◆その475 本気対本気

「っ! ガァアアアアアアアアアアアアアッ!!」

「うおっ!?」


 突風の如く吹き荒れる魔力の嵐。

 ミケラルドに油断はなかった。しかし、そのミケラルドが顔を歪ませる程の魔力を、木龍グランドホルツは見せたのだ。


(リィたん以上じゃないか? もしかして木龍は、ヘルワーム相手に手こずっていなかった? ……この魔力を受けるに、そう感じられる。わざとヘルワームと互角を演じる事で何かをしていたというのか?)


 ミケラルドの疑問は解消される事はなかった。

 しかし、一つの解は得られた。木龍グランドホルツはこれまで手を抜き、ミケラルドすらも欺いていたのだと。


「あ、あんなの……人間に相手出来る訳ないじゃんっ!」


 木龍グランドホルツ指差して言った破壊魔はかいまパーシバルと、ゴクリと喉を鳴らす魔帝グラムス。


(水龍リバイアタン、炎龍ロードディザスターと続き、遂には木龍グランドホルツか。地龍テルースを救い出すためとは言え、多くの龍族が今人間界に集まりつつある。それを一括りに小僧ミケラルドの仕業と言っていいものか。確かにミケラルドを中心に、戦力が人間界に集中しつつある。しかし、それは『それ以上の脅威に対抗するため』なのではないか? 雷龍シュガリオンの存在だけではない。霊龍、魔族四天王……そして魔王。勇者、聖女がミナジリ共和国の元首と交友し、人間界の力は大きく成長しておる。人間界の悪の巣窟――闇ギルドすらも呑み込まんとする力。それでも拭えぬこの不安は一体何じゃ……?)


 木龍グランドホルツの魔力を受け、腰を落としミケラルドも魔力を放出する。

 これを受け、木龍グランドホルツもミケラルドが持つ魔力に驚きを隠せない。

 目を見開きミケラルドを見るその姿は、驚き以上の警戒があった。


(……やはり、そういう事なのか)


 木龍グランドホルツが駆け出す。先程の突進が嘘のような神速とも呼べる速度。


「速っ!?」


 木龍グランドホルツの攻撃はミケラルドの虚を衝いた。ミケラルドの魔力解放状態が万全でない事、実力の底を全て見せていなかった事、そして、ミケラルドの呼吸のタイミングを読み、それを狂わせた事。この三つが重なり、ミケラルドはその突進を受ける事は出来なかった。

 横に動く事でそれを回避するも驚異的な風圧で頬に傷を負う。


(……戦闘のキャリアが半端じゃない)


 これを卑怯と称するミケラルドではない。

 木龍グランドホルツの戦い出しは非常にしたたかだった。

 風魔法で作った壁に跳弾するかのように跳ね返った木龍グランドホルツが、再度ミケラルドを狙う。


「くっ!」


 何度も、


「攻撃させない気かっ!」


 何度も、


「上かっ!?」


 何度も、


「【地泳ちえい】もっ!?」


 何度も。正に縦横無尽じゅうおうむじん

 ミケラルドを中心に三次元的な攻撃を繰り広げる木龍グランドホルツに、ミケラルドの傷は増えていった。決して深くはないものの、ミケラルドを傷つける風圧は竜巻を生み、その竜巻が更にミケラルドを切り刻んだ。


(防御能力を展開してもこの威力。裸だったらとっくに負けてるな……)


 木龍グランドホルツの実力を認めた上で、ミケラルドは困っていた。


(身動きがとれない……!)


 竜巻に囚われつつも、木龍グランドホルツの攻撃が緩む事はない。

 それどころか、木龍グランドホルツは更に速度を増していたのだ。

 これに違和感を覚えたミケラルドが一つの解にたどり着く。


(……なるほど、この竜巻を利用して速度を上げてるのか。なら、とっかかりはその依存、、にあるかな?)


 身動きのとれないミケラルドが起こす行動は限られていた。

 次に跳ね返って来た木龍グランドホルツがミケラルドを見ると、その目は血のように赤く染まっていた。


(やはり、吸血鬼。風の噂で魔族が人間界に建国した事は聞いていた。先の情報がなければ特定が困難だったが……ふっ、私に情報を与えた事が敗因だったな。吸血鬼ならばこの状況下で使う手は一つ――サイコキネシス!)


 長く生きる木龍グランドホルツは、当然その可能性も視野に入れていた。

 だが、その使用用途については想定していなかったのだ。


(障壁? 反撃? いや、これはっ!?)


 上空からそれを見ていたグラムスが唖然とする。


「木龍の速度に手を貸しおった……!」

「なっ!? そんな事してどうするんですか!」


 パーシバルもミケラルドの行動に驚きを隠せなかった。

 そしてそれは木龍グランドホルツも同じだった。


(ひ、引き寄せられる!?)


 まるで木龍グランドホルツの背をぐっと押すように、サイコキネシスを使ったミケラルド。


(くっ、ならばこうするまで!)


 そのコントロールを失う訳にもいかず、木龍グランドホルツはその速度に身を任せた。ミケラルドは傷だらけになりながら木龍グランドホルツの速度を上げていった。

 跳ね返る度、跳ね返る度、木龍グランドホルツの速度は上がり、遂にはその速度をコントロール出来なくなる。

 耐えきれなくなったのは、木龍グランドホルツ自身の身体を跳ね返すために受け止める風魔法だった。その巨体を受け切る事が出来ず、木龍グランドホルツは跳ね返る事が出来ず、その身体を大地に付ける他なかった。

 そしてその衝撃は、木龍グランドホルツ本人すらも経験した事のない衝撃と言えた。


「どーん♪」

「あ、アイツまた僕の決め台詞をっ!」


 竜巻を強引に切り裂き、吹き飛んだ木龍グランドホルツを人差し指で指差して言ったミケラルドに、パーシバルが悪態を吐く。


「いやぁ、危なかった……」


 膝に手を突き、疲れを演出するミケラルド。

 しかし、その顔に一切の疲れはなかった。

 見据える先は木龍グランドホルツが吹き飛んだ場所。だがその場所には、既に木龍グランドホルツの姿はなかった。


「だよね、勝負はまだ始まったばかりだし」

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