その194 熱い戦い
一体どれだけの時間が経っただろう。
二回目の【水球】の時は正直死んだかと思ったが、攻撃の対処をあれこれ考えている内にリィたんの【水球】はいつの間にか消えていた。
リィたんの魔法が遂に金剛斬に移った時から記憶がない。
俺は何故今ここに立っていられるのだろう。
「はぁはぁはぁはぁ……」
「見事だミック」
「へ、へへへ……何がぁ?」
「我が魔法を全て受け立っている。この世にそれだけの者がいかほどいるか」
「ま、まだ二つ残ってるじゃん」
リィたんが放っていない魔法がまだ二つ残っている。
それだけは何となく覚えているのだ。
それは、リィたんが国を滅ぼせるだけの水龍足る
代名詞とも言うべき魔法――それが【津波】と【大津波】である。
「考える頭も残っている。
【覚醒】と言わないあたり、リィたんも大分人界に慣れていらっしゃる。
「あれは今度だ」
「その今度は確定なの?」
「確定だ」
そこでミケラルドの
「次のステップに進む準備は出来たか?」
「まだ先があるのか……」
ガクリと肩を落とした俺に、リィたんはくすりと笑った。
「何、そんなに難しい事でもない」
これまでが難しくなかったと思っているのだろうか、あの子は。
「魔法を受けたと言っても、それは全て各個処理していただけ」
嫌な予感しかしない。
「ならば、間髪を容れず、より実践的な魔法攻撃ならどうかと思っただけだ」
何故思っちゃった?
……心なしか、楽しそうだなリィたんのヤツ。
「さぁ行くぞミック。私たちの戦いはこれからだ……!」
やはり最終回だったか。
◇◆◇ ◆◇◆
「……うぅ……うぅ~……は、走っちゃダメだロメス!」
響くのは俺の声のみ。
起き上がった瞬間、そこはかつて俺が訪れた場所だと理解する。
何故なら俺の隣には顔を引きつらせたキッカがいたのだから。
「お、起きました? 何です、最後の寝言。ロメスって誰です?」
「あー、えーっと、何かの約束に間に合わなかった人。それでオコリンティウスが怒って邪知暴虐になってロメスに罰を与えるんです。走らないとロメスを殺す。でも、走ると妹の顔にイカスミをぶちまける仕掛けが作動しちゃうから、ロメスは苦悩するって話」
「うーん……イカスミならまだなんとか……なら、走らなくてもいいんじゃないですか? イカスミ業者が儲かりますし」
「新たな知見を得た気分ですよ」
「うん、問題なさそうですね」
「で、ここはどこです?」
「私が救護室担当って事、覚えてません?」
「やっぱり救護室か」
「何だ、わかってるじゃないですか」
「確認ですよ、確認。……で、何で私は救護室に?」
「負けたんですよ、リィたん選手に」
「え、熱い戦闘は……?」
「ちゃんとやってましたよ。私はミケラルドさんがフラフラになりながらもリィたんさんの魔法を全て凌いだところが好きです」
「え、アレかわしたの? どうやって?」
「さぁ? ご自分の胸に手を当てて聞いてみては?」
大変だ、心臓の音しか聞こえない。
「あ、私はあの時が好きです! 弱々しくも『もうちょっとだけ戦いたいんだ……』ってリィたんさんに言うところ!」
真後ろにネムがいるとは思わなかった。
「あ、それわかります! 驚きましたよね。リィたんさんも嬉しそうに『あぁ、まだやろう!』って言っちゃって!」
「うんうん! あー、でも! 立ったまま気絶しちゃったミケラルドさんをゆっくり抱えるリィたんさんも良い味だしてました!」
「それっ! 『手厚い看護を頼む』とか低音きかした声で言われちゃった日には私もうっ!」
このお腐れ神の二人は、いつの間に意気投合してしまったのだろう。
つまりアレだ。俺はなんやかんや熱い戦闘をリィたんと繰り広げ、負けてしまったと。そういう事だ。
しかし、こういう時にリィたんがいないのは不可解である。
「それで……肝心のリィたんは?」
俺がそう聞くと、ネムが思い出したように言った。
「そうだ、表彰式です! さぁほら、ミケラルドさんもですよっ!」
「え、俺も?」
「ミケラルドさんとエメリーさんも【ランクS】に昇格するそうですよ」
「あー、それで表彰式ね」
「レミリアさんの進言もあり、冒険者ギルドが判断した結果だそうです」
確かに、エメリーにはそれだけの実力があった。
なるほど、見るべきところはしっかり見ているという事か。
「もうそろそろ始まるという話だったので、ミケラルドさんのところに来たんですよ」
「出来れば最初にそれを聞きたかったよ」
「ミ、ミケラルドさんが起きたらホッとしちゃったんですー!」
「あぁ、そんなに心配してくれてたんだ。ありがとう」
「とととと当然ですっ。私の管轄の冒険者さんですからね! 心配するのは当然なんです!」
頬を紅潮させながら慌てるネム。
そんなネムをニヤニヤしながら見るキッカは、一体何を思っているのか。
「そ、そうです! はいこれ!」
ネムは、俺が武闘大会の職員に預けた
「お、なんかこれも久しぶりだなー」
「うん、やっぱりこっちの方が
「イッケメ~ン!」
ネム、そしてキッカの賛辞を苦笑しながら受け取った俺は、ゆっくりと歩き始めた。
その日以降、俺とリィたんは一躍有名人となった。
リーガルが生んだ武闘大会覇者と……その
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