その115 到着、シェルフ!
それから俺たちは、数日の道のりを経た。
バルトが聖水を用いている事もあり、モンスターと遭遇する事は殆どなかった。
出来れば新モンスターと遭遇したかったところだが、それはシェルフに着いてからでも遅くはない。
「間もなく見えてくるはずです」
御者のクレアが振り返りながら言う。
「何とも、快適な帰路ですな」
バルトがそう言うのも無理はない。
何故なら、荷馬車に乗っていた
「けど、こちら側に馬車の通れる道があったとは驚きです」
「踏みならされた獣道にほんの少し手を入れただけです。そう何回も通る事は出来ないでしょう」
だとしたら、ミケラルド商店が道路の舗装業務をシェルフから請け負う事も出来るな。
いや、勝手に作って通行料をとるか? いやいや、それは流石にあくどい気がする。そもそも、ここはシェルフの土地なのだから。やはりまずはシェルフにミケラルド商店を作ってからだな。その後、シェルフの族長に掛け合ってみるか。
「なるほど、ミケラルド殿は根っからの商売人であられる」
俺の目の中に何を見たのか、バルトはそう言って喜んでいる。
俺は苦笑する事でそれを誤魔化し、話題を変えた。
「そ、そういえばこの馬はなんていう名前なんですか? 我々全員を乗せた荷馬車をこうも軽々と引くなんて、凄い馬力ですねぇ」
「彼女の名はステファニーといいます」
へぇ、雌馬だったのか。
白い身体にエメラルドの
「フェアリーホースという品種でしてな。速度はそこまで出ませんが、この通り馬力は群を抜いています。また、モンスター相手にも動じない心も持っておりますので、こういった長旅には便利ですよ」
この世界特有の品種という事か。フェアリーホース……覚えておいて損はないな。
「やはり、ミケラルド殿は根っからの商売人であられる」
何なのその台詞? 伝染病か何か?
「しかし驚きました」
「はぇ?」
「ミケラルド殿のご友人は風の使いか何かですかな?」
「あぁ……あの二人の事ですか……」
そう、先程バルトに「我々全員を乗せた~」と言ったが、それは誤りだ。
正確にはこの荷馬車に乗っていない者が二人いる。
まぁ、どちらも
一人はジェイル。人間の姿になろうがそうでなかろうが関係なく俺の師匠であるように、この道の右側に生え並ぶ木々の上を移動している。まるでトカゲみたいなお方だ。
もう一人はリィたん。最初は一緒になってジェイルの反対側。即ち左側の木々の上を泳ぐように移動していたのだが、俺に危険がないとわかるや否や、いつの間にか消えていた。
『リィたん、そろそろ着くけどどこにいるの?』
『既に着いてるぞ』
だそうです。
『見つかってないよね?』
流石に人間側が先に着いてしまうのはまずい。
『勿論だ』
まぁ、リィたんなら心配するだけ損というものだが。
『ミック、ここは中々面白いところだぞ』
へぇ、リィたんがそんな風に言うなんて珍しい。
シェルフか。一体どんな国なんだろう。
「見えました!」
すると、もう一人の御者ダドリーが言った。
荷台かから外に顔を出してみると、巨大な大樹が見えたのだ。
「わぁ……すっごーい……」
ナタリーがそう言うのも理解出来る。
天然の要塞というのが生ぬるい程、そこは多くの植物に守られていた。
大樹を中心に縦横無尽に木々が生え、その太い枝の上に家を築いている。
大きく開かれた門の奥には美しい泉が見える。
「ようこそミケラルド殿、風と水の精霊が住まう国、我らがシェルフへ!」
「凄ぇ……」
と、感嘆の声を漏らしたのは俺ではない。クマだ。
ポカンと開いたその口に、今ならいくつか石を入れてもバレないんじゃなかろうか。
ジェイルとリィたんが乗り込んだ荷馬車が門をくぐり、巨大な門は大きな音を立てて閉まった。
その後、荷馬車を降りた俺たちは、壮観なシェルフを見回しながら感嘆の声を漏らす。
バルトは手続きの後、荷馬車を部下に運ばせると、俺たちの下までやって来た。
すると、クロードがバルトに聞く。
「ここからは歩きですね」
「その通りです」
バルトの肯定に俺が首を傾げる。
「そうなんですか?」
「シェルフでは馬車より歩いた方が早いですから」
これまたクロードが答える。
なるほど、故郷に帰って来られて少なからずテンションアゲアゲになっているようだね、クロード君。
まぁ、別に悪い事じゃない。なら、早めに手を打っておくか。
「エメラさん、クロードさん。ナタリーを」
俺が言うと、クロードとエメラは静かに頷いてナタリーの手をとった。
そう、二人はナタリーと三人並び、手を繋ぐ事によって親子であると主張しているのだ。
先頭を歩くはこの国でも有名なバルト商会。その後ろにエルフと人間の家族、そしてハーフエルフのナタリー。向かう先はシェルフの族長の家だから、それだけで国家が奨励しているとわかる事だろう。
当然、俺たち人間にも興味の視線が集まっている。だが、そんな視線にはミックスマイルを返してやるのだ。途中、恍惚とした表情をして倒れる淑女もいたが、気にしてはいけない。手を振って微笑むのだ。気品溢れる歩きを心掛けるのだ。
「素敵な方」
「隣のクマはペットかしら? 剛胆な方……」
クマの名前はマックスなのだ。
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