その433 ゲラルド君
「私の全力……ですか」
「そうだ」
じろりとゲラルドを見る。
「……そうです」
だよね、ここでそういう態度が許されるのはリィたんくらいだ。
まぁ、魔族という観点から見て、ファーラも言っていいかもしれないな。何しろ文化が違うし。
「うーん、困りましたね。しかし何故私の実力を?」
「あの戦争――」
ミナジリ共和国とリプトゥア国の戦争か。
「――あの戦争を俺も見ていた」
ゲラルドがリィたんをちらりと見る。
「水龍リバイアタンがいるならば親父が負けても仕方なかった。しかし、あの戦争には地龍もいた。だから勝敗はわからないと思っていた。だが違った。あの戦争の全てを掌握していたのはアナタだ」
「それが理由だと?」
「親父は確かに傲慢だった。しかしそれに見合うだけの実力を持っていたとも思っている。だから、そんな親父を倒した相手の実力を。その底を見たいと思った。それだけだ」
「……」
「あ、です!」
なるほどなるほど、何とも可愛らしい理由ではあるが、彼にはそれを問うだけの資格はある。しかし、どうしたものか。俺が全力を出したとなれば、法王クルスが亜音速くらいで飛んでくるだろう。
俺は端の方で様子を見ているライゼン学校長に目を向ける。
彼は少し考えた後、ゆっくりと歩を進め俺たちの前へとやって来た。
「ミケラルド様、どうでしょう。これを機に、
「秘法?」
俺が首を傾げると、リィたんが言った。
「ミック、ライゼンは転移魔法を見せろと言ってるのだ」
「あぁ」
瞬間、またもざわつく生徒たち。
当然、アリスのように知っている者は知っているが、あくまでそれは噂程度のもので、実際に転移魔法が存在すると確認した者はいない。何故なら、転移魔法の使用者は皆、俺の身内だからだ。「実在を確認した」と言える第三者はいないのだ。
だから転移魔法の存在は、現代でいうところの都市伝説状態だった。
それを、ライゼン学校長は見せろと言ってきた訳だ。
別にこの転移魔法は隠している訳でもないし、ライゼン学校長の狙いもわかる。まぁ、それ以外の狙いはわからないが、生徒たちのためでもある。ここは素直に彼の案にのっておくか。
「そうですね、学校長の許可もある事ですし、ここは野外実習といきましょうか。リィたん、ナタリー」
「うむ」
「わかった」
リィたんとナタリーがテレポートポイントを取り出し、皆を一列に並べる。
転移魔法をよく知るエメリーとレミリアが先に転移すると同時、皆から驚きの声があがった。
その時俺は見た。いや、正確には俺ではない。
彼は俺に対し警戒していた。だからこそ俺の視線に気を配っていたはずだ。
彼のライゼン学校長の表情を、俺の分裂体であるルークが見たのだ。
分裂体を通して見たライゼン学校長の目は、確かに笑っていた。
まるでお宝でも見つけたかのような瞳。俺はライゼン学校長に警戒しながらも言った。
「では、ライゼン校長、ゲラルドさん、こちらに触れてください」
この二人は俺のテレポートポイントから転移してもらった方がいいだろう。
「うむ、失礼する」
「……こうか?」
ライゼン学校長とゲラルドがテレポートポイントに触れ、転移し消えて行く。
行先はそう、俺とリィたんがよく訓練していた荒地である。
◇◆◇ ◆◇◆
皆の喧噪が止まぬ中、俺が荒地に転移すると、早くもナタリーの周りを生徒たちが囲んでいた。
「ミ、ミックー! 助けてっ」
ナタリーが装着しているテレポートポイントは腕輪に付与されたもの。
皆がその腕輪に興味を示すのも理解出来る。そして、同じ腕輪をしているリィたんには、怖くて近づけないってのもとてもよくわかる。
「ハーフエルフが住みやすい世界になったのでは?」
「あー! そういう事言っちゃうー!?」
もみくちゃにされるナタリーをくすりと笑った後、俺は皆に呼び掛けた。
「はい! さぁ、皆さん。転移魔法に興奮するのはそれくらいにしてください。これから私の全力を見せるにあたって注意事項があります」
皆の注目を受けた後、更に説明を続ける。
「まず、正規組はリィたんの後ろへ。放出する魔力の関係上、失神してもらっては困ります。是非その目に焼き付けて欲しいですからね。冒険者組の中でも自信のない方はリィたんの後ろへ。我こそはと思う方はもっと前に出てもらって構いません」
言いながら俺はゲラルドを見る。
「ゲラルドさん、アナタは特別に最前列へどうぞ」
と、言ってまとめたところで、最前列まで出て来たのは顔見知りばかりだった。
ゲラルド、ライゼン校長の他、ラッツ、ハン、キッカ、アリス、エメリー、レミリア。そして意外な事にクレアもいた。ナタリーとメアリィはちゃんとリィたんの後ろにいる。
さて、この中で誰が耐えられるだろうか。
「徐々に魔力を解放していくので、気分が悪くなった方からリィたんの後ろへお願いします」
俺がそう言うも、皆は余裕な表情をしていた。
しかし、クレア、エメリー、レミリアは違った。彼女たちは俺をよく近くで見ているからだろうか。俺の言葉の真意をしっかりと理解しているのだろう。
そんな事を考えながら、俺は魔力を込めるのだった。
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