その454 闇の王
サブロウを味方につけた夜。
俺は皆を解散させ、サブロウと共にその場に残っていた。
「
「そう、エレノアは現闇ギルドのトップと言える。作戦の立案から金の運用まで全て奴が握っているのじゃ」
「それよりも、その【魔人】ってのが気になるんだけど」
「闇ギルドの数少ない
え、何それ超怖い。
「ていうか、血吸ってもその【化け物】って続けるの?」
「ワシなりの敬称じゃ」
「あ、はい」
「強者には礼儀を、当然の事じゃな」
「あ、そうっすか」
サブロウの言い分は何とも不可解だったが、ここまで壊してしまうと人格崩壊に繋がりかねない。サブロウの場合、それでもいいかもしれないが、彼は今貴重な情報源だしな。
「【魔人】はエレノアですら手綱を握れぬ気まぐれな性格故、気乗りした作戦にのみ参加する。本当であればリプトゥア国とミナジリ共和国の戦争に参加させたかったとエレノアは言っておった」
「だとしたら、あの戦争で負けていたのは俺たちだったかもしれないって事ですね」
「かもしれない、ではない。確実に負けておったぞ」
ドヤ顔を向けるサブロウに、拳の一つや二つをぶっ放してやりたいところだが、まだ聴取する事はある。
「拳神ナガレ、神聖騎士シギュン、サブロウにエレノア、んで、魔人か。これに俺が入って六人……ようやく半分だけど、後誰がいるの?」
「なんじゃ、シギュンの事はもうバレておったのか。……ふむ、数か月前に【
「マジか、アイツに闇ギルドは無理だと思ったんだけどな」
「甘いぞ化け物」
甘い化け物とはトンチか何かだろうか?
「闇に染まれば人は深淵に堕ち続ける。それは誰にも止める事は出来ぬ」
「なら俺が止めるしかないでしょう」
「……確かにこの力があれば止められる、か」
「ラジーンや、イチロウやジロウもこっちにいるしね」
「道理で探しても見つからぬ訳じゃ……。それに先程の手練れたちも術中とは、恐れ入ったぞ。正に闇の王じゃな。はっはっはっは!」
「いいからそういうの。それで、後は誰? あ、地龍の子供を捕まえたのは?」
「【カンザス】か? あれは小心者でのう。任務の大半は監視と輸送じゃ」
「輸送? 地龍に乗って?」
「化け物と同じ【闇空間】の使い手でな、今はミナジリ共和国の監視任務に就いているぞ」
「ここ数日で何回か戻ったけど、そういった気配はなかったな。つまり――」
「――うむ、小心者故、奴の動向を追うのは非常に難しい」
確かに、たとえ相手の戦力が俺以下だとしても、それが全てではない。
慎重な者であれば、俺やジェイルの目を掻い潜る事は可能だろう。
「優秀みたいだね」
「最低限
「でもサブロウはそうじゃないようだけど?」
「ワシはいいんじゃ」
「何がいいのかねぇ」
「長くいるからそれだけ信頼されてるという事じゃ」
「じゃあその知識をもらいましょうか」
「まったく、闇ギルドも厄介な相手を敵に回したものじゃな」
そもそも闇ギルドなんて存在が厄介なんだよ。
「他の四人」
「一人目は【ノエル】。暗殺特化の
「つまり今法王国に来ているのか」
「いるじゃろうな。二人目は【ホネスティ】」
「どこかで聞いた事があるな?」
「リプトゥア国で騎士をしていた優男だ」
俺から勇者の剣を取ろうとしてたアイツか。
「表向きは槍使いじゃが、奴の本当の得物は暗器じゃ。要人襲撃や作戦指揮の任務が多いのう」
「ノエルに、ホネスティね。残り二人か」
「【メディック】は魔皇ヒルダに張り付いている。元は
「基本的には強者についてるんだね」
「強者から身を隠す事で己の修練にも繋がる。更には出来るだけ対象の弱点や隙を見つける事も出来る」
「勝率を上げるためか」
「左様じゃ」
やはり十二人の集まりと言えど、
「シギュン直属の部下に【クイン】という女聖騎士隊長がいる。そいつが最後の
「まだいたのか……」
「当たり前じゃ、聖騎士団は法王国の力の象徴。この軸を担うのは闇ギルドでなければならんからな」
……これで全員か。
「それで、俺はもう
「うむ、この後エレノアの下へ連れて行く事になっている」
「その前にもう一つだけ聞いておきたい」
「何じゃ?」
「勇者エメリーについてだ」
「恐怖を植え付けた理由……か」
俺は頷きサブロウの言葉を
「勇者の戦線離脱、及び【覚醒】の延長が目的なのはワシにもわかった」
「『ワシにもわかった』って、サブロウも知らないの?」
「いいじゃろう、お主が恐怖の種を取り除いたんじゃから。それがわかった時のエレノアは、何とも歯痒そうじゃったぞ」
「そりゃどうも」
「さ、行くぞ」
俺はサブロウに案内されるがまま、エレノアが待つ場所へと足を向けた。
勇者エメリーが戦線離脱し、魔王の復活も遅らせ、しかし魔族と協力する闇ギルド。まだ闇に包まれた部分は多いが、必ず解き明かして見せる。
そう――、
「真実はいつもひと――」
「――さっさと来んかい」
「あ、はい」
何故、現実世界に溢れる主人公たちは、決めたい時に決め台詞を吐けるのか疑問なミケラルド君だった。
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