その169 チームミナジリ
ドノバンとラジーンから事情聴取を終えた後、俺はジェイルとリィたんの言われるがまま、ミナジリ領の冒険者ギルド。その広場へやって来ていた。
当然、まだギルドは正式稼働していない。ギルド内も広場も無人である。
「あの、二人とも? これは一体?」
「ミック、剣を抜け」
「は?」
「何、いつもの訓練だ。と言っても久方ぶりだがな……」
確かに、サボっていた訳ではないが、最近は慌ただしくジェイルと訓練する暇はなかった。
しかし、何故今日なのか。今日はもう色々あって非常に疲れているのだが。
「えっとジェイルさん……今日は――」
「――行くぞ」
「え、ちょっ!?」
正に神速。
一瞬で間を詰めたジェイルは、下段から俺の打刀を強烈に弾いた。
「くっ!?」
持っていかれた腕を強引に戻し、体勢を整えるも、今しがたいた場所にジェイルの姿はもうなかった。
「後ろ!?」
「甘い!」
ジェイルは振り返った俺の上から現れ、凄まじい剛剣を振り下ろす。
咄嗟に受けるも、俺の足は大地に深くめり込む。
こんなジェイル……初めてだ!
「ぐっ、あぁああああああああっっ!!」
【解放】、【身体能力向上】、【身体能力超向上】を発動させ、ジェイルの剣を押し返す。
「竜剣、陽炎」
くそ、来る! 目に見えない斬撃が!
【斬撃耐性】、【刺突耐性】、【切断耐性】、【視野拡張】、【危険察知】!
そして、グラビティコントロール!
「対策済みだ」
「嘘!? 剣を持ってないっ!?」
ジェイルは陽炎で地面を攻撃し、そこで剣を手放したのだ。
大地に刺さる剣に気を取られていた俺は、ジェイルの突進に気付けなかった。
「かっはっ?!」
「大方斬撃しかこないと高をくくったのだろう」
その通りだぜ、ちくしょうめ。
これは【打撃耐性】と【外装強化】をしていなかった俺の落ち度。
「何で……こんな事」
「先の話、もう忘れたのか?」
「へ……?」
「ラジーンとミックの実力は伯仲していた。今回の勝利は相手の戦略不足に助けられただけ。しかし、ラジーンは闇ギルドの下っ端だという事がわかった」
「下っ端……」
確かにその通りだ。
闇ギルドの総本山は正に闇。何の情報もない。
ジェイルは俺に言っているのだ。『ラジーン如きに
「ミナジリ領……いや、ミナジリが国家となった時、ミックの名は世界に知れ渡る。どのような刺客が現れるかわからない。私やリィたんでさえ敵わぬ強者が現れるかもしれない。だから! ……だからミック、お前は誰よりも強くならなくてはならないのだ」
どこか、心に余裕を、ゆとりを持っていた。
多少の弊害はあろうとも、自分の能力があれば、リィたんやジェイルがいれば何とかなると思っていた。本気で生きると決めたはずなのに。
また俺は、昔のようなダメな人間になってしまうところだった。
自分の能力だけでは、リィたんやジェイルだけでは守り切れないモノもある。
それを、ジェイルは……師匠は気付かせてくれた。
能力に頼るだけではダメ。仲間に頼るだけではダメ。
自己の向上。これこそが、俺たちが生きる術。
「立てミック。お前がいなければミナジリは終わりだ。お前に何かあればミナジリは一気に瓦解する。お前が立たなければ、私は……俺はまた昔に逆戻りだ」
「そうだミック。死ぬのであれば天寿を全うし、ベッドの上で安らかに逝け。こんなものでは天寿なぞ、それこそ
「ジェイルさん……リィたん……」
俺は身体の鈍痛を押し殺しながら、ゆっくりと立ち上がる。
「あちちち……ジェイルさん」
「何だ?」
「
「……ふっ! 無論、新しき世界だ!」
「リィたん」
「何だミック」
「忘れないように。俺を看取るのは
リィたんを指差しながら言うと、珍しくもリィたんは少しだけ頬を赤らめたのだ。
「ふふん、私の事ね!」
「ナタリーッ? 何でここに?」
「付いて行くに決まってるでしょ! ミックは私の
ナタリーはきっと、俺たちのやり取りを最初から見ていたのだろう。
そう思うと、おかしくておかしくて……俺はこみ上げる笑いを隠すようにナタリーにツッコミを入れた。
「そんな上から目線の使用人がいてたまるか!」
そのツッコミが原因ではないだろう。
だが、それが何らかの引き金にはなったのだ。
誰しも見合い、しかし示し合う事なく、示し合ったかのように一斉に笑った。
苦笑が失笑に、大きく噴き出した俺たちは改めて知るのだ。
これが、俺たちの仲間だと。
やがて笑いが止み、俺は再び打刀を強く握る。
「……ジェイルさん」
「来い、ミック」
「えぇ、本気で
ここに誓おう。
俺は渇望し求める。皆を守れる力を。何物にも負けない力を。
魔族四天王だろうが、勇者だろうが聖女だろうが、闇ギルドだろうが、国だろうが、龍族であろうが、たとえ魔王であっても……俺は絶対に負けない。
どんな苦難な道だろうが、俺は求めて止まない。その歩みを止めた時こそ、俺が終わる時。
ここに誓おう。
世界最強を目指す事を。
「ミックゥウウウッ! 頑張れぇえええっ!」
大丈夫、俺には仲間がいる。
チームミナジリという最強の仲間がいるのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます