その117 大人の事情
おかしい。
ナタリーたちと話がかみ合わない。
いや、正確には違う。俺と同じで首を傾げる者が一人。
それは、先程からうんうん首を捻っていたジェイル。彼はこの話が出た瞬間、更に首を捻ったからだ。
そして、おかしな反応する者がもう一人。それはやはり、リィたんだった。
これは確認しておかねばならないだろうな。
そう思い、俺はこの二人に対してテレパシーを発動した。
『テストテスト』
『む、くると思っていたぞ、ミック』
『……それはどういう事だ?』
ジェイルはリィたんの言葉に疑問があるようだ。
『まず、ジェイルさんが先程から首を傾げてる事を聞きたいんです』
『うむ、皆が今しがた話していたアイリス殿の件だ。確かに人間的容姿から言えば整っているのかもしれない。がしかし気になる事があってな』
『気になる事とは?』
『あの者の周囲……魔力の霧のようなモノが見えた。あれは一体……?』
魔力の霧……そんなものは見えなかったけど、どういう事だ?
『ほぉ、ならばジェイルの魔力もそれだけの高みにあるという訳だな』
リィたんの話は、ジェイルの保有魔力の話だろう。
しかし、これだけ鍛えてもジェイルには届かないという事か。
『それはやはりアイリス殿には魔法が掛けられていたという事で?』
『その通りだ。あの者、ナタリーと大して変わらぬ年齢だというのに、大人の女に化けていた。これには何らかの理由があるのだろうな』
『え、やっぱり子供だったの?』
『何、ミックには見えたのかっ!?』
ジェイルが驚きを示す。
『あ、えぇ。年齢差があり過ぎる夫婦だなーと思って見てました』
『やはり見えていたか、ミック』
どうやら、リィたんは俺の反応を理解していたようだ。
『あれはおそらく光魔法の【歪曲の変化】だな。光の反射を利用して姿を欺く魔法だ』
『俺の【チェンジ】と違うものだね』
『ミックの【チェンジ】は肉体そのものを変化させている。しかし、アイリスに掛けられた魔法は他者の目を欺くものだ。
『むぅ、つまりミックの魔力は既に私を超えているという事だな』
ジェイルの言葉は残念そうでもあり、少し嬉しそうでもあった。
魔力だけなら師匠は超えた……か。でも、戦闘技術に関してはまだまだジェイルに教わる事も多いだろう。それに、ジェイルが師匠である事に変わりはないし、俺がジェイルを尊敬している事に変わりもないのだ。
『けど、一体何故だろう?』
『知らん』
『わからんな』
流石は魔族。そういう事には全く興味ないご様子で。
でも、もしあの二人が夫婦でないとすれば、それは説明がつくんだよな。
そして、周りの者でさえ気付いてないとなると、それは国の闇という事だ。
本物のアイリスは一体どうしているんだ?
「へぇ~、アイリス様には子供もいるんだね!」
クレアから情報を得たナタリーが、その穴埋めをしてくれた気がした。
「えへへへ、いつか会ってみたいなぁ~」
「でも、最近は表には出てこないのよ。ナタリーちゃんと同じくらいの女の子よ」
この言葉で、ミの字、ジの字、リの字がピクリと反応する。
流石はナの字。良い情報収集だ。
つまりこういう事だ。最近表に出てこないのは娘ではなくアイリスの方。
公的な場に出るのは大人の役目だ。ならば、アイリスが出席出来ないのはまずい。
苦肉の策として【歪曲の変化】を使い、娘に母親の代役をさせていたとすれば、話は繋がる。これに気付いた三人は一度見合ってから頷いた。
という答えに辿り着いても、俺たちがやる事に現状変わりはない。
まずはダークマーダラー事件の調査である。
◇◆◇ ◆◇◆
ダドリーとクレアに調査拠点へ案内された俺たちは、簡単な食事を済ませた後、早速作戦を開始した。
「クロードさんはこちらに残り、地図を見ながら皆を誘導してください」
「わかりました」
公的にテレパシーを使えるクロードには、中継ポイントとしてこの調査拠点に残ってもらう。勿論俺も仲間内には使うけど、ダドリーとクレアの前では避けたいところだ。
「情報を集めるために三つの班に分けます。まずリィたん」
「うむ」
「リィたんはエメラさんと行動を」
「はーい♪」
「ダドリーさんもこれに随伴をお願いします」
「わかりました」
森に詳しいダドリーがいれば、人間であるエメラさんが行動しやすいだろう。
リィたんの制御はエメラさんが出来るし、良いチームだと思う。
「ジェイルさん」
「うむ」
「クレアさんと一緒にお願いします」
「わかった」
「よ、宜しくお願いします」
この二人なら、堅実に調査をこなしてくれるはずだ。
ジェイルの得意な得物は剣。広範囲をカバーしきれないからこの少数が理想だ。
「最後に俺は……マックス」
「うぇ!? 俺ぇ!?」
どこからそんな高い声が出るんだお前。
「俺の公的な護衛はマックスしかいないの。正直残念だけどな!」
「そ、それはこっちの台詞だぁ!」
どの立場からの台詞なのかはわからないな。
まぁ、主従の関係以上に、俺たちは友人だから別にいいけどな。
「それに、私だねっ!」
とか何とか言ってシャシャリ出てる……ハーフエルフがいるな。
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