その112 シェルフに求めるモノ

 微笑みながら聞いてきたバルトの瞳の奥底。そこには笑みなどはなく、深い悲しみがあった。当然それは種の絶滅に瀕した男の悲しみ。それがわかるからこそ、俺は微笑み返す気にはなれなかった。

 それは、この行方不明事件を解決してからという事だ。


「わかりました、引き受けましょう」

「「おぉ!」」

「――ですが、それには条件があります」


 当然、この件に関する報酬も考えなくてはいけない。

 俺の肩にも、多くの人たちの命が乗っている。ならばこそ、この条件提示は相手バルトも理解している事だろう。


「伺いましょう」

「まず、シェルフへのミケラルド商店の出店許可。可能であれば自由貿易を望みます」

「それはこちらからお願いしたいくらいです。ただ、自由貿易となると私の裁量では判断出来かねます。そちらに関しては、私からの口添えという事でよろしいでしょうか?」

「結構です。それと……先の件、、、、もし成った時の話です」

「……下がらせますか?」


 バルトはダドリーとクレアを見、人払いを申し出る。


「いえ……もしの話ですから」

「いいでしょう」

「友好的な関係を築きたいのは勿論ですが、エルフたちの理解を求めたいのが一番です」

「というと?」

「希望者がいればで構いません。エルフの移住を求めます」

「なんと! それはつまり多種族国家という事で!?」

もし、、の話ですから」


 俺はそこを立たせて言うと、バルトはわなわなと肩を震えさせた。

 きっと彼の頭の中では、物凄いスピードで金勘定が進んでいるんだろうな。


「一枚――」

「――噛むのは成った時でお願いします」

「そ、そうでしたな! うむ。それで、以上……ですかな?」

「いえ、肝心なのが一つ」

「はて、何でしょう?」

「現状、私はリーガル王に依頼されている身でして」

「陛下に?」

「リーガル王はシェルフとの同盟を望んでいます」

「「っ!?」」


 これには三人が驚き顔を見合わせる。


「そこまで……そこまでエルフの認知が変わったというのですかっ?」

「た、確かに皆さん歓迎的でしたけど……」


 ダドリーとクレアは驚き、喜び、我に返った。


「今回の件で、私は冒険者兼商人兼貴族となります」

「なんと、では元々シェルフにおいでになるおつもりで! ですがそれは……!」

「いえ、この件はリーガル王に伏せておきます。しかし、功績についてはリーガル国に帰属するよう計らって頂けますか?」

「……なるほど、ミケラルド殿は同盟の使いとしてシェルフにおいでになり、シェルフの問題を解決。その功績によりシェルフはリーガルとの同盟を受けやすくなる。確かに、利害が一致しておりますな。がしかし……やはり私の裁量では返答しかねる大きな問題です」

「わかりました。どちらにしろ両国が友好的になるのには違いありませんから」

「ミケラルド殿……」


 得も言われぬ……しかし嬉しそうなバルトに、俺はようやく微笑み返す事が出来た。

 おっと、まだ解決してないけどな。


「出発は?」

「明朝、リーガル王への挨拶が済み次第」

「わかりました。こちらもランドルフ様に働きかけてみます。上手くいけば追いつけるかもしれません。流石に一緒に出立するのは出来ませんけど……」

「ミケラルド殿……あなたと知り合えて我々は幸運でした」

「喜ぶのは……全てが終わった時に」

「はい……!」


 ◇◆◇ ◆◇◆


「――という訳で、シェルフに行く事になりました! いぇい!」

「「いぇい!」」

「いぇい」


 リィたんとナタリーはノリノリに、ジェイルはいつも通り淡々と言った。

 そして、


「いえ~い♪」


 初めてエメラがノッてきた。


「い、いえーい……ははは」


 クロードが複雑な状況に置かれているのを引いても、良い傾向じゃなかろうか。

 そう、今宵は第二回ミナジリ会議なのである。


「リィたんは行く――」

「――ぞ!」

「よね。うん、知ってた」

「はいはいはーい! 私も行きたーい!」


 ナタリーは椅子を離れ、立ち上がって挙手しながら言う。

 …………はて? いつもならエメラやクロードがナタリーを止めてもいい頃なのだが?


「なら私も行きま~す♪」

「シェルフなら私の案内が必要……ですね」


 おかしい。

 エメラとクロードが完全に乗り気だ。

 確かに土地勘からクロードは連れて行こうとは思ったが、クロード一家全員来るとは思わなかった。


「なら、私も行こう」

「うぇ!? ジェイルさんも!? でもその姿じゃ――」

「――チェンジだ」


 まるで変身するかのように言い切ったな、この人。

 つまり、俺の能力で人間にしろという事か。まぁ、これまでジェイルには苦労ばっかり掛けてるからな。たまにはいいかもしれない。


「ミナジリ村の監督はシュッツとランドがいれば事足りる。警備にドゥムガを立てれば最早私は自由の身だ」


 これまでが囚われの身だったのだろうか。

 それはすまない事をした。


「それじゃあミケラルド商店はカミナに任せて、雑務はダイモンやコリン、ミナジリ村の人に任せるか」


 中々の大所帯ではあるが、同盟の外交大使として向かうのであれば丁度良い人数かもしれない。ともあれ、これでシェルフに行くメンバーは決まった。

 後は明日まで待つだけだ。

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