その253 新たなる町
粗方説明が終わった後、レミリアは複雑そうな表情をし、しかし何も言わずに一つ頷いてからその場を去った。
個人としては応援したいのだろう。しかし、冒険者としては、この行動を褒められない。そう判断したのかもしれない。
「私……本当にここにいていいんでしょうか……」
俯くエメリーに何と声を掛けていいのか。
考えない訳にはいかない。だけど考えたところで答えが出る訳でもなかった。
鼻息をすんと吐いた俺は、再び
「はい、一本」
「ふぇ?」
「勝負の途中でしたよね。なので一本です」
「え? えっ? そ、それはずるいです!」
「何と言われようが一本です。細かい事気にしてるから負けるんですよ」
俺はエメリーを
「悔しかったら、さっさと強くなる事です。悩んでる暇はありません、よっ!」
「っ!」
更に攻撃を仕掛け挑発した。
「はぁ!」
心なしか、先程より剣速が向上している。
もしかして、俺の言葉でエメリーが成長した……?
あんなくだらない締まりのないフォローで?
「やぁあああああああっ!!」
いや、確かに成長している。
何がキッカケなのかはわからないが、エメリーの強さは明らかに変わった。
この剣は……レミリアに近い?
ほんの少し前までランクAだったというのに、やはり潜在能力は世界一という事か。
だが、この程度で負けてやる程、甘くはないのだ。
エメリーの力を引き出しつつ、俺も彼女の剣を学ぶ。
この余裕は、俺がほぼ毎日リィたんと訓練した結果でもある。
やがてこの剣が俺に向くのだろうか。それが疑問でならない。
エメリーにあぁ言ったが、正直、「細かい事」……どころではないのだ。これは俺にとって「非常に
だからこそ俺は、エメリーに力を貸さなければならない。
今後、俺が、俺たちが生き残るために。
「はい、お終い」
「はぁはぁはぁはぁ……!」
屋敷の裏庭で仰向けになって倒れるエメリーは、汗だくになりながらもどこか満足気な表情をしていた。
「ひ、久しぶりにこんなに動きました……っ!」
「明日またこの時間ね。正体知ってる人なら、声掛けて相手してもらってもいいからね」
「ありがとうごじまふっ!」
面白い噛み方をするものだ。
「あいちちち」
舌を噛んでしまったであろうエメリーは、ぺろりと舌を出しながら苦笑して見せた。
俺もそれを苦笑で返し、エメリーに【ヒール】を掛けその場を去ったのだった。
◇◆◇ ◆◇◆
その後俺は、ミナジリとリーガル国を繋ぐ新たな町へ転移した。
「ミケラルド様っ!」
俺の下に駆け寄って来る一人の男。
「…………誰だっけ?」
「ちょっとちょっと! ランドですよ! ラ・ン・ド!」
「……誰だっけ?」
「ほら! アルフレド様の別邸の! 地下で! 捕まってたシュバイツを見張ってた! あの! ランドです!」
「あー……あーあー! 思い出した! 話にだけ出てきたりしてたけど、久しぶりに見た気がするわ」
「も~、お人が悪いですなー、ミケラルド様は~」
こんなほんわかボーイな性格をしていたのか、ランドは。
そういや、シュバイツが言ってたな。ここの責任者はランドを任命したと。
「何か問題は?」
「は! 先程ドマーク商会の方から連絡がありました! これよりリーガルを発ち、この【オードの町】に向かうとの事です!」
「…………いつ町の名前がオードに?」
「えーっと……昨日ですね? 皆自然にそう呼んでましたよ? ミナジリの手前だからオードだろーって事で」
……なるほど、つまり俺の名前――ミケラルド・オード・ミナジリの名前を逆になぞったのか。確かに手前だが、隣国の公爵のミドルネームを町の名前にするとか、ちょっとまずいのでは?
いや、あの
「はぁ、わかったよ。それで? ミケラルド商店
「つつがなく、です! カミナさんが応援に来てくれて、一通り準備してくださいました!」
なるほど、カミナに今度ボーナスを出そう。
「ミケラルド様、一つお願いが」
「何?」
「このオードの町にも冒険者ギルドを招致する事は出来ないのでしょうか」
「その内にって事で考えてたけど、何? 結構大変?」
「やはりリーガル国の首都リーガルに近い事もあり、モンスターの個体の強さはミナジリより強力です」
確かに、依頼としてはシェンドの町よりリーガルの方が難度の高いものが多かった。外壁で国境を仕切ったとしても、その段階でミナジリ側にいた強力なモンスターは、この辺をうろつく事にはなる、か。
「わかった。話を通しておくよ。それと、聖水路もこちら側に通すようにしよう」
「おぉ! それは助かりますー!」
この町は、国境こそ隔てているが、首都リーガルとマッキリーの間にある中間の町。
ここを繁栄させれば、流通が潤い両国間でアクセスしやすい町となるだろう。
俺は気合いを入れ、聖水路を造り始めるのだった。
「あ、その前にランドルフ殿に一応許可もらっておこう」
テレパシーで新たる町――【オードの町】を説明したところ、ランドルフは当たり前かのように「自由にしてくだされ!」と言ってくれた。
勿論、「今度遊びに行かせてくだされ!」とも言っていた。
さて、明日はリーガル大使のギュスターブ子爵が来る予定だ。そういえば、シェルフからの大使は一体誰になったのだろう?
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