その431 二週間目
『ディザスターエリアに入りたいだと?』
リィたんとの話を終えた後、俺は法王クルスに【テレパシー】を使って連絡をとっていた。
『出来れば』
『ふむ……何が目的かね?』
『炎龍【ロードディザスター】』
『っ! 水龍の次は炎龍か? 全く困った元首もいたものだな』
『もっと褒めてください』
『……まぁ凄いのは認めるがな』
『もう褒めなくていいです』
『照れるなミック』
『それで、難しいでしょうか?』
『法王国の領土――絶対災害地域。行ったところで誰も帰って来られない。だからこそ侵入禁止という言葉が活きるのだ。国民がその脅威を知っているからな。だが、ミック。お前が行くとなると話は別だ』
『というと?』
『ミックが行くとな、法王国へ帰って来られるのだよ』
『生還しちゃいけないんですかね?』
『生還したとしたら、ディザスターエリアに棲まうモンスターたちがここを狙う。それはお前にもわかっているだろう』
『えぇ、ですからこちらも対策を講じようと思いまして』
『ふむ、ではその対策とやらを聞こう』
『ディザスターエリアをなくしてしまえばいいのかなと』
『……それのどこが対策なのだ?』
『リィたんという私の右腕からの提案でして』
『ずるい言い方だな』
『凡夫の王は卒業出来たでしょうか?』
『まったく、初対面の時の言葉を根に持っていたのか?』
『いえいえ。ですが、これならば法王国にも迷惑がかからないかと』
『…………出来るのか?』
『炎龍以上の存在がいなければ』
『おい、怖い事を言うな』
まぁ、
しばらくの後、法王クルスは答えを出す。
『……わかった。
そこが落とし所だよな。
他国の軍事力に頼るような事を、法王クルスだけで決められる訳でもない。
ならば、侵入だけ許可をする。多分俺が法王でもそうするだろう。
侵入した後は、法王クルスから俺の責任となる。俺が失敗すれば、法王クルスの責任にも繋がるから、ここはある意味法王クルスなりの俺への最大の信頼なのだろう。
『結構です。ありがとうございます』
『うむ、死ぬなよ』
『明日の授業が終わればお休みなので、それから行こうかと』
『多忙な元首もいたものだ』
『おかげで満喫してますよ』
『うむ、ではな』
◇◆◇ ◆◇◆
翌日、俺の授業前。
教室に向かう途中、俺はショートボブの気になるあの子を見つけた。
「おや【ファーラ】さん、奇遇ですね?」
「……あ」
口数少ない魔族の女。
人化が可能な種なのか、それとも人に近い種族なのかはわからないが、彼女の魔力は間違いなく魔族のもの。
シギュンからの依頼により、俺は彼女の監視をする事になった。
「後程……」
ファーラはぺこりと頭を下げ、教室へと小走りに向かって行く。
彼女の監視もあるが、当然ルナ王女とレティシア嬢の護衛もある。可能な限りやるつもりだが、そろそろ俺が五人くらい欲しくなってきた頃合だ。
だが、頑張るしかない。
何故なら、見事達した暁には、シギュンの「ご褒美」があるのだ。非常に楽しみである。
ふむ、予め「痛くしないで」と言っておくべきだろうか?
まぁ、個人的にファーラが気になるというのもある。
彼女の正体は? 彼女の目的は? そして彼女の正体は?
とはいえ、無理矢理吸血するというのは俺の信条に反する。
相手が行動を起こした場合、その限りではないけどな。
ロレッソあたりが聞いたら「甘い」とか言われそうだが、これは仕方のない事だろう。
闇ギルドの動きも最近は小康状態だ。
俺が動きを封じているというのもあるが、資金繰りに困っているのかもしれない。
本日の俺の授業は、先週に引き続き
俺が言った通り、ライゼン学校長も近くに来て授業を見ていた。
まったく、鋭い目付きだ。あれこそ監視というのではないか?
だが、毎回
「さて、今日は聖騎士の実力を肌で感じてもらおうと思います」
俺がそう言うと、皆がざわつく。
広場の周囲を見渡す者もいる。当然、俺がこう言えば、実際に聖騎士が来ているとすら思うだろう。
「ははは、相手はこの私ですよ。キッチリランクSに実力を合わせますので、これから皆さんと模擬戦といきましょう」
くすりと笑って俺を見るのはアリスだった。
まぁ、あの子の前では何回もやってるからな。
「それではオリハルコンズの皆さん、お手伝いをお願いします」
「「はいっ」」
立ち上がるラッツ、ハン、キッカ、アリス。
「こちらは、聖騎士の剣を模して造った剣です」
闇空間から出したソレは、ライゼン学校長すら目を見張る――本物と見紛う程のレプリカだった。
「聖騎士の剣とは非常に良く出来ています。本来魔法使いは杖を触媒として魔法を放ち易くしますが、これは魔法使いが使う杖にもなり得ます。木剣では再現出来ない部分をしっかりと再現しましたので、皆さんは是非全力で私に向かってきてください……こんなところでしょうかね」
魔力を纏った俺を前に、オリハルコンズのメンバーたちの目が変わる。
「こりゃ本気確定だな」
ハンが、
「全力でいきます」
ラッツが、
「オリハルコンズの先輩が相手なんだから、手を抜いたら失礼でしょ」
キッカが、
「合法的に殴れますね」
そしてアリスが。
生徒たちに見守られる中、俺たちの模擬戦が始まった。
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