その106 忠誠
◇◆◇ ドゥムガの場合 ◆◇◆
こいつぁ一体どうなってやがる。
やつが俺様に対し【呪縛】を使える事は理解出来る。
何故ならやつの名はミケラルド。
魔族四天王――スパニッシュ・ヴァンプ・ワラキエルが一子、ミケラルド・ヴァンプ・ワラキエル。あの吸血公爵の一人息子だ。吸血鬼の特殊能力には【呪縛】がある。本来ほとんどの吸血鬼には辿り着く事の出来ない理性の果てにその力がある。
それをやつは成功させた。成功させるだけの力があった。
だからこそ俺様は、やつの命令でこうして棒立ちを決め込んでる訳だ。
それはわかる。理解出来る。
何よりおかしいのはこの状況だ……!
「ダイモン、この中にコリンはいるか?」
何だあの長髪の男は? 人間じゃねぇのか?
何故やつは……何故ミケラルドは人間なんかと仲良く話してるんだ?
「いた! いましたよ旦那っ! あの子! あの子がコリンだっ!」
奴隷の檻を一瞬にして変形させるあの膂力は何だ?
……俺様の知るミケラルドじゃねぇ。
「どうやらかなり衰弱してるみたいだね。ここはいいから先に帰って休ませてあげて。向こうに着いたらエメラさんって人に色々任せるといい。エメラさんにはこっちから連絡しておくから」
何だあの魔法は……? 一瞬にしてダイモンって男とコリンってガキが消えやがった?
しかも今の魔法……残留魔力から察するに闇魔法と……光魔法?
相反する属性の魔法を同時に使ったって事か? いや、過去ミケラルドは光魔法を使った事があった。……あれは俺がハーフエルフのガキの腕を食い、
ミケラルドは光の
あの時は、無意識下に【呪縛】を使いハーフエルフの力を利用したのかと思ったが、どうやらそうじゃねぇようだ。
だが、それ以上に理解出来ねぇ事がある。
最初ミケラルドと再会した時は、脱走が頭にあって気付けなかったが……何故ミケラルドは生きてるんだ?
嘆きの渓谷に放り込まれて何故生きている?
あそこにゃ魔族四天王でも近付かないような強力な魔族がいる。
水龍リバイアサン……ダイルレックス種の第一席でさえチビッちまうような恐ろしい龍がいる。その縄張りに土足で侵入して……何故生きてやがる?
「え~、先程の戦闘でご存知の方も多いと思いますが、私の名前はミケラルドです。ケチな吸血鬼をしてます」
ケチって何だ?
それに何だ? 何故人間にそうまで
「詳しい話はここを出た後話しますので、まずはミナジリ村までおいでください」
敵意も殺意もない。俺様にはわからねぇ得も言われぬ意がやつに、ミケラルドに見える。
あんなヘラヘラしてたらたとえ人間だってわかっちまう。
ミケラルドは……恐怖の対象ではないと。
ミケラルドに心を許し、徐々に消えて行く人間。
そういえばミケラルドのやつ……「ミナジリ村」と言ってたな?
しかしここはリプトゥア国の首都リプトゥア。っ! もしかして……もしかしてあの魔法は……!?
全ての奴隷たちが消えた時、俺様は気付いた。そしてつい言葉にしちまった。
「……転移魔法かっ」
「よくわかりましたね。流石はドゥムガさんです。コバック、そこで待機だ」
「……はい」
人間に
それに何だ……この震えは? 一歩、また一歩、ミケラルドが、やつが近付く度に震えが大きくなる。
「へ……へへへ……?」
「どうしたんですか震えて? そんなに寒いです? ここ?」
間違いねぇ。これは、これはミケラルドの魔力圧。
ほんの数ヶ月前まで俺様と大差なかった魔力が、今やこの空間を支配し、俺様の魔力をすっぽり包んでやがる。俺様は知っている……この震えの正体を……!
「それとも……怖いんですか?」
恐怖。
そう、これは恐怖。
これは、この魔力量は
それどころか、魔族四天王に迫る。……いや、それ以上?
ミケラルドの父――スパニッシュの前ですら俺様がこんなに震えたためしはない。
一体何が起きた? この数ヶ月でたった三歳のガキに何が起きたっていうんだ?
「ドゥムガさん」
「っ! な、何だっ」
「逃がしませんからね?」
頭では否定しても、身体が理解してしまう。
俺様はもう……このガキから…………ミケラルドからは逃げられない事を。
「……な、何が望みだ?」
「悪いようにはしません。まぁ、ナタリーには反対されるでしょうが、上手くやりますよ」
端から見れば人間のようなガキ。
しかし、この魔力を受け、こうして見れば嫌でも理解しちまう。
「おいミケラルド……」
「何でしょう?」
「断言するぜ。……お前は俺様がこれまで会ったどんな魔族より……恐ろしいってな」
「当然でしょう……私は魔族と人間の……ハイブリッドなんですから」
ミケラルドはそう言った後、薄気味悪い笑みを浮かべ続けた。
「ではドゥムガさん」
【呪縛】の身体拘束が解ける。
「……忠誠を」
なるほど、第一席のあの野郎にも
「…………魔族十魔士が一つ――ダイルレックス種、元第五席ドゥムガ。全ては
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます