その175 開会の儀
午前中、武闘大会の受付が締め切られ、午後一で試合の対戦表が貼り出された。
「お~、見事に分かれたね」
「私はAブロック。ミックはHブロックか」
「お二方、パーシバルさんが言った通りシード選手扱いみたいですね」
ネムの言う通り、パーシバルは本当に俺たちをシード選手とした。
どうやら各ブロック
まぁ、それも顔と名前の一致がされてからだろう。俺たちは、認知度としてはそんなに高くないだろうからな。
「シード選手だと初日は一度戦うだけみたいですね」
そんなネムの言葉に、俺は耳を疑った。
「……初日?」
「あれ、知りませんでした? 大会は三日間に分けて行われるんですよ?」
「そうだったのか……! 今日中に帰って色々やりたかったのに……」
ガクリと項垂れる俺に、ネムが呆れた声を漏らす。
「ミケラルドさん、もうちょっと緊張感出ませんか?」
「緊張したら出る実力も出ないよ……」
「物は言いようですねぇ……あ、そうだ」
「どうしたの?」
「お二人共二回戦からなら、開会の儀を観られるじゃないですか!」
「「開会の儀?」」
◇◆◇ ◆◇◆
ネムに連れられ、コロセウムの観客席に移動した俺たちは、眼下で対峙する二人の強者を見つけた。
「お~、開会の儀ってこういう事か」
得心した俺に、ネムが明るく頷く。
「はい! 毎年、武闘大会の開会に伴い、試合が行われるんですよ!
「どうしたの?」
「あ、そうです! 昨年の覇者のユミルさんは亡くなったんでした!」
さらっと怖い事言ったな。
「だから一昨年の覇者である剣聖レミリアさんが今年もいらっしゃったんですね」
と、納得しているネムは、やはりギルド職員なのだ。
人の生き死にが付きまとう業界である。多少の免疫はあるという事か。
そんな事を考えていたら、試合開始の
盛大な歓声の中、レミリアは一歩も動こうとはしない。
「あの者、やはり性格が壊滅的に悪いな」
「動かないのではなく動けない……か」
「え、どうしてですかっ!?」
「既に全方位への対処が終わってるんだよ、あのパーシバルって人。相手の攻撃に合わせていつでも魔法が発動出来る状態……って言えばわかりやすいかな」
「格下であるレミリアという女が好機を見出す瞬間は、初手において他ならない。それを先の先で潰された」
「うわぁ……確かに性格が破綻してますね……胸を貸す気なんてさらさらないじゃないですか」
俺とリィたんの説明に納得し、パーシバルへの落胆を見せたネム。
「だけど、動かないといけない。何たってこれは商売だから。既に
「っ、動くぞ」
リィたんの読みは正しく、レミリアは動いた。
小手先が通じる相手ではない。一直線にただ己の力を信じて真っ直ぐ駆けた。
流石一昨年の覇者だ。実力は一級品。ラジーンより速いんじゃないか?
「やるねぇレミリア。でも、甘いよ」
レミリアの眼前に現れたのは巨大な土壁。
強度は俺のソレに近い? いや、それ以上か。
「はぁ!」
ぶち破るつもりか。彼女の実力ならそれも可能だ。
「残念~」
「なっ!?」
一瞬で土壁を溶かした!?
レミリアは土壁をぶち破るため、強い衝撃に備えていた。それがなくなった事で、レミリアには一瞬の動揺が生まれる。その一瞬の隙を見逃さないのが
「どーん♪」
嫌らしい笑みを浮かべたパーシバル。
その言葉と共に再び浮き上がる土。土は拳の形状に姿を変え、前傾姿勢で突っ込んでいたレミリアの真下から腹部を打つ。
「ぐっ!」
「さっすが。剣で受けたか」
だが、レミリアは中空。
そこは魔法使いであるパーシバルの領域。
「【エアプレス】……」
パーシバルがニヤリと笑った直後、レミリアの左右から風の重圧が襲う。
「ぐぁああ!?」
見えない圧力に両側から潰されるレミリアを見て、俺は顔を歪めた。
「あれは痛い」
「左腕と肋骨をやられたな。利き手を守っているところは流石か」
リィたんの指摘通り、レミリアは攻撃を受けながらも剣を落とさなかった。
「せ、聖剣! 光翼!」
着地する直前、レミリアが剣から光の刃を放った。
「何アレ、カッコいい!」
「剣聖レミリアの【聖剣】ですね! 私も初めて見ました!」
ぴょんぴょんと跳ねて喜ぶネム。
なるほど、ジェイルの【竜剣】と同じ剣技って事か。
「……【
直後、パーシバルの周囲に雷の槍が降り注ぎ、せり上がった。
光魔法と雷魔法の混合魔法だな。折角の【聖剣】も攻撃が届かなくては意味がない。
強力な防御魔法か……いや、違う!?
「どーん♪」
無数の槍はパーシバルへの攻撃を防いだ後、レミリアに向けられた。
「……ぇ?」
レミリアに向け発射した槍。
これを三本まで防いだのは流石剣聖……。
しかしその後、彼女の身体には地獄のような痛みが響いた事だろう。
雷の槍はレミリアの頬をかすめ、足を穿ち、頼みの綱である剣をふき飛ばし、その額に向かった。
「ネム、失格になったらごめん」
「へ?」
俺はこれ以上は危険と判断し、レミリアの眼前に土壁を出現させた。
レミリアの命を確実に奪ったであろう雷の槍は、土壁にガチンと刺さり、ようやく勢いを失った。
強い痛みのショックか、命が助かった事への安堵か、そのどちらもなのかはわからないが、レミリアはそのまま意識を失ってしまった。
「へぇ、やるじゃ~ん♪」
薄気味悪い笑みを浮かべながら俺を見たパーシバル。
こいつは確かに……危険だな。
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