その348 なぞなぞ
「名を【アスラン】。生まれて五十年程の仔龍だ」
リィたんの感覚では、たとえ五十歳だろうと仔龍なのだろう。
「実力の程は?」
ジェイルが聞く。
「
なるほどな。仔龍ならばその程度の実力という事か。
だが、それでも強い。これを制して
「酷い……」
ナタリーの悲しみと怒りはとてもよくわかる。
だからこそ、それを残さないように、俺は淡々と会議を進行しなくてはならない。
「じゃあ、子供が人質に取られている線が濃厚だね。勿論、別の理由もあるかもしれないけど、闇ギルドに近づく時はそれを念頭に動こう」
沈黙を
と言っても、これについては答えが出ているに等しいけどな。
「次。よっ!」
瞬間、俺はエメリーに向かって魔力波を送った。
当然、俺に殺意はない。ただ、魔力を伴った風をエメリーに送っただけだ。
「ひゃんっ!?」
俺が何をしているのかわからない様子の面々だったが、彼女が尻もちを突いた事でそれが判明する。特にそれは戦闘に関わる者程気付いただろう。
「あいちちちちち……何するんですか、ミケラルドさん?」
ケロッとするエメリーだったが、皆の顔はそれ以上に深刻だった。
「恐怖か」
リィたんの言葉は
「ふぇ?」
小さな臀部をさすり、困惑するエメリー。
そんな彼女を心配そうに見るのが、剣聖レミリアだった。
「レミリアさんから報告がありましてね。エメリーさんとの訓練中に転倒が増え、目を瞑る事もちらほらと。無自覚に身体が震え、歯もガチガチ鳴らしてたり。つまり、今、そこにいる勇者エメリーさんはとてもポンコツです」
「酷い……」
先程と同じ言葉なのに、ナタリーが俺を見る目は非常に強い。刺し貫いて
「あの、本人ここにいるんですけど……」
もじもじと両手の人差し指同士をつんつんとするエメリー。
「ミケラルド殿、せめて本人がいない場所で」
「嫌ですよ、私そんな陰口みたいな事やりたくないです」
「ぐっ!? か、陰口?!」
何故かレミリアの方がダメージを受けてしまった。
そもそも勇気というジャンルなら世界一だぞ、彼女。
「まぁ、それは治ると思うので、今重要な事はそこではありません。何故闇ギルドはエメリーさんをポンコツにしたのか。それが重要です」
「ポ、ポンコツ……」
悲壮感漂うエメリーは、よよよと倒れ込みレミリアに肩を預けた。
「陰口……私は何て事を……」
もしかして互いに肩を預けているのかもしれない。
「ミックがこの前言っていたアレか」
「可能性は高いですね、ジェイルさん。魔界は魔王の復活を阻止しようと、闇ギルドは勇者の覚醒を防ごうとしています。つまり、今回の目的は――」
「――勇者の戦線離脱が目的か」
今日のリィたんはキレッキレである。
「ロレッソ、何かある?」
「勇者エメリーがこの状態……ともなれば、勇者の誘拐の難度も下がりそうですね」
「わ、私を誘拐ですか!?」
エメリーが立ち上がって反応する。
これに対しロレッソが説明をつづけた。
「勇者がターゲットの場合、我々はエメリーさんに護衛を付ける事も可能です。しかし、その護衛対象にも戦闘能力があれば、相手にとってこれほど難しい誘拐作戦はありません。ですが、エメリーさんが本来の能力を発揮出来ない今であれば」
「確かに、それなら誘拐しやすくなります!」
「勇者を殺す目的はない。勇者を生かす目的がある。その上で勇者の覚醒を防ぎたい……とあれば、リプトゥア国がしていたように軟禁……いや、この段階になれば監禁するという手段も考えているはずです」
「ありがとう、ロレッソ」
ロレッソの説明を聞き、エメリーの拳に力が入る。
それに気づかない皆ではない。すると、レミリアが一歩前に出た。
「ならばその護衛は私が」
まぁ、レミリアの心情を考えれば至極当然の結論か。
「ありがたい申し出ですが、それは難しいです。今のレミリアさんは自分の実力を上げる事に注力すべきです」
「しかし――」
「――大丈夫ですよ。エメリーさんの事は私に任せてください」
「っ! まさかミケラルド殿ご自身がっ!?」
「策はあります。安心してください。闇ギルドの思い通りにはさせません。聖騎士学校入学までに、エメリーさんの件は片をつけます」
ニヤリと笑った俺を、エメリーとレミリアが引き
「「ひっ」」
会議中に議長に対し二人の乙女から悲鳴をあげられるとは思わなかった。
「……では次に私から。リィたん、俺がいなかった時。スパニッシュの屋敷に行ったんでしょ。あの時の事を話してくれない? 屋敷には誰がいたんだっけ?」
「え、それってスパニッシュ一人だけって言ってませんでした? ミケラルド様?」
カミナの疑問は
「確かに、ナタリーとジェイル、そして私が会ったのはスパニッシュ一人。しかし、【探知】を発動したあの時、反応を示したのは一つではなかった」
「っ!」
これを思い出したカミナは、立ち会がり驚きを露わにする。
「つまり、あの時スパニッシュの屋敷には――」
「――そうだ。誰かもう一人いた」
リィたんの言葉は、まるで怪談でも話すかの如く、場を凍り付かせた。
そして俺は、卓上に突っ伏して現実から逃避しようとしているのだった。
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