その422 闇人シギュン
「【シギュン】の役目はクルス殿とアイビス殿の監視。当然、部下にも【
「聖騎士たちの住民に対する嫌がらせも奴らが主犯だろうな」
法王クルスの言葉を受け、アリスが俺に聞く。
「嫌がらせ……ですか?」
「一部の聖騎士が、リーガル国で魔力を放出しながら練り歩いて、聖騎士の評判を落としてたんですよ。おそらく、冒険者に聖騎士団に近づいて欲しくないという理由で」
「そんな事が……」
「冒険者が聖騎士団に入りでもしたら、シギュンだけで操るのは難しい。そして、闇ギルドの活動もしにくいでしょうからね」
「な、何とかならないんですか、ミケラルドさんっ? 法王陛下とアイビス様だけじゃありません。クリス王女は勿論、他の王子たちも危険って事なんですから……!」
確かに、アリスの言う事は
しかし、現状【シギュン】に手を出すのは非常に難しい。
その理由としては、シギュンの隠された実力によるものが大きいだろう。
半年前の時点でリィたんがシギュンと手合わせをした時、リィたんでさえシギュンの底を見る事は出来なかった。
当然、リィたんも本気で戦っていないが、もし、シギュンがリィたんより強かった場合、そして俺より強かった場合の事を考えると、手を出せないのだ。
もし俺がシギュンに接近し、その血を摂取しようと試み、失敗に終われば――それはミナジリ共和国の立場を危うくする。
それはないと考えたいのが人の心であるが、それがないと言い切れる訳でもない。しばらくは様子を見る他ないだろう。
正直、闇ギルドの構成員たちは、六割程は俺の手中にある。
しかしそれは、
全く……闇ギルドの消滅なんて仕事。冒険者ギルドで請け負ったら
「アリスさんには申し訳ないですが……保留で」
「だろうな」
俺の言葉に法王クルスも同意する。
「ど、どうして……」
「少なくとも、クルス殿の実力は
「そう……ですか……」
落ち込むアリスに、法王クルスが軽く言った。
「心配するなアリス。いつも通りにしていれば、向こうも表立って動く事もあるまい」
「……はい」
更に法王クルスは思い出したように言った。
「そうだ、アリスからは何かないか? 聖騎士学校で気になった事は?」
「私から……ですか?」
確かに、聖女アリスの意見も聞いておくべきだろう。
「ん~、そうですねぇ……あ、そういえば今日、法王陛下が皆さんの魔力鑑定をされてる時――」
はて? あの時何かあったのだろうか?
「あの
「え、もしかしてナタリーの事ですか?」
「そうです、ナタリーさん」
アリスとナタリーはまだ余り接点もない。
交流を深めるイベントもないし、認知度としてはこんなものか。
「ナタリーが何か?」
「いえ、何がっていう訳じゃないんですけど、何か気になるような……そんな感じがして」
「曖昧ですね?」
「何となくですけど、ちょっと気になる存在っていうか……」
「曖昧だな?」
法王クルスも困ったお顔をしていらっしゃる。
「う~ん……と、
形用もない感情論に近い言葉で締めくくったアリス。
ナタリーの気になる部分と言えば……やはりアレだろうか。
過去ドゥムガを倒した後に二人で発動した【
リィたんの話によると、【
あの時俺は、【呪縛】を使ってナタリーと共に【
アリスも聖女だ。主に光魔法を扱う聖女として、ナタリーになにかしらのシンパシーを感じたのかもしれない。
そうやってアリスの言葉に決着をつけた俺は、アリスと共に聖騎士学校へと戻った。
アリスは口数は少なかったものの、悲観している訳ではない様子だった。
しかし、今回アリスを連れて来て正解だったのか疑問だ。
アリスがこれから多く見るであろう
勇者エメリーと共に行動し、いつか魔王を倒す。そしてその後は……どうしてもあの子にはそういった世界が待っている。アリスがアイビス皇后みたくなるのは想像出来ないが、そうなっていくんだろうな。場合によってはジャングルでバナナを食べている可能性も……ないか。
「ところでルークさん」
「はい?」
「今日私の事、ゴリラって言いかけましたよね?」
「……は――」
「――『はて?』とか言って誤魔化さないでくださいね?」
日に日に逞しくなっていくな、この子。
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