その438 ドマークの助言
ライゼン学校長の言い分は明確だったが、こちらの動きを教える段階にはなかった。彼は、シギュンが闇ギルド所属だと疑っているようだったが、俺のように明確な証拠を掴んではいなかったのだ。
法王クルスがそれを知っている事も、残念ながら言うタイミングではない。彼の血を吸っていないから――というくだらない理由で。
ナタリーに手を出さなければ可能な限り協力するという約束をし、俺はその場を去る事になった。
「【呪縛】を使わなくちゃ相手を信用出来ないって……俺も疑り深くなったもんだ」
と、嘆きながら転移したのはミナジリ共和国の屋敷にある自室だった。
「それは、君主として当然の事でございます」
「ロレッソッ!? ちょ、何で俺の部屋にいるのっ!?」
「はて?」
どこかで聞いた事のある言葉だ。
「ここで待てと指示を下さったのはミケラルド様だったかと」
「……はて?」
「何か大事なお話があったのでは?」
「あぁそうだった。転移魔法の確実な存在、という情報が闇ギルドに渡った。ちょっかいが増えるかもしれないからラジーンとグラムスに注意してもらって」
「何と、まさかミケラルド様の動きを見破られたと……!?」
「いや……」
「はい?」
キョトンと首を傾げたロレッソを、俺は正面から見る事出来なかった。
「……ミケラルド様? あの、ミケラルド様? ミケラルド様?」
徐々にロレッソの語気が強まっていく。
「ミケラルドさまぁ?」
凄い、完全に俺のパーソナルスペースを侵略しているぞ、コイツ。
「まさかご自分から手の内を明かしたなどと仰るおつもりではないでしょうね?」
凄い、九分九厘合ってる。
「まぁ……その? ねぇ」
「……はぁ~」
物凄い大きな溜め息である。
「……わかりました。策がない訳ではありません」
「さっすがロレッソ! いつも頼りにしてます!」
「その代わり、ミケラルド様のご負担も増える事になりますからね」
「というと?」
「転移魔法の情報をクロード新聞に載せます」
「何とも……大々的だね」
「そこに、その詳細を記すのです」
「何て?」
「【その秘術を扱えるのはミケラルド様のみ。転移者はミケラルド様に許可された者のみ】と」
「あー、それで俺に注目を集めさせるのか」
「【ミケラルド様に転移を許された者】も含みます」
「あ、そっか。つまり、俺の身内って訳か」
「これにより、警護強化の範囲を絞れます」
「確かに、下手に広いより警護対象を絞れればこちらも守りやすい……か」
「とは言っても限界があります。
今、その戦力に対抗出来るのは、ミナジリ共和国ではジェイルのみ。
ドゥムガとラジーンがいれば二人で対応出来るかもしれないが、やはり戦力としては
「ミケラルド様には、
さらっと恐ろしい事言ったな。
いや、確かにその通りだ。ジェイルが聖騎士学校に特別講師に行ってる間、どうしてもミナジリ共和国の武力は一段階落ちる。国を守る者がいない時間、俺の身内が誘拐でもされようものなら……。
「ごめん、軽率だったね」
「いえ。この国において、ミケラルド様が決められた事に異を唱える者はおりますまい。その信頼を裏切らなければ、我々はどこまででもお供致します」
「……ありがとう」
「さぁ、ドマーク様が貴賓室でお待ちですよ」
「うん、行って来る」
「では」
ロレッソが深く頭を下げ、俺は貴賓室へと向かった。
最近、ドマーク商会はミナジリ共和国に重きを置いているようで、ドマーク自らこちらに来ている事も多いようだ。俺が連絡した際、彼はやはりこの国にいたようで、すぐにアポがとれたという訳だ。
◇◆◇ ◆◇◆
「これはミケラルド様、お久しぶりにございます」
「ドマーク殿、ご足労頂きありがとうございます」
俺とドマークは軽く握手を交わし、互いにソファへ腰掛けた。
「して、今回のご用件とは?」
「【
「ギャレット商会……ですか?」
「えぇ、ご存知ありませんでしょうか?」
「あぁいえ。勿論存じ上げております。しかし、何故ギャレット商会を? あそこは規模も小さく、扱う商材も
豊かな
「……内密にお願いしたいのですが」
「聞きましょう」
「ギャレット商会が身元保証人となり、聖騎士学校へ入学した生徒がいます」
「
ドマークがこう言うって事は、資産もそこまでないようだな。
「しかしそれだけで?」
「実は、その生徒というのが、どうも魔族のようなんですよね」
「っ! なんとっ!?」
バッと立ち上がり、驚きを露わにしたドマーク。
そして、耳に届いた自分の声に慌て、ドマークはすぐにまた腰を下ろした。
「そ、そういう事でしたか。道理でミケラルド様が気に掛ける訳です」
「ギャレット商会はどちらに?」
「リーガル国、首都リーガルの南端。東側です。人通りは少なく、商売には向かない場所ですが、ギャレット殿はリーガル国にある提携店に商品を流す事で、収入を得ていました」
「商品の入手経路は?」
「え? あ……た、確かに骨董品というからには住民が売りに来ているものとばかり。それ以外の入手経路については不明ですな」
「つまり、リーガル国の住民以外がギャレット殿に商品を捌いていた可能性もあると?」
「十分にあり得ますな」
ドマークは深く頷き、俺を見た。
「ミケラルド様、十分にお気を付けを」
「ありがとうございます。代価はいかほどで?」
「これだけの情報に値はつかないでしょう。ただ一つお願いを」
「はい?」
「無事で戻る事。
そう言ってニカリと笑ったドマークを前に、俺は苦笑する他なかった。
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