その461 ご褒美
「ご褒美、ご褒美~♪」
らんらんるうとスキップする俺を追う視線が一つ。
「何やってるんですか、ルークさん」
疑問ではない。始めから俺の意図に気付いているかのような聞き方だった。
こんな聞き方するのは一人しかいない。
「アリスさん、お疲れ様です」
「そちらは講師室の方ですよね」
「ええ、所用がありまして」
「今しがた仰ってた『ご褒美』と何か関係があるんですか?」
「…………さぁ、何の事だか」
「あからさまに視線逸らして何言ってるんですかっ」
ずびしと俺を指差しアリスが言う。
一体、どこから漏れた? 闇ギルドより優秀な諜報機関を聖女が?
いやいや、そんな事あるはずもない。……もしや、頭の情報を読み取る能力が?
「何を考えているのかはわかりませんが、つまらない事を考えているのはわかりました」
「……はて?」
「何で他の人にはこの人が存在Xだってわからないの……」
呆れ眼を向けるアリスだが、彼女の言う存在Xとはやはり俺の事らしい。
以前、冗談半分で依頼者名として使ったが、オリハルコンズにバレてたしな。
「ところで何かご用でしょうか? 私はこれから忙しいのですが?」
「まず、どこに行くのかくらい教えてくれてもいいじゃないですか。私とルークさんの仲なんですし」
「…………さて、私たち、そんなに仲良くなかったような気がしますけど」
「むかぁっ」
声に出す人は初めてかもしれない。
「極秘な任務ですので」
「もしかして『ご褒美』ってあれですか?」
「どれでしょう?」
「この前、リィたんさんの部屋でナタリーさんに言ってたあの――」
「――わあ!?」
俺は咄嗟に彼女の口を塞いで担いだ。オブラートに包まず言うと、つまるところ
人目を避け、以前アリスに見つかった袋小路の場所までやって来ると、ジト目のアリスが言った。
「聖女誘拐事件」
「人聞き悪いですね」
「人聞き良い言い方があると?」
「……聖女拉致軟禁事件?」
「アウト寄りのアウトです」
ついにルークはアウトローデビューを果たしたようだ。
「やっぱりシギュン様に会いに行くつもりだったんですね?」
「よくわかりましたね」
「よくわからないと思いましたね」
「この時間は講師室にいらっしゃるそうなので、調査報告がてらご尊顔を拝みに行こうかと」
「本音が漏れてますよ、ルークさん」
「掌の上の転がし合いをしているところなので、引くに引けないんですよ」
「そんなにシギュン様に会いたいんですか」
「まぁ、相手の狙いを探りつつ懐に潜りつつですかね」
「……本当に大丈夫なんですね?」
「おや? もしかして心配してくれてるんですか?」
「っ! せ、聖女としてです!」
「聖女って言われるのが嫌いだったあのアリスさんが、自ら聖女って……ぐすん」
「声に出す人は初めて見ました」
どこかで聞いた言葉だ。
俺が首を傾げていると、アリスは深い溜め息を吐いてから言った。
「……わかりました、私も講師室に用があるので一緒に行きましょう」
それは珍しい。外出の許可でも貰いに行くのだろうか?
◇◆◇ ◆◇◆
「「失礼します」」
俺とアリスが声を揃えて入った講師室。
するとそこにはマスタング講師とシギュンがいた。
シギュンは俺を見るなり特別講師室を指差し、そこへ誘った。
健全な男児であれば、大抵綺麗なお姉さんに個室へ誘われるという夢を抱くはずだ。
しかし、それは夢だ。現実に起こる事は極めて稀である。奇跡と言っても過言ではない。
だが俺はやってのけた。たとえ相手が闇ギルドの重要人物だろうと美女は美女である。
相手がどんな悪さをしていようとも、今どうにか出来る問題ではない。
駆け引き。そう、これは駆け引きなのだ。
そう思い、俺はシギュンと共に特別講師室へと入った。
別れ際に、アリスが「気をつけてくださいね」と耳打ちしてくれたのだが、彼女は講師室に一体何の用だったのだろう。
「ここへ来たって事は報告があるって事ね?」
特別講師室に入るなり、シギュンが俺に言った。
俺は平静を装いながら彼女に報告事項を述べた。
「監視対象ファーラですが、強い戦闘力を持っていないと思われます」
「根拠は?」
「握手を交わし対象の魔力を直接探りました」
「……続けて?」
「会話で得た情報から、生を受けて間もない魔族ではないかと」
「確かに、マスタングも同じような事を言ってたわね」
なるほど、マスタング講師もシギュンの支配下にいるという事か。
「……いいでしょう。今後も対象に接触を試み、出来るだけ情報を得なさい」
「はい」
「それと」
「へ?」
「ライゼン校長について、何か気付いた点はない?」
やっべ、めっちゃあるわ。
……まぁ、これくらいなら言ってもいいか。
「ある特別講師が来校する日に限ってよく目にしますね」
「ある特別講師?」
「ミケラルド・オード・ミナジリ」
「っ! ミナジリ共和国の元首? ……魔族だから気に掛けているだけではないのかしら?」
「それはわかりかねます」
「わかりました、こちらで調べる事にします」
後で忠告しておけばライゼン校長も回避出来るだろう。
さて、いよいよご褒美の時間だ。
「もういいわ、下がってちょうだい」
…………は?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます