その195 拗ねたリィたん

「ほぇえ~……ここがミナジリ領か~」

「あ、サッチ、、、さん。後でギルドに顔出してもらっていいですか?」


 ネムがそう言うと、俺が本戦第四回戦でスカウトしたサッチはミナジリ領を見回しながら言った。


「あぁ、拠点移動報告だろ? 後で申請しに行くぜ」

「はーい、お願いしまーす!」


 ネムが小走りに去って行く。


「拠点移動報告? それって何です?」


 俺が聞くと、サッチが頭をポリポリと掻きながら思い出すように言った。


「何でも、ランクAくらいになると、いなくなるだけで冒険者ギルドの戦力バランスが変わっちまうって話だよ。冒険者ギルドが把握するために、別の国に拠点を移すってなったら報告して欲しいとか何とか。まぁ強制じゃないけどな」

「へぇ、そんなシステムがあったんですね」

「で、魔族はどこにいるんだい?」


 さりげなく、そして自然に言ったな。


「せめて声は落としましょうよ」

「あ、そうかそうか。気をつけなくちゃいけないのか」

「新たに移り住む人は知らない人が多いので、気をつけてください」

「へーい」


 スカウト後、彼への面談を行いミナジリ領の秘密を話した。

 当然、それは【呪縛】という切り札があったからこそ出来た事だ。

 しかし、サッチにそれは必要なかった。彼は現金至上主義。

 雇い主が誰であれ、金さえ払ってくれれば問題ないという俺好みの性格をしていた。

 まぁ、こちらのお金が尽きたらどうなるかはわからないが、現状その予定はないのだ。

 彼の性格に甘える事にしよう。


「しかし、本当に上手くいくのかねぇ? その【新人冒険者アドバイザー業務】ってのは?」

「上手くいかせるんですよ。私とリィたん、それにネム。そしてサッチさんの経験を下に新人養成のカリキュラムを組みます。戦闘訓練、座学講習、教官付き添いの依頼消化。冒険者の質を向上させ、生存率を上げる。これこそがミナジリ拡大の一歩になります」

「どうやって拡大するんでぇ?」

「ここを新人冒険者の聖地にするんですよ。それが成れば冒険者人口が増えます。人が集えば金が集まる。金が集まる場所では商売が成り立つ。まぁ、現状は夢物語ですけど、ちゃんと他の手も考えてますから」

「ふ~ん、ま、俺は娘の学費を払ってくれるならそれでいいぜ」


 正直、高い買い物ではあった。

 まさか、法王立聖騎士学校の学費が、年間、法王白金貨五十枚とは驚きだ。

 何だ、学費五千万って? 満三年通ったら日本円換算、約一億五千万だぞ?

 サッチには馬車馬のように働いてもらいたいところだが、ホワイト企業を目指すミケラルド商店だ。余り過酷な状況には出来ない。

 なので、サッチには長年ランクA冒険者を務めた知識を提供してもらおう。

 正直、それだけで法王白金貨百五十枚分の価値はある。


「んじゃまずは何をすりゃいいんだ?」

「ゴブリンの倒し方を――」

「――何だ、そんな簡単な事――」

「――五十通りくらい考えてください」

「は?」

「勿論、子供のような腕力でも勝てるような倒し方じゃないとダメですからね」

「……正気か?」

「おや、これが嘘を言っている目だとでも?」

「………………けっ、来て早々後悔してるところだぜ」


 と言いつつも、サッチはまとめてくれそうである。

 武器別、攻撃タイプ別、魔法攻撃別等、全ての倒し方を網羅する事で、教科書を作成する。それが最初の目標といったところか。


「……で、リィたん? 何でさっきから黙ってる訳?」

「黙ってない」


 まぁ、今は喋ってるからな。

 不服そうな顔はそのままだが、一体何が不満だというのだろうか。


「何でさっきまで黙ってたの?」

「…………レミリアの件だ」

「あー、落ち着いたら何かミナジリに来るとか言ってたね? それが何か?」

「何かではない!」


 今日のリィたんは何故かぷんぷんぽんぽこ丸である。


「あの女の魂胆はわかっている」

「そうなの?」

「ミックに剣を造らせ、ミックの剣技を盗む気だ!」

「まぁ剣聖だからね。強い剣や剣技は知りたいところだろうね」

「武闘大会中はミックの糧となると思い戦闘を許したが、ここに戻ったのならそうはいかん! ミックの時間は有限なのだ! レミリアに構っている暇はないぞ!」


 なるほど、つまりリィたんは俺の事を心配してくれているのか。

 え、何この子……可愛い。


「それだけではないぞ!」


 他にもあるのか。


「先の戦いで気付いた! 既にミックは私と訓練が出来る実力を付けてきている! そう、つまりミックは毎日私と戦えるのだ!」


 リィたんと戦える場所探しておこう。


「だから、だからミックの時間は有限なのだ! レミリアに構っている暇はないぞ!」


 どこかで聞いた内容だが、つまりリィたんは俺の成長を望んでいるのか。

 え、何この子……超可愛い。


「そうだ!」


 何やら思いついたようだ。


「ミックが今の内に、レミリアの剣を造っておけばよいのだ!」

「なるほど、それなら頼まれた時の手間も省けるね」

「そして剣技の指導はジェイルに任せればいいのだ! 元々はジェイルの剣、ミックが教える道理はない! うん!」

「確かに理に適ってるね」

「ふふふふ、だろう? これでミックは私と一緒に遊ぶ――訓練が出来るぞ!」

「今、遊ぶとか言わなかった?」

「言ってない」

「でも『遊ぶ』……あたりまで言い掛けたような?」

「言ってない」

「………………よし、リィたん遊びに行こう!」

「そうだな! 何がいい!? 百連続の金剛斬をかわし続けるというのがオススメだぞ!」


 それは俺が地獄にススムやつでは?

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