その477 真実

「まず手を抜いた理由だ。当然【ヘルワーム】を殺さないためだ。そしてその殺さない理由が奴の【自浄能力じじょうのうりょく】にある」

「じじょうのーりょく?」


 パーシバルがコテンと首を傾げると、俺は補足するように言った。


「自然が自然を直したり綺麗にしたりする事だよ」

「つまりどういう事?」

「なるほどね、あの【ヘルワーム】には大地を豊かにする能力があるのか」


 確かにミミズっぽいしな。

 頷く木龍グランドホルツに、今度はグラムスが首を傾げる。


「奴が死んでたらどうなってしまうんじゃ?」

「このディノ大森林の自然は【ヘルワーム】によって成り立っていると言っても過言ではない。これだけの木や植物に栄養を与えているのは【ヘルワーム】だ。奴自身はそんなつもりがなくてもな。もし奴がいなければこのディノ大森林はとっくの昔に枯れ果てていた」

「何とっ!?」

「ふぇ~、あんな奴がぁ?」


 グラムス、パーシバルが各々の感想を述べるのも束の間、木龍は俺に【真実】を教えてくれた。


「私は自分の魔力を餌に、【ヘルワーム】を誘導して草木の生命を守っている」

「あー、だからここら辺に隠れてたのか」

「その通りだ。ここら一帯は何もしなければ数十年で枯れ尽きそうだったからな」


 だから俺も、その真実に一歩踏み込んだのだ。


「だから【木龍】、なんだね?」

「っ!」


 俺がそう言うと、木龍は俺をじっと見た。


「え、どういう事?」

「お主は黙っとれ」


 俺はずっと気になっていた。

 木龍が何故木龍と呼ばれているのか。何故その木龍が俺と戦う時に使っていたのが【風魔法】なのかを。


「【風龍】、それが木龍と呼ばれる前にアナタが呼ばれていた種だ」

「「っ!?」」


 グラムスとパーシバルが見合って驚きを見せる。


「ふっ、そこまで気付いていたか。他の龍族ですら知らぬ真実に」

「風で種を運び草木と化す。その命を守っているならば、なるほど、木龍と呼ばれても仕方ないね」


 そう、俺はずっと気になっていた。

 この世の魔法属性と龍族の関係性について。

 水龍リバイアタンが使える魔法は水属性、当たり前だ。

 炎龍ロードディザスターなら火魔法、地龍テルースなら土魔法、雷龍シュガリオンなら雷魔法。ならば木龍グランドホルツは?

 以前、リィたんに霊龍が扱える魔法は光魔法と闇魔法だと聞いた。

 しかし、風魔法を操る龍族の話は聞かなかった。

 リィたんも水魔法と風魔法を使える。しかし、それは相性の問題である。

 風魔法を得意とする龍族の話は聞いた事がない。

 しかし、この戦闘で明らかになった。

 木龍グランドホルツの風魔法は異常なまでの硬度を持っていたのだ。

 木龍グランドホルツという巨体を超スピードで受け、蹴り、縦横無尽に俺に体当たりをかましたあの力。風の膜――どころではない。

 木龍が得意とする魔法は風魔法。それがわかった時、俺の推測は終えていた。

 後は答え合わせのみ……と思っていたが、やはりその通りだったようだ。


「風龍改め木龍。ようやく魔法と密接な龍族の真実に一歩踏み込めた気がするよ」


 俺がそう言うと、木龍はニヤリと笑って言った。


「ふっ、それは何よりだ」

「そういえば雷龍がこっちに来なかった?」

「【雷龍シュガリオン】の事か?」

「そうそう、アイツ最近やんちゃして回ってるみたいよ。炎龍ロードディザスターの親も殺しちゃったみたいだし」

「それも雷龍シュガリオンの役目だ」

「うぇ!? マジか……」

「あれは龍族の強さを維持するために、軟弱な龍族を叩いて回っているだけだ。親が死んだのであれば、それは雷龍の意思。子の方が潜在能力が高いようだな」


 何だこの木龍? まるで生き字引じびきみたいだな。


「鍛練を怠っている龍族の前にこそ現れるが、精進を止めない龍族の前には現れぬよ」

「は、はははは」


 そう言えば、リィたんって嘆きの渓谷を根城にしてたから鍛練なんてしてなかっただろうしな。俺と遊べるようになってようやく前に進むようになったし……そう考えるとリィたんが成長を目指してから雷龍は俺たちの前に現れていない。

 …………龍族の役割か。ん?


「もしかして水龍や炎龍にも役割があるの?」

「無論ある」

「今あの二人、人間界にいるんだけどまずいかな?」

「安心しろ、水龍と炎龍は生きているだけで世界に影響を及ぼす」


 何それ、怖い。


「水龍と炎龍の魔力は特別でな、雨や太陽などの恵み、主に世界の調和に使われている」

「使われてるって……勝手に吸い取られてるって訳じゃないの?」

「そのための霊龍だ」

「あ、なるほど」


 霊龍……まるで世界の支配者のようだな。

 ……待てよ、支配者?


「もしかして霊龍って……ダンジョンとか造ってない?」

「……お前には何も隠せぬようだな」

「どうも、ミケラルドです。ミックとお呼びください」

「ではミック、何故霊龍がダンジョンを造ったかわかるか?」

「人間を叩き強くする力――魔族に対抗する力を付けるため?」

「それでは正解はやれんな」

「ん~……あ、人間の退化を防ぐためかな?」

「ふむ、及第点と言ったところだな」


 木龍がそう言うと、パーシバルが肘で俺を小突いた。


「おい、どういう事だよ?」

「ダンジョンの報酬って戦闘に役立つものばかりだろ? 世界が平和になったらダンジョンに潜る絶対数が減ると思わないか?」

「……確かに」

「そうなると、人間の戦力も徐々に弱くなってくる。これは俺の予想だけど、ダンジョンに潜ってた世代がギリギリ生き残っている時代くらいに、魔王の誕生が起きてるはずなんだけど?」


 ちらりとグラムス爺ちゃんを見る。


「……目から鱗じゃな」


 そう、世界は霊龍という名の監視者によってバランスが保たれている。

 しかし、勇者や魔王すらもバランスを保つための道具だと言わんばかりである。

 それも崩れつつある。俺という存在。そして、ジェイルという勇者殺し。更には闇ギルド。

 もしかして世界は、この時代を境に大きく変わってしまうのではないだろうか。

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