その217 ストーカーの目的

「つまり、私の人となりを調べていた……と?」

「あぁ、だから低ランクの冒険者にも依頼してたんだろうな。まぁ成功報酬って事で胡散臭がって、結局受けなかったらしいがな」


 俺の質問に対し、リッツのこの見解。

 これは完全に俺が想定していた【調査】とは違うものだ。

 まるで俺という【個】を隅々まで調べようとする意思すら感じる。


「リプトゥアに行けば依頼されるんじゃねぇか? あ、本人が行っちゃ意味ねぇか。はははは!」


 その後、リッツから得られた情報は一つだけ。

 リッツに声を掛けた依頼者の容姿の通り、他の冒険者に声を賭けた依頼者も、皆子供のように背が低かったという事だけ。

 リッツがいなくなった応接室で、俺とディックは互いの考えのまとめるためか数分程口を閉じた。そして、俺がディックに顔を向けると、彼から口を開いたのだ。


「考えすぎ……っていう答えは安直だよな?」

「問題は私の情報を集めて得られるメリットですね」

「ミケラルド・オード・ミナジリとお近づきになりたい……って線は薄そうだな」

「ならこちらで情報を集めるべきでしょう。わざわざリプトゥア国で情報を集める意味」

「そりゃ簡単だ」

「へ?」

「リーガル国でお前さんの情報を集め出したら一瞬で締め上げられちまうからな」

「それは一体どういう意味で……?」

「意外にミックのファンは多いって事さ。あぁ、心当たりがないなんて言うなよ? 俺にはあり過ぎて返答が困るからな」


 肩をすくめるディックの先出しされた回答に、俺は口を結ぶ他なかった。


「だが、情報を集めているのが皆子供ってのが気になるな」

「えぇ、それは私も気になっていました」

「ランクAに満たない冒険者に声を掛けていたのは、情報の濃度が薄くてもいいって理由なんだろうが、そこまでしてミックの情報を集めたいか? それこそこっちに来て子供たちでミケラルド商店行った方が色々聞き出せるだろ? ミックがいなくとも店員に根掘り葉掘り聞けるのは子供の特権だ」

「確かに、直接子供が情報を集めた方が早い。……いえ、待ってください」


 と言ったところでディックも同じ回答に行き着いた。


「「リプトゥアから出られない訳がある……」」


 そう、子供たちの行動範囲がリプトゥアに絞られているのだ。


「それってつまりアレか? リプトゥアの悪しき風習とも言える……――」

「――奴隷制度」


 子供たちが奴隷で、そのあるじが俺の情報を集めているとしたらこの点と点が線で繋がる。だが、それを確定付ける情報が揃いきってないのも事実だ。

 仕方ない、ここは自分から動くしかないか。


「ディックさん」

「あん?」

「一つご相談があります」


 ◇◆◇ ◆◇◆


 ディックの準備が整うまで時間を要する。

 それまでの間、しばらくサボっていた依頼消化のため、俺はマッキリーの町の冒険者ギルドへやって来ていた。

 ランクBの依頼が一件だけあり、それを消化して戻った時、ギルド受付員が俺を呼んだ。


「ゲミッドさんが、俺に?」

「えぇ、お話があるとの事で是非奥へ」

「わかりました」


 マッキリーとシェンドのギルドマスター、白老ゲミッドが俺を呼んだのだ。

 ギルドマスターばかりと喋らず、是非とも素敵な女性と話したいお年頃のミケラルドさんだが、彼らが俺を呼ぶ時は総じて何かしらの問題があった時なのだ。


「む、来たかミケラルド」

「ゲミッドさん、お久しぶりです」

「うむ、【テレフォン】の魔法は上手く利用させてもらっている。まぁ一部だけだがな」

「ははは、仕方ないですよ」


 そう、盗聴付きギルド通信の【テレフォン】は今だ撤廃されていない。

 申請と許可に時間がかかるのは勿論だが、どうもギルド本部からの信頼度が低いのも原因らしい。これまでずっと使っていたモノを急に変更するとなると、困惑してしまう。それは人間にとって当たり前の反応だ。だから試験期間を設け、各地で試験運用している段階である。この試験運用をリーガル国で集中してしまうと、盗聴している主に不信感を持たせてしまうという考えから。この案を採用したあたり、ギルド本部も盗聴という行為には気付かなかったようだ。

 だから今は、重要な情報のやり取りについては俺の【テレフォン】を使い、日常業務をギルド通信……つまり水晶で行っている。正直、そこまで信用してくれているならもう変えてしまえと思うのだが、そう判断出来ないお役所的な流れがあるのだろう。


「早速だがランクSの仕事だ、行けるか?」

「うぇ? この前やったばかりで……」

「仕事は世界中、ランクSに上がった時そう伝えられたはずだが?」

「そういえばそうでしたね」


 まぁ、「行けるか?」と聞いてくれるあたり、冒険者への配慮もあるのだろう。

 この流れで断れる冒険者は少なそうだが。


「……内容から伺いましょう」

「輸送の護衛が今回の仕事だ」

「へ? 何でそんな簡単な仕事を……?」

「運ぶモノがモノだからな」

「一体何を?」

「オリハルコン」

「あー、それなら仕方ないですね」

「とはいえ、今回はサポートだ」

「サポート? 別の冒険者が既に?」

「オリハルコンの輸送、このメインの護衛にはSSダブル剣鬼けんきが付く。お前はそのサポートとして呼ばれている」

SSダブルシングルの二人も呼べば、大赤字なのでは?」

「相手は国だ、赤字にもならん」

「うわぁ……何となく読めてきました」


 オリハルコンの輸送って事は、当然輸送する必要があるからなのだ。

 オリハルコンの加工には熟練した鍛治師が必要。噂によると、オリハルコンを加工出来る熟練した鍛治師はガンドフに一人しかいない。

 輸送内容さえ聞いてしまえば、特定の場所からガンドフへの輸送だと理解出来てしまうのだ。俺がオリハルコンを加工出来るという噂はまだ出回ってないだろうからな。


「どこからガンドフに運べばいいんです?」

「流石、物わかりがいいな」


 ニヤリと笑うゲミッド。

 そんなゲミッドから出発点を聞いた俺は、渋々とそこへ足を向けるのだった。

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