その149 新商品

「いやいやいやいや! 絶対おかしいでしょう! 何ですか、ここ!」

バルト商会うちの正面ですな。ミケラルド殿がご希望、、、の、人通りが多い好立地、何故か誰もこの土地を買わない故の低価格ですぞ?」

「バルト商会の正面だから安いんですよ! こんなところで商売しても勝てる訳ないじゃないですか!」

「おや? 噂によると、ミケラルド商店の四号リーガル店は、同じ王商おうしょうのドマーク商会の正面と伺いましたが?」

「あれは気付かなかっただけですよ!」

「おや、ミケラルド殿はてっきりライバル店舗を前にして、燃えるタイプだと思っていたのですが……?」

「心が大炎上中です!」

「やはり、私の目に狂いはありませんでしたな」

「そういう意味じゃないですからぁ!」

「いやぁ、楽しみですなぁ」


 にゃろう、いけしゃあしゃあとしやがって……!


「他にはないんですか?」

「事前にどこかの商会、、、、、、が全て土地を購入してしまったそうです」

「一体どこのなにルト商会なんでしょうね?」

「おや、どこかで聞いた事のある商会名ですね?」


 やはり、商戦ではバルトのが一枚上手だ。

 長く続けているだけあって、根回しが上手い事上手い事。

 バルトに両替の他に言った条件が、土地を見つけてもらう事。それがまさかバルト商会の目の前だなんて夢にも思わないだろう、普通。まぁ、バルトに依頼した俺も悪かったんだけどな。ドマーク商会と同じように上手く棲み分けるしかないだろう。


「はぁ……しょうがないか……」

「その意気ですぞ、ミケラルド殿」

「消沈した意気を揚々としたいものですよ、まったく」

「良い友人になれそうですな、我々は」

「えぇ、良い悪友になれそうですね」

「友には変わりません」

「あぁ言えばこう言う……」

「商売に張り合いが出るのは良い事です」


 ここで言い合っててもどうしようもない。

 とりあえず店を建てちゃうか。


 ◇◆◇ ◆◇◆


「おぉ……素晴らしい……! なるほど、この魔法があれば道路を舗装する事が出来る! どうですミケラルド殿、その魔法、魔導書グリモワールに入れてこのバルトに売りませんか?」

「構いませんけど、多分無理だと思いますよ?」

「それは何故です?」

「これだけの土地を土塊つちくれ操作で動かすとなると、常人の魔力じゃ無理です。手作業でやった方が早いですよ。ダークマーダラー十体くらい必要ですよ」

「……聞かなかった事にします」


 それはつまり、俺の魔力量の話なのだろう。

 しかし、この前のダークマーダラー戦以降、ほとんど魔力切れを起こさない。

 唯一起こしたのは聖水を誤飲してしまった時だけ。

 これを上手いこと魔力まりき還元すれば、もしかしたらジェイルと良い勝負が出来るのではないか? …………いや、無理だな。

 あの人の場合、絶対的ともいえる技で対抗してくる。

 がしかし、自分の今の実力も気になるところだ。帰ったらジェイルと試合でもしてみるか。まぁ、そんな時間がとれるか不安でもある。


「して、ミケラルド殿」

「何でしょう?」

「五号店では何を販売されるおつもりか?」

「ジェイルさんに好評だったこれを」

「これは……マジックスクロールですか?」

「えぇ、特製ですよ」

「ほぉ、どのような魔法が付与されているのでしょう?」

「火魔法と水魔法の複合魔法ですね。それと照準用、、、に光魔法が少しだけ」

「何と、三種の魔法で一体何を?」

「それじゃあ……体験されます?」

「…………は?」


 店内にバルトを案内した俺は、マジックスクロールの簡単な説明をした後、しばらく店内装飾の微調整を行っていた。奥から戻って来たバルトは恍惚とした様子で頬を赤らめていた。何このおっさん、キモチワルイ。

 直後、現実世界に戻って来たバルトはぐわしと俺の両肩を掴んだのだ。


「ちょ!? 何ですかバルトさん! 私、そんな趣味ありませんよ!」

「私だってありません! いえ、そういう話をしたいのではありません!」

「へ?」

「何ですかあのマジックスクロールは!?」

「さっき説明したと思うんですけど?」

「あなたはこんな麻薬のような商品を売りに出そうと言うのですかっ!?」

「ちょっ! 人聞き悪いですよ!」

「こ、これを知ったら我々エルフは……元の生活に戻れなくなる……!」


 どこまで本気なんだろうな、この人は。


「そんな危ない物だと思います? これからシェルフの商人ギルドで登録して来ようと思ったんですけど……やめとく――」

「――ミケラルド殿!」

「だから! 私にはそういう趣味はないんです!」

「絶対にやめないで頂きたい! さぁ! 商人ギルドへご案内致します! 早速登録に行きましょう! 私が二十枚は購入させて頂きますぞ!」


 相当好きになったようだな。

 まぁ、俺も元の世界、、、、ではこれを愛していたといっても過言ではない。

 バルトの言うとおり、確かに中毒性を感じる人はいるかもしれないな。


「そうだ、ミケラルド殿!」

「何でしょう?」

「この商品、何という名前なのでしょう?」


 それは、現代地球人が愛して止まない商品名。


「【ヒップウォッシュ】です」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る