◆その474 支配者

「ほっ、あの姿は正に支配者じゃな」

「さっき入ったばかりでしょう。あれはただの森の厄介者ですよ」


 グラムスの見解にパーシバルが物申すも、二人には眼下で繰り広げられる戦闘をどうこうする力はなかった。

 スプリング状になった【ヘルワーム】が、尾で大地を弾きミケラルドへ一直線に向かう。


「ふっ!」


 腰を落とし足を踏ん張らせたミケラルドがそれを受けると、【木龍グランドホルツ】が巨大なブレスを吐いた。がしっと【ヘルワーム】を掴んだミケラルドはそのまま大きく振り、【ヘルワーム】の身体でそのブレスを防ぐ。

 高く打ちあがったブレスを見上げ、パーシバルが乾いた声を零す。


「ナニアレ……」

「かわす、いなすが人間の考える術。しかしこれは想像出来なかったのう。防ぎ方が最早もはや怪獣じゃな」


 その直後、ミケラルドは二人の予想だにしない事をしたのだ。


「おうらっ!」


【ヘルワーム】を空高く投げたのだ。その速度は、先程打ち上げた【木龍グランドホルツ】のブレスを追い抜く程だった。

 そしてブレスを追い抜くと、ミケラルドは【サイコキネシス】を使い空に強固な天井を作ったのだ。見えない壁にぶつかった【ヘルワーム】が天からミケラルドを睨むのも束の間、【木龍グランドホルツ】のブレスがそこめがけて着弾する。


「っ!? ぎぃいいいっ!?」


 身をそらす事で直撃は防いだものの、その余波は【ヘルワーム】の体力を確実に奪った。そんな一連の行動を見て目に驚きを浮かべていた【木龍グランドホルツ】だったが、それは何かの夢だったかのようにかぶりを振り、ミケラルドめがけて突進を始めた。


「ヘルワームの二の舞になるのでは?」

「木龍には知恵があるからのう」


 パーシバルの問いにグラムスが顎を揉みながら答える。


「っ! 風魔法【ヘルメスの靴】か」


 速度が向上した木龍グランドホルツを見て、ミケラルドが呟く。

 そして、射程距離に入った瞬間、木龍グランドホルツは急ブレーキを掛け、勢いそのままに身体を反転させたのだ。ミケラルドの上段から木龍グランドホルツの尾撃が振り落ちる。

 これを受けたミケラルドは砂塵舞う中姿を消した。

 大地に身体を沈められたミケラルドは、そのまま大地に潜り、【地泳ちえい】を発動して木龍グランドホルツの背に出た。


「ちょっとお話があるんですけどぉ!?」


 大地から飛び出たミケラルドの言葉は木龍グランドホルツを驚かせた。

 何故なら、対話を求めた言葉の後に、ミケラルドから拳が届いたからだ。


「……酷い」

破壊魔はかいまパーシバルの言葉とは思えんな。ま、ありゃ剣鬼っぽいがな」


 大地に身体を倒した木龍グランドホルツ。しかし、天から体勢を整えたヘルワームが強酸を吐き出して飛ばしてきた。


「【エアウォール】」


 風の膜を張り、それを弾いたミケラルドは、落ちて来るヘルワームに向かって土魔法【ストーンバレット】を放った。無数に打ちあがる土の弾。身体をひねらせ何とかそれをかわすヘルワームだったが、ミケラルドの攻撃はそれで終わりではなかった。

 ヘルワームの下まで跳び上がったミケラルドの口が小さく開く。


「【雷の領域スパークホール】……」

「ギィイイイイイイイイイッ!?」


 雷魔法【雷の領域スパークホール】により、ミケラルドの周囲に大きな電撃が走る。しかし、これはミケラルド自身もダメージを受けてしまう魔法。


「ちっ、もっと他に手があっただろう」

「いんやぁ? あれを見てみい」


 グラムスが指差したのはミケラルドの顔だった。

 その表情に苦痛の色はなく、パーシバルの首を傾けさせた。


「っ! そうか、雷魔法【リチャージ】!」

「そういう事じゃな。雷魔法を受けても無傷でいられる魔法はそれ以外にない。【雷の領域スパークホール】の魔力も循環出来て、【リチャージ】魔力消費だけで済んでいるのは流石と言える」

「だからと言って、やろうとは思いませんよ」

「雷魔法を得意とするのは魔族に多いからのう。なるほど、奴と戦うための手段か……」

「え、どういう事です?」

「この勝負は、ミケラルドと奴の……わば前哨戦、、、といったところかのう」

「奴って一体?」

「ほれ、木龍が動いたぞい」


 電撃によりこんがりと焦げたヘルワームが大地に音を立てて落ちる頃、木龍グランドホルツがよろめきながら立ち上がった。

 風魔法【浮遊滑空】を発動しながら大地に降り立ったミケラルドは、じっと木龍グランドホルツを見つめ、話しかけた。


「実はウチにリィたん――あー、水龍リバイアタンがいるんだ。それと法王国には炎龍ロードディザスターの子供がいてな? 魔王復活も近そうだから戦力を整えたいんだよね。無理にとは言わないけど、ウチに来ない? 地龍テルースも助けたいし」


 その発言にピクリと反応する木龍グランドホルツ。

 息を切らしながら、今度は木龍グランドホルツがミケラルドをじっと見た。


「……魔族が何故?」


 その声は、年老いた女の声のようだった。


「あぁ知らない? ここ一年で人間界の様子は大きく変わったんだ。北西のリーガル国とシェルフの間に俺の国があってさ――」

「――待て」


 ミケラルドの言葉を遮った木龍グランドホルツ。

 キョトンとした顔のミケラルドだったが、木龍グランドホルツの次の言葉を聞き、その顔は得心に至った。


「……話は聞いてやる。ただ、それは私を倒してからだ」


 ニヤリと笑ったミケラルドが、コキリと首を鳴らし腕を伸ばす。


「いいね、そういう単純なの大好き」

「本気でいく」

「本気で受け止めるよ」


 直後、ミケラルドは木龍グランドホルツの真価を知る。

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