その347 残った謎

「第十七回! ミナジリ会議ぃいい! いぇい!」

「「いぇーい♪」」


 これだけ数を重ねれば、皆もう慣れたものだ。

 ナタリー、エメラ、カミナは場を盛り上げるように乗ってくれる。


「いぇーい」


 ジェイルも抑揚よくよう以外は完璧である。

 戦争が終わって一週間。事態は大きく、しかしゆるやかに動いた。


「今日はこれまでの情報整理と、残っている謎について話したいと思います! まずは情報整理から。クロードさん、お願いします」

「はい。リプトゥア国はリーガル国の攻撃を受け崩壊。ブライアン王は属国支配を宣言し、リプトゥア国はこれを受け入れました。しかし、肝心のゲオルグ王は姿をくらましたとの情報も入っておりますので、油断は出来ません」


 オベイル並みのゲオルグの身体能力。そう、SSダブルに匹敵する力があれば、確かにそれは可能だ。

 まぁ、奴が逃げおおせても魔界がせいぜい。いずれまた会う事にもなるだろう。


「また、リーガル国のブライアン王は、シェルフ、リーガル国、リプトゥア国、更にはミナジリ共和国を巻き込み、【真・世界協定】を提唱。これに呼応したガンドフ、法王国によって来月、このミナジリ共和国で世界会議の開催が決定致しました」

「え? 初耳ですけど?」

「先程入った情報なので」

「あ、はい」


 それを聞いたナタリーが身を乗り出す。


「すっごーい! それってミナジリ共和国が認められたって事でしょ!? そうだよね、ミックっ?」

「まぁ、表向きは……かな」

「えー、何でそんなに悲観的なのー?」


 ぶすーと頬を膨らませながら言うナタリーは、とても可愛い。


「今回の【テトラ・ビジョン】は局所的だったからね。各国には当然【テトラ・ビジョン】を設置出来なかった町村があるし、魔族に対して懐疑的かいぎてきな人もまだまだ残ってる。国のトップが認めたからと言って、その国の民全員が認めたって事にはならないよ」

「ん~……道は長い、か」

「いや、道は終わらないよ」

「え!? どういう事っ!?」

「全員が全員、魔族に好意的なんて理想論だよ。魔族に家族を殺されたりとか、魔族が原因で不利益を被った人には特に」


 土台無理な話。それは現代地球にいた俺が歴史として知っている事だから。


「それじゃあどうするの?」

「八割を目標に頑張ればいいんじゃないかな。そもそも、困るのは出国する時で、ミナジリ共和国にいればほとんど害はないよ。だから各国のトップもこっちに来るんだろ。俺が他国に行ったらどうしても騒ぎは起こるから」

「へ~……そういった理由もあるんだね」

「こんなのは千年計画だよ。今の俺たちが出来る事は、出来る限り向こうに歩み寄るしかない」

「うん、全力だね!」


 気合いを込めるように言ったナタリーに微笑んだ俺は、再びクロードを見る。


「他には何かあります?」

「はい。キャンプ地付近に新たな町を作り、ここに農場を作る予定です。彼らの手によって自給自足が賄えるようになれば、ミナジリ共和国の食料問題も大きく改善する事でしょう」

「そうですね。シェルフやリーガル国の支援にも限界があるし、この半年で何とか成果を出さなくちゃですね。俺も色々研究しておきます」

「ありがとうございます。それと、元奴隷の方々の中にいらっしゃった犯罪者は、ミナジリ共和国の法に照らし合わせ、奴隷期間を差し引いた刑期を課しました。幸い貧困が原因による軽犯罪者が多く、牢に入る方は殆どいませんでした。しかし、犯罪歴のある方につきましては、犯罪防止用の特殊契約を結んで頂いてます」


 暴力や盗んじゃ駄目ってあの契約か。


「良い仕事ですね、ロレッソ、、、、さん」

「ありがとうございます」


 ロレッソの智は武器である。それを有効に使わない手はない。

 だからこそ、ロレッソには俺の補佐官となってもらった。

 これにより、ミナジリ共和国に潜む粗を少しずつ減らしていけるはずだ。

 法整備、税金、土地問題と考えればキリがない。

 当然、外交に関してもだ。外交官には元闇奴隷商のコバックが着任した。彼ならば多くの修羅場を潜っているし口も達者だ。ドノバン含むイチロウとジロウが護衛をすれば、大抵の事は出来るだろう。


「さて、お次は謎かな」

「はい!」

「はいナタリー早かった!」

「まずやっぱり地龍のテルースさんでしょうっ?」


 ナタリーがリィたんに向く。

 戦後処理が多く、これまで各々にまとまった時間を作るのは難しかった。

 だからこそ、ここでリィたんの話を聞き、地龍テルースが何故闇ギルドと繋がっていたのかを考えなくてはいけない。


「……ミック、仕込み、、、を使うのはまだ無理なのか?」

「無理だね」


 リィたんの言う仕込みとは、血を舐めた拳鬼と拳神の事。

 戦争の後、どこかの潜んだ拳鬼と拳神に接触するにはまだ早すぎる。

 確かに、【テレパシー】を発動し、【呪縛】を以て二人を操る事は出来る。

 しかし、相手は未知数の闇ギルド。操った瞬間、未知の力を持った存在がそこにいた場合、その仕込みを棒に振る可能性がある。下手に操って駒を失う危険だけは避けておきたいところだ。これを使うのであれば、俺が法王国やリプトゥア国で奴らに近づいてからの方が確実だ。

 この説明をしたいところだが、今回はエメリーとレミリアもこの場にいるので、俺の能力に関わる大事な部分は、出来るだけ伏せておきたい。当然それは、リィたんも理解しているだろう。


「そうか。地龍テルースは戦闘中私に謝罪をした。これが一つのヒントだろう」

「つまり、テルースさんの本意ではない行動って事だね」

「あぁ、それとこうも言っていた。『敵に情報を渡すなと命じられております』とな」


 それを聞いた、ドゥムガが言う。


「それってつまりアレだろ? 地龍も闇ギルドの誰かの奴隷になってるって事じゃねぇのか?」

「うーん、それはないかな」

「どういう事だよ、ガキ?」

「奴隷契約の魔法はリプトゥア国のオリジナルなんだよ。免許制の門外不出の技術を闇ギルドに渡すとは思えない。ロレッソと確認したけど、奴隷契約を使える者から他者への譲渡は、別途特殊契約が必要みたいだし、難しいと思う」


 再現可能だとすれば、俺みたいな転生者で闇魔法に長けている者。

 しかし、その可能性が低いと言い切れるのは、相手があの地龍だからだ。

 地龍と対峙し、それを行使出来る程の実力がある人間……ともなれば、いないとすら断じれるだろう。

 しかし、他に絶対強者へ命令を利かせる方法は?


「あ」

「何だミック?」


 リィたんが尋ねる。


「相手は闇ギルドだし、あり得るかなーと」

「どんな手法だ?」

「人質」


 正確には龍質か。まぁ、そんな事はどうでもいい。

 地龍に家族がいた場合、その家族を人質にとられた場合、地龍は闇ギルドの命令をきかなくてはいけない。

 俺はその答えを問うべく、リィたんを見る。

 まぁ、この間こそ答えとも言えるだろうが、


「……いたな。確かに地龍には子がいた」


 謎が最初から飛ばし過ぎで困るミケラルド君だった。

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