その423 負荷
『――という訳で、火竜山の調査をお願いしたいんだけど、頼めるかな?』
『ふむ、古の賢者メルキオールか。やつが生きていたのは五百年以上も前だ。しかし、未だに金を回収し、情報も得ていた。メルキオールが生きているのか、やつの意思を継ぐ者か、それとも……。私としても賢者の亡霊の痕跡は気になる。調べてみよう』
【テレパシー】を使い、リィたんとそんな会話をした翌日。
リィたんが聖騎士学校を休んだだけで、様々な憶測がクラスの中で飛び交った。
「ルーク殿、リィたん殿はどこへ行かれたと思いますか?」
「ランゴバルト殿、さぁ。私には想像もつきません」
「私としては、他の五色の龍に会いに行ったと思うのですが!」
「はははは、かもしれませんね」
ゴブリン討伐の一件以来、あの指揮のせいもあり、俺の周りは多くの正規組が囲うようになった。ただの雑談といえど相手は高貴な身。失礼があってはリーガル国に迷惑がかかる。適当に話を合わすだけでも一苦労である。
しかし、あのリィたんが他の龍とねぇ……?
雷龍シュガリオンは絶対にないし、地龍テルースの消息も掴めない。残るは炎龍と木龍か。リィたんはどちらも面識がないって言ってたし、会いに行くなんて事ないと思うけどな。
がしかし、世界にはまだ見知らぬ強者がいる。
五色の龍の頂点――霊龍は、龍族しか知らない超高位の存在。
それ以外にも
ならば、この聖騎士学校の中で強くなる術を探すのが一番てっとり早いだろう。
俺やジェイル、法王クルスのような特別講師が来ない限りは、冒険者組と正規組は別の授業である。
当然冒険者組は冒険者組で、過酷な授業なのだろうが、今の正規組の授業は正規組には過酷でも、俺からしたらお遊び以下のもの。
本日、マスタング講師が正規組に課した内容は――、
「これは、今年から採用された聖騎士の新たな鎧である! 耐久力は勿論、機動性に優れた鎧であるが、金属の鎧を身体に
あれはミスリルで造った
エメラさんが「大口の依頼が入りました♪」とか喜んでたけど、聖騎士団が取引先だったのか。
「うぅ……」
「レティシアお嬢様、大丈夫ですか?」
「はい。でも、鎧とはこんなに重いものなのですね」
マスタング講師の言った「
金属の鎧を纏って平時のように動き回る事。これがいかに難しいか、正規組の体力は基礎練によって向上しているが、初めて未知の領域に踏み込むのは、やはりそれだけの苦労がある。
……そうか。なら俺もここから始めるか。
俺考案のボディーアーマーは改良に改良を重ね、非常に機動性優れるものになっている。だが、重量に限って言えば、一般人が重く感じざるを得ないレベルだ。当然、今の俺がこれを着て動くのは訳ない。
だが、一般人と同じ感覚を共有し、自身の身体に負荷を掛ける事が出来たとしたら、それは俺の成長に繋がる。
「お? おぉ? こ、これは中々……こ、こんなところかな?」
「ルーク? 何をしているのですか?」
「ルナ王女殿下、新しい闇魔法を考えていたんです」
「……授業の真っ最中ですが?」
活発なルナ王女が呆れるくらいには、俺の行動は常軌を逸していたようだ。
「授業に関わる事なので」
「それは一体どんな魔法なのです?」
「闇魔法【フルデバフ】。身体に大きな負荷を掛け、動きにくくする魔法です」
「確かに、貴方であれば退屈な授業内容かもしれませんし、悪い事ではないと思うのですが、
「それ以上に強い存在がいるからですよ」
笑って言った俺に、ルナ王女は小さな溜め息を一つ吐いた。
「わかりました、私も鎧は着慣れています。是非その魔法を私に」
「え?」
「ふっ、こちらの授業だけでは私も退屈だという事です」
ドヤ顔を見せるルナ王女。
「いや、それはちょっとやめておいた方がいいのでは?」
「安心してください。これでも皆に隠れて鍛えているのです。そう簡単には参りません」
輝かんばかりの自信だが、流石にこの魔法をランクD程のルナ王女に掛けるのは不安過ぎる。だが、断っては角が立つ。
仕方ない、出力を百分の一くらいにして……。
「っ! くっ!? す、凄まじい負荷です……!」
……凄まじいよろめき具合だ。まるで
「か、解除致しますか?」
「構う事はありませんっ! こ、これくらいしなくては私は……くっ!?」
芋虫のように這いつくばっていらっしゃる。
ルナ王女の突き出されたお尻がとても素晴らしいのだが、それとこれとは話は別で、
内臓に負荷がかかっていないにしても、これは危ない状態とも言える。
「せめて少し出力を抑えさせてください」
「そ、それくらいならいいでしょう!」
二百分の一くらいでどうでしょうかね?
「こ、これならば……くくっ!」
9カウントを宣言されたボクサーみたいに立ち上がったルナ王女。
良い魔法が出来たとは言え、無暗に使えない魔法かもしれない。
「ル、ルーク……顔が悪魔みたいで怖い……」
レティシアに怯えられながらも、太陽のような笑みを見せるミケラルド君だった。
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