その122 ポケットの中には不気味がいっぱい

「……どうだ、ミック?」

「おかしい、正確な情報が読み取れない。ほんの少しは見えるんだけど……」

「何? ではやはり【解析アナライズ】の魔法は未完成……?」


 あれからすぐに南の杭の情報を見に来た俺は、新魔法【解析アナライズ】を使ってみた。しかし、その情報は正確に読み取れなかった。


「それはないよ。リィたんの全ての魔法を読み取る事が出来たしね」

「ふむ、それでは一体何故……?」


 これは魔法ではない?

 いや、それなら杭に魔力が伴うのはおかしい。

 先に他の杭を調べた方がいいのか? 残り五つ調べれば……ってあれ?


「ん? あぁそういう事……なのか?」

「どういう事だ?」

「杭は六つあるんだよ」

「だから何だ?」

「六つの魔法という固定観念から離れるべきだったんだ。六つの魔法ではなく、六つで一つの魔法」

「っ! そういう事か! ならばミックの言う事が繋がる!」


 南の杭からは正確な情報は得られなかった。だが、情報の一端を読み取る事は出来た。

 ならばこれは一つの魔法の一部分と解釈するべき。

 その後俺は、残り五つの杭を調べに走った。


 ◇◆◇ ◆◇◆


「バルトさん、ディーンさんはまだいます!?」

「ミ、ミケラルド殿……その慌てようは一体……!? あ、いやディーン様でしたな。先程お帰りになられましたが……?」

「じゃあちょうどいいです! 今から族長の家へ!」

「こんな夜更けにっ!?」

「緊急事態です!」

「か、かしこまりました!」


 どうやら事の重大さが理解出来たようで、バルトはすぐに族長の下へ連れて行ってくれた。困惑した様子で出迎えた族長の息子ディーンは、切迫した俺の空気に圧倒されたのか、急いで中へ通してくれた。


「こんな時分故、アイリスが同席出来ぬのはご容赦願いたい」


 謁見の間にて、俺はエルフの族長ローディと会う事が出来た。


「こちらこそ、このような時間に申し訳ありません。しかし、事態は急を要します」

「……伺いましょう」


 ローディとディーンが見合いながら頷く。


「先程、杭の正体を掴みました。杭には一つ一つ魔法が込められていたのではなく、六つで一つの魔法を込めていたのです」

「して、その魔法とは?」

「意外な事に、私もその魔法の担い手、、、だった故、すぐに判明致しました。それこそは、闇魔法の一つ――――【闇空間】」


 脇に控えていたバルトが思い出すように言う。


「もしや、魔導書グリモワールを運ぶ際に利用したあの巨大なポケット、、、、の事で?」


 俺はそれに頷き、ローディに向き直る。


「【闇空間】とは?」


 ローディのその質問を前に、俺は【闇空間】を実演して見せた。


「このように中に色々な物を入れ、取り出す事の出来る便利な……それこそ正に巨大なポケットです」

「なるほど、それは便利な魔法……しかし、何故魔族は【闇空間】なる魔法を我がエルフの領域に?」


 ローディの疑問はもっともだった。

 実演だけすれば、それはただの便利魔法。当然、俺もローディと同じ疑問に辿り着いた。

 だが、魔族が意図してやっている事は、便利という言葉では済まされない程、恐ろしいものだった。


「この魔法の便利なところは、離れた場所……つまり私がリーガルで入れた物を、このシェルフで取り出す事が出来るところです。しかし、違う使い方も出来ます」

「というと?」

「たとえば私の【闇空間】を魔導書グリモワールに込め、バルトさんが覚えたとします。するとバルトさんは私が【闇空間】に入れた物を取り出す事が出来るのです。つまり、私がリーガルでこれを使い、バルトさんがシェルフで使用したならば、一瞬で物を移動させる事が出来るのです」

「「何とっ!?」」


 バルトとローディが驚愕し、解答にいきついたであろうディーンがワナワナと震える。


「ミ、ミケラルド殿……その【闇空間】の中に……生きた存在を入れる事は可能なのですか……?」


 これが、ディーンの最後の確認。

 俺が頷き、肯定を示す事で三人の驚きは恐怖へと変わる。


「先程小動物を入れて実験し、確認してみたところ、可能である事が判明しました」

「それではまさか……魔族は……!」


 ローディは先に続く言葉を言い切れなかった。

 だから俺が全てを言った。魔族の――四天王の一角【リッチ】の目的を。


「リッチは、シェルフに大量の魔族を送って来ます。それも……間もなく」

「「っ!?」」


 二人が言葉を失う中、やはりバルトだけは肝が据わっているのか、俺に聞いてきた。


「魔法発動のタイミングがわかったのですか!?」

「えぇ、【解析アナライズ】の結果、杭は地脈の魔力を吸いながら発動たりえる魔力を集めています。詳細は省きますが、おおよその時間を割り出す事が出来ました」

「いつですかっ!?」

「明日の昼。おそらく正午に近い頃でしょう」


 魔族の目的とはすなわち、シェルフの壊滅乃至ないし征服。

 これだけ急ぐには何らかの理由があるのだろう。だが、俺の目的は達せられた。

 何故なら、たとえ明日に迫ろうとも、その発動がまだならば対策する事が出来るのだ。

 シェルフの民の避難。この時刻に族長に知らせる事が出来たのは不幸中の幸いだ。

 確証を得るだけの証明が出来た今、動かぬ訳がない。


「ローディ様……大至急、皆の避難を!」

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