◆その336 冒険者たち
「エメリー殿っ!」
剣聖レミリアが叫んだ時、勇者エメリーは既に吹き飛ばされていた。
「くっ!」
身を
エメリーの着地点に風魔法【突風】を発動し、受け止める。
「ありがとうございます」
『どういたしまして』
遠方から助けたミケラルドの風のクッション。これにより着地する事が出来たエメリーが、正面に立つ男に剣を構える。
「流石、化け物。ワシの攻撃を受け流させおった」
「何者です!」
「相手は勇者……名乗っておくかの。どうせ後でわかる事だ。……我が名はサブロウ。一手お付き合い願おう」
剣神イヅナ、剣鬼オベイル、そして勇者エメリーが騎士団の中から離れた事により、剣聖レミリアの負荷が増える。
それは同時にジェイル、リィたん、ミケラルドの負荷も増えるという意味でもあった。
これを見たミケラルドがレミリアに指示を出す。
「レミリアさん、騎士団は我々で相手します。エメリーさんの援護を」
『はい!』
その時、前方にいたリプトゥア国の冒険者たちが動き始めた。
「さっすが上手いな!」
「「行け、ミック!」」
それはジェイルとリィたんの判断だった。
「はぁっ!」
「「ぐぁああああっ!?」」
リィたんがハルバードでミケラルドのための道を開ける。
「すぐ戻ります!」
その道をミケラルドが駆けるも、騎士団が道を塞ぐ。
ミケラルドが跳び上がり、同時に風魔法【浮遊滑空】を使い、跳躍時間を延ばした。何とか騎士団の囲いを超える。
(いよいよ乱戦になってきた。イヅナとオベイルは大丈夫だろうけど、サブロウ相手にエメリーとレミリアは不安が残る。何とか持ちこたえてくれるといいんだけど……!)
直後、ミケラルドが冒険者集団の先頭とかち合う。
「じゃ、最初に聞いておくけど。戦闘の意思がないって人は?」
冒険者たちから返ってくるのは沈黙と警戒のみ。
溜め息を吐いたミケラルドは、腰を落とし静かに言った。
「寝て起きたら是非ミナジリ共和国へいらしてください」
瞬間、ミケラルドは【瞬歩】と【獣脚】を使い、多くの冒険者を吹き飛ばしながら移動した。
「「ぐぁああああああっ!」」
宙に舞う仲間を見て、後方へ下がる冒険者たち。
「バケモンかよっ!?」
「間合いだ! 間合いをとれ!」
「魔法と遠距離攻撃を!」
「毒を使え!」
瞬時にミケラルドを囲んだ後、中央にいるミケラルドに向かい、無数の魔法と矢が飛んでくる。
「「撃て撃て! どんどん撃て!」」
がしかし、土煙から出てきたミケラルドに傷は一切なかった。
「馬鹿なっ!?」
驚き多くも、そこにいるミケラルドは微動だにしなかったのだ。
沈黙走る中、囲みの外側に異変が起こる。
白目を剥いた冒険者が一人、また一人と気を失い倒れているのだ。
「何だ!? 何が起こった!?」
「ミケラルドはここにいるのに!」
おそるおそる近付くも、そのミケラルドは不気味な笑みを浮かべているばかり。
「動かないぞこれ!」
「っ! そりゃ
弓を構えた冒険者がそう叫ぶと、その背後からミケラルドが現れる。
ミケラルドが中央に残したのは【分裂】で残したミケラルドの分裂体。
「【
そう、ミケラルドが現れたのは大地から。
冒険者が振り返り、射出された矢は眼前でミケラルドにいとも簡単に掴まれ、別の冒険者の肩に向かって投げられる。
「ぐぁ!?」
射手の頭を掴み、そのまま大地へ後頭部を叩きつけたミケラルドが次に使ったのは【擬態】と【擬態
流れるように人垣に入ったミケラルドは、正面にいる冒険者の知覚さえ騙した。
「ど、どこいったんだよぉ!? ――っ!?」
直後、ぐりんと白目を剥いた冒険者。
並行して発動した【視野拡張】と【視野大拡張】、そして【
完全なる死角――背後から矢が当たるも……、
「何で刺さらないんだよ!?」
【外装強化】、【外装超強化】や【刺突耐性】、【鋼の身体】により、ミケラルドの身体はより強固なものとなっている。
頭に当たったとしても、響くのは金属音。
「見えない兜でもあんのかよっ!?」
【石頭】、【鉄頭】により、攻撃が通らない。
たとえ魔法が当たろうとも、【硬化】の能力によりダメージが軽減されてしまう。
「弱点属性は!?」
「吸血鬼なんだから光か火魔法に決まってるだろ!」
【硬化】の能力は、保持している魔法属性の耐性を向上させる。
全ての属性を習得しているミケラルドにとって、弱点属性などないのだ。
「また潜ったぞ!?」
ランクもまばらな冒険者たちのチームワークは皆無。
たとえパーティで参加している冒険者がいたとしても、ミケラルドはそれを優先的に狙い、チームワークをかき乱した。
地中から足を掴み、大地に引きずり込む。
出て来たミケラルドがくすりと笑う。
「おや、生首みたいですよ」
首以外生き埋め状態となった冒険者の顔が真っ赤になるも、身動き一つ取れないのだ。
秒単位で十数の冒険者が倒れ、気を失い、埋められる。
戦闘に参加している冒険者の数が徐々に減って行く。
すると、一人も冒険者が気付く。
「な、何で……女だけ……?」
そう、倒れ、気を失っているのは男の冒険者ばかり。
ミケラルドは狙うように男冒険者を倒し、女の冒険者だけを残した。
「これで、最後ね」
中指でコツンと額を叩き、最後の男冒険者を倒した後、残った百人弱の女冒険者たちがミケラルドを睨む。
「な、何をするつもり!?」
「一度使ってみたかったんですよ」
「……へ? あ? ……え?」
徐々に紅潮していく女の顔。
周りの女たちは腰が抜けたように膝を突き、うっとりとした目でミケラルドを見る。動機も激しくなり、ミケラルドを見る目が明らかに変わる。
「うわぁ……すっごい効き目……」
初めて見る効果に、ドン引きのミケラルド。
「なるほど、これが【フェロモン】の効果ね。ナタリーには使った事内緒にしよう。あ、みなさん、ここで『待て』ですっ♪」
微笑んで言ったミケラルドの命令に、
「「はぁ~い♪」」
その命令を喜んで受け入れる女たちだった。
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