その134 お願い

「内訳の概算をお聞きしたい」

「まずギルド職員への給料。一人当たり約金貨四十枚。このシェンドの町では現在二十人の職員が働いています」


 意外にお給料が少ないと思ってしまった。

 何故なら冒険者ギルドの仕事は、仕事の斡旋、受注、監査、情報統制、守秘義務や新人教育など多岐に渡る。この時代には中々ない専門職と言っても過言ではないからだ。

 ミナジリ領うちの住人の方が貰ってるよなぁ。

 これで白金貨八枚。二百枚には程遠いな。


「次に消耗品です。羊皮紙やインク、例をあげればきりがありませんが、これだけで白金貨十枚はくだりません」


 高いのは知ってる。羊皮紙だ。この世界、この時代、紙は高価なもの。今度そっちにも手を付けてみるか。

 それに、修練場にある木剣やらの道具のメンテナンスも必要だろう。

 ゴミの処理や討伐部位の処理、外部への委託もこの消耗品扱いだろう。

 さて、これで白金貨十八枚。


「土地代ですね。この場所は購入している訳ではありません。冒険者ギルドは慈善事業。財政が圧迫されて立ち退く事も珍しくありませんから、購入に踏み切るには難しいのです。この規模のギルドで白金貨月五枚」


 土地それはあげる。ブライアン王が許さなくても俺が許しちゃう。

 これで二十三枚。


「次に交際費。これが非常に高額です」


 何やら怪しい項目が出てきたな。


「冒険者ギルドが発行しているギルドカード。これに身分照明をする効力があるのは、ご存知の事かと思います。冒険者ギルドから依頼を受けた冒険者は、当然依頼をこなすために各領主様方の領地へ赴きますし、通り抜ける事もします。従って、冒険者がこなす依頼の許可を領主様方から頂くための献金が必要なのです」


 つまり、根回しか。

 怪しい項目ではあるが、これは仕方のない事なのだろう。

 まぁ、ミナジリ領なら問題ないな。


「うちはいりませんからね」

「ありがとうございます。実は、マッキリー近郊に領地を持っていらっしゃるサマリア公爵様も同じように仰って下さいました」


 流石ランドルフ君。善良な貴族でおじさん泣いちゃう。


「ですが、ここはシェンドの町。ここから南一帯はギュスターブ辺境伯様の領地です。この交際費が白金貨五十枚」

「ごじゅっ――!?」


 俺は咄嗟に口を抑えた。

 ここで声を荒げようものなら、それはギュスターブ辺境伯へ異を唱えたともとれる。

 辺境伯――文字面だけ見れば大した事なさそうに見えるのに、その実、侯爵並みの権力を持っている。それもそのはずで、ここはシェンドの町。リプトゥア国に一番近い町なのだ。

 そこから更に南ともなれば国境付近。そう、辺境とは本来国境付近を指す言葉。それだけ重要な地位ポストなのだ。俺が逆らいでもすれば、最終的に血でも吸わなくちゃ終わらなくなってしまう。

 まぁ、終わるだけいいけどな。

 しかし、これでも七十三枚。半分にも届いてないぞ?


「次に【ギルド通信】に使う水晶のレンタル料です」

「遠方のギルドと連絡を取り合えるってやつですね」

「これに白金貨五十枚」

「……毎月レンタル料払ってるんですか?」

「毎月です。何しろ既に存在しない技術ですから」


 ふふんと胸を張るネムだが、支部一ヶ所ごとに支払う金額にしては高すぎる気がする。

 再現出来ないのだろうか? ちょっと聞いてみよう。


「レンタルって事は、どこか違う場所から借りているって事ですよね? 冒険者ギルドが所有してるならレンタル料なんてかかるはずもないでしょう?」

「所有者は明かせませんが、個人からレンタルしているとだけ」


 情報の有用性を知っていて、尚且つその価値も知ってる個人。

 失われた技術なのに、ギルドが新しく出来るとレンタル出来る? その水晶を大量に抱えている。もしくは作れるという事じゃないのか?

 その個人……かなりのやり手なのかもしれない。

 しかしこれで白金貨百二十三枚。後半になるにつれ経費の高騰具合がえげつないな。


「次に各ギルドサービスに伴う雑費です。これはギルド併設の施設や提携飲食店などへの根回しなどが含まれます」


 根回しは別にあったのか。


「具体的には?」

「冒険者ですから粗暴な方も多く、施設の利用を断られる場合もあります。そういった冒険者にはギルド提携の店舗を紹介するんです」

「つまり、迷惑な客層への救済措置」

「はい、彼らに対しては当然罰則やペナルティが見えないところで発生します」

「……信用の失墜に影響するから、ランクが上がりにくかったりするんですかね」

「その通りです。これ以外にも、亡くなった冒険者の遺体回収、埋葬があります。調査費用もここから算出しています」

「あぁ、カミナが受けてるアレか」


 気まずそうな顔してるあたり好印象ですよ、ギルド職員さん方お二方

 ふむ、確かに冒険者に親族がいればそこから債務回収が出来るが、冒険者が独り身の場合、遺体の回収や埋葬をしてくれる者がいない。これをボランティアでやってるのが冒険者ギルドという事か。


「これが白金貨二十五枚前後。月によって変動しますが、概ねこの範囲内で賄ってます」

「ふんふん、それで、残りの五十枚ちょいは?」

「正確には三十枚ですね。二十枚は税金なので」


 それもあったな。

 しかし流石リーガル国、とれるところからとってるな。

 いや……待て?


「シェンドの町ってギュスターブ領なの?」

「いいえ、リーガル王国領です」

「へぇ、そうなんだ」


 まぁ、そうだよな。領主はそもそもギルド招致しないって話なんだから。

 リーガル国は各町に置いてるだけマシなんだろうな。

 住民全員に税がある。どれだけの税金なのかはわからないが、ミケラルド商店も二号店はこのシェンドの町にある。収支が確定次第、来年からその収支に見合った税金が毎月算出され、納税しなくてはいけない。

 当然、それはマッキリーでもリーガルでも同じだ。

 まぁ、マックスとかはこの税金で働いてるだろうし、とれるところからとるのは間違いじゃない。まぁ、幾分か疑問は残るけどな。


「では最後です。残りの三十枚は、冒険者ギルド本部への上納金です」

「うわぁ」


 どこの世界も、おかみがとっていくところは変わらないという事か。

 がしかし、これで領主がギルド招致をしない理由がわかったな。

 採算をとるのが難しいのだ。だったら、ギルドからの甘い汁を吸った方が楽だし、得。

 そう考えるのが貴族の通例なのだろう。


「わかっただろう。一介の領主ではギルドを招致する事が叶わないという事を」


 ゲミッドが話を切り上げようとするも、俺としてはそうもいかない。


「ですが、私は王商おうしょうという側面もあります」

「それでもやるというのであれば止めはしないがな」


 さて、通るかどうかはわからない願いだが、聞き入れられれば出来る事は増える。


「……私からお願いがあります」

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