その174 破壊魔
泡を噴いて倒れた男ABが運ばれて行くと、俺たち……いや、リィたんへの視線は更に強くなった。
なるほど、流石ランクAという強者が集まる祭典だ。
戦意を失う者はそう多くない。寧ろ戦意を溢れさせる者の方が多い。
年に一度しか行われないからこそ、皆の準備という名の鍛練は凄まじいものなのだろう。
小走りに俺に近付くリィたんに「お疲れ様」と労いの言葉を掛けると、不可解な破裂音が耳に届いた。
響き渡る破裂音。それが拍手の音だと気付いたのは、その者が現れてからだった。
人垣を割りながら現れたのは、ウィザードハットを被った……端正な顔立ちの金髪の少年だった。
見るからに低身長。ナタリーとそう変わらないのではなかろうか。
十代前半なのは間違いない。しかしこの魔力……只者じゃない。
「いいねいいね~、君いいね~っ!」
屈託のない笑顔でリィたんを褒め称えるその少年。
「何の用だ?」
「あれれ~、僕の事知らないー? まぁいいや。お姉さんが今大会の本命って事でいいね」
ずびしとリィたんを指差して言った少年に、仏頂面で迎えるリィたん。
リィたんは目的の見えない話は嫌いなのだ。
周囲のざわつきから察するに、この少年の認知度はかなり高いようだ。
人垣を割ったのはその認知度のせい。ならばこちらからアプローチをかけるべきか。
「不勉強申し訳ない。あなたの名前を伺っても?」
「君は……おっ! いいねぇ、君もいいっ! ホント、今日は最高だなぁ……!」
直後、少年が笑みを浮かべた時、俺とリィたんはその場から後退するように跳んだ。
何だこのナイフのように鋭い魔力は!?
リィたんはハルバートを握り、少年に向かって構えるも、俺が手を払ってそれを止める。
「ダメだ、リィたん」
「この挑発的な魔力を受けてもか!?」
「買うのは御法度!」
「くっ!」
矛を収めるリィたんの苛立ちはわかる。
しかし、彼は何故こんな事を?
「うん、反応良し! 君たちはシード選手だねっ」
両手をパチンと合わせ、満面の笑みを見せた少年が不可解な事を言った。
「シード……選手?」
俺の疑問に答えるように、腕の中のネムが言う。
「確か……シード選手の決定権は本大会の最高審査員である冒険者が決めるって……っ! も、もしかしてあなた!?」
「そう、僕がパーシバルだよっ」
「ネム、パーシバルって?」
「
少年だと侮った訳ではないが、彼がそれだけの実力を有しているとは見抜けなかった。この恐ろしく静かで強力な魔力を隠して話していたって事か。
今やこのパーシバルは、俺の脳の強烈な存在として刻まれた存在だ。【鑑定】を使っても能力が視えないって事は、俺と同じ【隠蔽】の魔法を使っているか、類似魔法、もしくは特殊能力で隠しているのかもしれない。
「まさかリーガル国にこれほどの使い手がいるとはね~、僕、超感激だよ!」
うんうんと頷きながら笑うパーシバルに、リィたんが強い視線を向ける。
「最高審査員という事は、多少の融通は利くようだな」
「ん? どういう事かな?」
「先の喧嘩、買ったとしたらどうなる?」
おっと、これはある意味リィたんからの挑発。
まぁ、リィたんにやられっぱなしは
パーシバルは笑ったままだが、これをどう受ける?
「っ!?」
直後、会場全体を大きな魔力が包んだ。
先程の魔力は本当に実力を見るための脅しだったと思える程の、超高濃度の魔力圧。これを受け、ネムや周囲の冒険者たちの顔が引きつる。
これは間違いなくパーシバルから出ている魔力。
リィたんが先程放出した魔力に匹敵する強大な魔力。
なるほど……これが
「余り僕を怒らせない方がいいよ?」
「怒らせたらどうなるというんだ?」
強い視線のぶつかり合い、互いに引く気はないようだ。
といっても、この場で動けるのは俺だけみたいだし、仕方ない。
「あの~――」
「――パーシバル殿、お控えください」
っと、俺以外にも動ける人間がいたのか。
二人の間に軽やかに着地した女は、静かに、そして諭すように言った。
接近に気付けなかった……かなりの実力者だな。
「剣聖……レミリア……!」
そんな誰かの声が聞こえた。
長いブロンドを
どれをとっても美人という言葉しか出てこない。
正直、ミケラルド君のドストライクゾーンであります。
「何だよレミリア、僕の邪魔するの?」
「武闘大会の運営に妨げが出ます。いえ、既に出ています」
「そんなのどうだっていいよ。所詮、金しか見えてない保守的な
するとレミリアはネムや受付員をちらりと見た。
「ここにはギルド職員もおります故、そういったお話もお控えください」
パーシバルの鋭い目はレミリアを捉えたまま。
レミリアとパーシバルの間には大きな実力差がある。彼女だけではこの場を抑えるのは難しい……か。
「ほらリィたん、パーシバルさんと戦いたいなら大会の後に戦えばいいんじゃない?」
ネムをおろした俺は、提案するように言ってリィたんの肩をポンと叩く。
有り難い事に、リィたんは俺の言う事をよく聞いてくれる。そして、こうして俺が仲裁に入れば大抵理解を示してくれるのだ。
「む……確かにそうかもしれんな。パーシバルとやら、それでどうだ?」
「何、逃げるの?」
パーシバルはまだ引かない。
きっと彼の中でリィたんはかなりの好敵手という判断なのだろう。
「大会後はお忙しいのですか、パーシバルさん?」
相手が相手だ、【交渉】を発動しておくか。
「……別に?」
「ならばその時にリィたんと勝負。それでよろしいのでは? それともここで決着をつけますか? 私としては是非ともランクSの称号が欲しいのですが、お二人がここで戦うとなると、武闘大会は中止に追い込まれてしまいます」
「……君、強い癖にやたらと口が回るね? 名前は?」
「これは失礼を。私はミケラルドと申します」
「へぇ、君があのミナジリか」
情報が回っているとは思っていたが、冒険者がチェックする程か。
「聞いてるよ? リーガル国の
言いながらパーシバルは肩を
「お褒めに
「別に褒めてる訳じゃないけどね」
「おや、それは気付きませんでした」
「その笑み……君、僕と似てるかもね」
「それは素敵な縁ですね」
「……ふん、それじゃあ大会後にね。レミリア、行くよ~」
「あ、はい」
パーシバルはつんとした表情で
レミリアはちらりとこちらを見て、小さく会釈をした後パーシバルの後を追って行ったのだった。
「じゅ、寿命が縮みましたぁ……」
膝から崩れたネムの寿命は残りどれ位なのだろうか。
「パーシバルか……強いな」
リィたんが呟くように言った。
「うん、中々の魔力量だったね。あれも実力のほんの一部でしょ?」
「私程ではないがな」
まぁ、リィたんが本気の魔力を出してたら皆失神してるだろうからな。
「がしかし、今のミックでは勝てない相手だという事に間違いはない」
「相手にするつもりがないから大丈夫」
「だから私が相手にしたのだ」
「それどういう意味?」
「ふっ、今の内に叩き潰しておけば、ミックの障害が一つ消えるからな!」
嬉しさ半分、不安半分、頼もしさ半分、可愛さ半分、やっぱり不安もう半分。
そんな二百五十
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