが、隣に控えるアリスの横目が疑念を体現しているかのようだ。
「何ですか、アリスさん?」
「いえ、ちょっと意外だったので」
「真面目に仕事をしているのが?」
「のが」
うんうんと頷くアリスはとても面白い。
「少しは隠してくれてもいいんですよ?」
「オリハルコンズの初期メンバーの一人に、『思った事は口にしよう』と教わったもので」
「誰ですか、その人?」
「誰でしょうね?」
直後、ノシノシと大地を小さく揺らしながら現れた大男。
それを見て硬直したアリスと、反対に顔を綻ばせるエメリー。
「ドゥムガさん!」
「お、何でぇ? お前も来てたのか」
ダイルレックスの姿で登場すれば、流石にどん引きしてしまう人間も多かろう。
事実、ラジーンの話ではリーガル国との最初の合流が一番大変だったと聞くからな。
魔族と人間の共存。言葉にするのは簡単だが、その道のりは果てしなく長いものだ。
今後は国同士の合同演習も必要になってくるかもしれないな。
「はい! お世話になります!」
エメリーがドゥムガにそう言うと、ドゥムガは呆れ眼で返す。
「アホか、お前らが俺たちの世話をするんだよ」
「ひっ!?」
と、小さな悲鳴をあげたのはアリスちゃん。
一体彼女の頭の中ではどんな世話模様が浮かんでいるのだろうか?
「勇者エメリーと聖女アリスが最前線で戦うからこそ、人間たちは前に進める。そう言ってるんですよ、ドゥムガは」
俺が補足すると、アリスは焦ったように言う。
「あ、あはははっ。そ、そうですよね。大丈夫です、頑張ります!」
そんなアリスを見たドゥムガが言う。
「おいガキ、話に聞いてたより肝っ玉あるじゃねぇか」
「そんな事ないよ。話通りだから」
「あん?」
「まだドゥムガの話に脳が追い付いてないだけだから」
すると、ドゥムガの言葉の
「さいぜん……せん?」
「そ、私とエメリーさん。そしてアリスさんの三人で最前線に出ます。というか一番槍です」
「そ、そんな事聞いてないですっ!?」
「それを言う場とタイミングがここですね」
「そんな大事な事をっ!?」
「作戦会議室以上に言える場がないのが実情でして」
「そうだとしても! そうだとしてもですよっ!?」
「エメリーさんの覚悟とはえらい違いですね?」
俺がちらりとエメリーを見ながら言う。
エメリーは自分の小さな拳を強く握りながら震えていた。
あれは震え、というよりは武者震いなのだろう。それは、彼女の強い目を見れば
「わ、私だって覚悟はしてます!」
ぷんぷんアリス丸も、生半可な覚悟ではここに来ていない。
「ただちょっと驚いただけですっ」
正に、この言葉通りなだけなのだろう。
「安心してください。お二人ともこの一年で成長しています。そんじょそこらの魔族には負けませんよ」
「何心配してんのか知らねぇが、一番の安全地帯だろ?」
意外なフォローを入れてきたのはドゥムガだった。
「へ?」
アリスが小首を傾げる。
「このガキの近くにいるんだったら死ぬのが難しいくらいだってんだよ」
作戦会議室の椅子にどかりと座ったドゥムガ。
ぽかんとするアリスだったが、皆がそれに反応する前にラジーンたちがやって来た。
「「ミケラルド様」」
深く頭を下げるのは、ラジーン、ドノバン、コバック、イチロウ、ジロウの五人。かつて闇に生きていた者たちである。その異様な空気に当てられたのか、アリスの喉が一つ鳴った。
「エメリーさん、アリスさん。そろそろ会議が始まります。そこへ掛けてください」
「はい」
「は、はいっ!」
エメリーは落ち着いているが、やはりアリスの気持ちが揺れているな。
戦場慣れなどするものでもないが、ここはエメリーに一日の長があるだろう。
やがて作戦会議室に現れる強面たち。法王国の騎士団長アルゴスもその一人である。
聖騎士団長のオルグがまだ来ていないのが残念ではあるが、仕方ない。
「では、作戦会議を始める」
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