◆その314 リプトゥア軍

 玉座に座り、静かに時を待つ男――【ゲオルグ・カエサル・リプトゥア】。

 リプトゥア国の王は、魔族四天王スパニッシュ・ヴァンプ・ワラキエルの屋敷内を映していた【映像】を見、皆に知らせた。

 既に冒険者ギルドから勇者の所在がミナジリ共和国にいるという情報は伝えられている。しかし、攻め入る決定打としては不十分と言えた。

 当然、勇者を取り戻す大義名分としては成り立つ。しかし、それ以上の行為、、をするにしては、条件が弱かったのだ。

 ゲオルグ王の前に跪く騎士ホネスティが言う。


「陛下、騎士団長より伝令です」

「聞こう」

「『万事抜かりなく』との事。間もなくして五万、、の軍勢がミナジリへと発つ事が可能です。それと、私が所属する団体、、、、、、からも、精鋭が参加する手はずとなっております」


 闇に染まりしホネスティの笑み。

 勇者エメリーと日々鍛錬をしていた彼こそ、闇ギルド所属の伝言役。


「うむ、良きにはからえ。冒険者ギルドはどうなっている?」

「既に依頼は完了済み。緊急クエストと称し戦争の参加を募ります。もっとも、戦争と呼べるものになるかは不明ですが」

「過信するでない。リィたんなる存在、Z区分ゼットくぶんとすら言われているのだ。奴の相手はどうする?」

「それはこちら、、、にお任せください」

「なるほど、勝機はこちらに有り……か。各国への通達は余に任せよ。それが済み次第、ミナジリ共和国を征服、、する」


 そう、リプトゥア国の狙いは勇者の奪還と共に、ミナジリ共和国の征服にあった。


「女は売り、子供は奴隷にしろ。それでリプトゥア国はまた潤う」

「かしこまりました。騎士たちも喜びましょう」

「せいぜい商品は壊さぬようにな」


 ニヤリと笑い合うゲオルグ王とホネスティ。

 大国リプトゥアが抱える実力者は計り知れない。

 冒険者の質は勿論の事、騎士の武力も高い。

 リプトゥア国の城下町にある冒険者ギルドには、多くの冒険者が詰めかけていた。


「参加するだけで白金貨一枚とは豪気だなおい!」

「低ランクでも参加出来るんですよね!?」


 リプトゥアの冒険者ギルドの受付員ラスターの前にはベテランの冒険者から、新人冒険者まで多くの冒険者が、戦争への参加を表明していた。


(あのミケラルドさんが魔族と内通? そんな事するはずがないと思うんだけど、冒険者ギルドが認めちゃってるから、どうしようもない。お金に目がない冒険者なら、この報酬は破格。ギルドも受けざるを得ない。だけど、それを受けない冒険者がいるのも、ミケラルドさんの美徳……か)


 ラスターがちらりと酒を酌み交わす一つのパーティを見る。

 そのテーブルには、武闘大会でリィたんと戦ったラッツ、そのパーティメンバーのハン、そして救護室を担当していたキッカがいたのだ。

 彼らはランクA冒険者パーティ【緋焔ひえん】。今回の戦争に参加するか否か、ハンが議題として出したのだ。


「じょ~~だんでしょ、ハン? 無し寄りの無しよ。戦争へ参加するなら一人でしなよ」

「うぇ!? 何だよ、いつものキッカなら絶対参加すると思ったのによ?」

「相手が相手でしょ。ミケラルドさんを売るなんて考えられないわ!」

「でもよ、実際に勇者を攫って、魔族と通じてるって話だぜ?」

「そんなのは幻想かまやかしか言葉の綾か冗談かシャレでしょ! それに、エメリーがギルドに顔を出さなくなったのは、リプトゥア国が軟禁してたって話じゃない!」


 勢いでまくしたてるキッカを見て、ハンが周囲を気にする。

 キッカの声は冒険者ギルド中に響いていたのだ。


「お、おい。もうちょっと静かに……――」

「――このギルドにいる連中なら大抵知ってるでしょ! エメリーの性格! あの子はちょっとドジだけどしっかりしてんの! ミケラルドさんは若くして商人や貴族、王様になってそれ以上にしっかりしてんの! 誘拐なんてするはずないじゃない! そんな二人が一緒にいるって事は、どう考えてもミケラルドさんが軟禁されて困ったエメリーを助けたんでしょうが!」


 荒ぶるキッカがエールが入ったジョッキをガツンとテーブルに置く。

 するとハンが小声でラッツに聞く。


「おい、ラッツ。誰だキッカに酒飲ませたの? こいつ飲むと性格変わるの知ってるだろ」

「キッカが自分で頼んだ」

「責め立てる相手がいねぇじゃねぇか……」


 とほほと項垂れるハンをよそに、キッカのクレーム交じりの口撃こうげきは他の冒険者たちへ向く。


「それに、魔族と繋がってたって言ってるのは上の連中だけでしょ! そんなの証拠にもなりゃしない! 金しか見えてないやつしかこんな戦争参加しないでしょ!」


 ギロリと向くキッカの視線。

 それにビクついてか、幾人かの冒険者たちが依頼表を元の場所に戻す。


「コホン……キャンセルで」

「こっちもキャンセルで」

「やめます」

「冒険者辞めます」


 等、キャンセルが相次ぐ。

 ギルド受付員のラスターは笑顔をもってそれを受け入れ、自腹を切ってキッカへエールのおかわりを出したのだった。

 しかし、それでもいるのだ。リプトゥア国にいる冒険者の中には、エメリーもミケラルドも知らない冒険者が。

 当然、名前は知っているだろう。しかし、その人となりを知っている者はどうしても限られてしまう。徐々に膨れ上がる参加冒険者の人数に、不安を覚えるキッカだった。

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