その198 根回し
「お化け屋敷ぃ~!?」
俺の素っ頓狂な声が響く。
ランドルフがそれを聞きつけたらしく、クロードとの会話を中断してこちらへやって来た。
「ディック殿、もしやハンニバル卿の案件か?」
「流石閣下、ご存知でしたか」
ディックが言うと、ランドルフが俺を見た。
「確かに、ミックならば可能かもしれない。それに、ミックにとって悪い話じゃないだろうしな」
「ちょちょちょ、ちょっと待ってください。一体どうして私に悪い話じゃないんですか?」
「ハンニバル家は伯爵といえど強い発言力を持つ貴族だからだよ」
「あー……なるほど」
そういう事か。ディックの補足で得心がいった。
先日、武闘大会前にブライアン王から提示された条件……か。
「つまり、ミナジリを国家として成立させるためには、ハンニバル家の理解も必要だと」
「ハンニバル家の先代が築き上げた交友関係は非常に強固なものだ。同じ伯爵家、子爵家、男爵家は勿論、水面下では有力貴族との交友もあったと聞く。解決すれば必ずミックの力となるだろう」
「……なら、受けない手はないですね」
俺がそう言うと、ディックはニカリと笑った。
「そうこなくっちゃな!」
◇◆◇ ◆◇◆
「先代のハンニバル伯爵が亡くなった頃から、ハンニバル家では夜な夜な不可思議な事が起き始めたそうだ。独りでに絵画が落ち、壺が割れ、扉が開く」
うわぁ、ポルターガイストじゃないか。
「だが、事はそれだけでは済まなかった」
どういう事だ?
「現ハンニバル伯爵もとい【ラニエール・スルト・ハンニバル】は、その正義感から原因の究明に出た。他国で冒険者を募り――」
「――他国で?」
「どこかのミナジリ子爵にはわからねぇだろうが、冒険者ギルドと貴族の間には色んな壁があるんだよ。同国で冒険者ギルドへの依頼なんて出した事がバレれば、笑いもの……とまではいかねぇが、家名に傷くらいは付くだろうな。どこかのミナジリ卿にはわからないだろうが、その時点でハンニバル伯爵がとれる行動としては正しいだろうな」
「ここのミナジリ家当主も、徐々に理解してきた次第です……」
そういえばそうだったな。
ランドルフも、最初俺が「冒険者ギルドに依頼してくれ」って言った時、「これを機に冒険者ギルドとの結束を強くするのも悪くないか」って言ってたもんな。
当然、当時のランドルフにも大義名分はあっただろう。
娘の命の恩人が冒険者だったという事実がなければ、そういった行動に出なかったかもしれない。
「んで、その冒険者が当時ランクBだった
最近よく聞くな、そのパーティー名。
なるほど、キッカやハン、ラッツが受けたのか。
「警護って名目で受けた依頼なんだが、その依頼は達成される事はなかった」
「どういう事です?」
「見えざる何かにやられたらしい。キッカって女魔法使いは休憩睡眠中だったが、ラッツとハンって冒険者は物凄い力で屋敷中に叩きつけられ深手を負った」
何それ、怖い。
「それだけじゃない」
これ以上何があるのか。
「キッカも目を覚ましたら、両の足首に手形のようなものがハッキリ残っていたらしい」
何それ、超怖い。
「ランクBでは対応不可。それが冒険者ギルドの判断だった。で、ランクAの二人組がそれを受けたらしいが…………」
「……いや、何です? 聞かせてくださいよ」
「行方不明になっちまった」
「さてと、急用を思い出したので私はそろそろ――」
「――おいおい! そりゃねぇだろう!」
「それ絶対怖いやつじゃないですか! 嫌ですよ私!」
「だから最初にお化け屋敷だって言ったじゃねぇか!」
「それホラー映画でお決まりのやつだから! 絶対倒せない系のお化けとか悪魔とかいるって!」
「だったらいつもお前の
「怖さのベクトルが違います! それに、リィたんはあぁ見えて可愛いところがあるんですよ!」
「お化けなんて可愛いもんだろう!」
「どんな価値観ですか!」
「いやだってお前……吸血鬼じゃねぇか……」
………………盲点だった。
そうか、俺はホラー映画お馴染みの吸血鬼だった。
「ところで……ホラー映画って何だ?」
「舞台のようなものですよ」
「ほぉ、そんなものが……っと、さぁ着いたぞ」
ディックの案内で着いた屋敷は大きくもなく、小さくもない屋敷だった。
しかし、築数十年を思わせる経年劣化が至るところに見てとれた。
二階の窓からは白い服を着た女性がこちらを見下ろしている。
「ランクS案件なものでな、現在この屋敷には
「え、いや……二階……」
「二階? ただの窓だろう?」
ディックがこちらを向くと、ソレはまた窓から顔を覗かせた。
「俺はリーガルの冒険者ギルドで伯爵と待ってるからな。後は頼んだぜ」
パシンと肩を叩かれ、ディックはここから去って行く。
俺はその間も、二階から見下ろすソレをずっと見ていた。
俺はソレを見ながら静かに呟いた。
「俺の想像してた根回しと違う」
何……アレ?
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