その172 リプトゥア国へ
「ネム、今日は悪いね」
「何を言うんですか、ミケラルドさん! 今日は負けられない戦いが待ってるんですから!」
「…………本当に俺たちの正体をニコルさんから聞いたんだよね?」
「へ? 聞きましたよ?」
「にしては気後れしないというか何というか……」
「ふふん、それは私を過小評価していますよ」
小さな胸をどんと張るネム。
そんなネムの後ろから受付越しにニコルが言う。
「最初聞いた時は本当に焦っていましたよ」
「あっ! ちょっとニコル先輩っ!」
「その後、何度も私に相談を」
「あ、あの、その! ち、違うんです! 違いますから!」
「『私、明日ミケラルドさんとちゃんと話せますかね? 大丈夫でしょうか? ぐすん』と」
「『ぐすん』は言ってませんー!」
「だそうです」
ニコルのドSっぷりは、ネムという後輩がいて初めて成り立つのかもしれない。
「つまり、『ぐすん』以外は本当だと」
「わぁ!?」
両手をぶんぶん振って吐いた言葉を消そうとしているようだが、世界はそんな都合良く出来ていないのだ。
顔を真っ赤にしたネムを俺とニコルがからかっていると、後ろからリィたんがやって来た。
「遅れたか?」
「もうちょっと早く来ればネムの変顔が見れたかも」
「何? それは惜しい事をしたな」
「んもう! お二人とも! それはいいですから! 早く! 早くリプトゥア国に行きましょう! 遅れちゃいますよ!」
ネムは恥ずかしがりながら俺とリィたんを押して行く。
苦笑する俺とリィたんをよそに、ネムはニコルに向かって言った。
「そ、それじゃあ行って来まーす!」
「朗報を期待しております、ミケラルドさん、リィたんさん」
深々と頭を下げるニコルを背に、俺たちは国境へと向かった。
◇◆◇ ◆◇◆
「わふーい!」
久しぶりのミックバス。
初乗車のネムは大喜びで窓から顔を出し興奮と喜びを叫んでいる。
運転席に座る俺に、リィたんが言う。
「しかし何故テレポートでリプトゥアに向かわないのだ?」
テレポートの件は、既にネムも知っている事実。他言はしないように頼んでるけどな。
ブライアン王にでも知られたら
「今回は冒険者ギルドの職員同伴の公式な移動なんだよ。流石に国境はしっかり通らなくちゃまずいんだ」
「ふん、面倒な」
「国境越えたらテレポートしちゃうけどね」
「ところでミック」
「ん?」
「今日は楽しみだな?」
「リィたんと対峙した時、俺が楽しそうだったらもう一回言って」
「ふふふふ、せいぜい足掻いてみせろ」
「まぁ、決勝まで残って良い戦いをすれば、二人ともランクSになれるかもってディックさんが言ってたよ」
「何? 優勝者だけではないのか?」
「優秀な成績って話だよ。ねぇネム?」
俺が窓から身を乗り出すネムに聞くも、ネムには届いてないようだった。
「ネムちゃん? それ危ないからやめましょうね~」
「はっ! す、すみません! 興奮しちゃって!」
まぁ、ランドルフやレティシア、ゼフよりかはマシか。
「で、何でしたっけ?」
「ランクSの枠だよ。優勝しなくてもなれる可能性はあるんでしょ?」
「えぇ、過去何度かそういった事例があります。一人から最大で四人……だったかな?」
顎先に指を当て、思い出しながら言ったネムを見て、リィたんが不服そうな表情を浮かべる。
「むぅ、意外と多いのだな……」
そんなリィたんの言葉に、ネムがぶんぶんと首を横に振る。
「とんでもないです! 今日リプトゥア国には、全世界からランクAの猛者たちが集まるんです! 十年間ランクAを務めた方は漏れなくランクSに昇格しますけど、九年目までの人は殆ど参加するんですからそれはもう物凄い数のランクA冒険者が集まりますよ!」
「ほぉ、どれくらいいるのだ?」
「た、確か……二百人はいたかと」
へぇ、ランクA冒険者ってそんなにいたのか。
「どれだけいようが全てを倒して優勝するのはこの私だ」
それは間違いないと思う。
先日ラジーンと戦ってみて思ったが、俺はこれまでずっとリィたんの実力を過小評価していた。この子、きっと
どう戦うか今から考えておかないとな。
そんな事を考えていると、ネムがもじもじと言いにくそうにしながら俺を見た。
「あのぅ、一応申し上げておきますと、リーガル国出身の冒険者は……その……」
「ん?」
「っ! すっごく馬鹿にされると思います!」
意を決して言った様子のネムを前に、俺とリィたんは目を丸くした。
「馬鹿に……って、どういう事?」
「冒険者の本場は法王国です。当然、冒険者の質は法王国に近い程高いと言われています。冒険者ランクAという存在が珍しいリーガル国の参加は本当に久しぶりなのです。だから……その――」
「――
「……はぃ」
申し訳なさそうに俯くネムを見て、俺とリィたんは顔を見合わせる。
しかし、直後俺たちはニヤリと口の端を上げたのだった。
そんな俺たちの反応に不可解そうな顔を見せるネム。
「あ、あの……?」
心配そうなネムをよそに、俺とリィたんは声を揃えたのだった。
「「上等……!」」
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