その66 運び屋ミケラルド
「ミケラルド殿……ここは先程の北門ですが……? それに、馬車はないのですか?」
裏路地を【探知】を発動しつつ、【看破】で視る事によって敵の包囲網をかいくぐり、北門に着いた俺たち。ラファエロの質問に、俺は静かに答える。
「ミケラルド商店に馬車は必要ありません」
持ってた方が箔が付くけどな。
「なんと、それでは一体どうすれば?」
「こうします」
発動したのは土魔法の土塊操作。
余りにも特殊な魔法だったが故、皆が驚くも、それはすぐに興味に変わった。
これは、以前リーガル国に着いた時、ナタリー、ジェイル、リィたんを運んだ方法。
それが椅子の形になると、ゼフが気を利かせてそこにマントを敷いた。やはりこの爺さんは油断ならない。執事の職人の域にいると思う。
あぁ、そうだ。今後は闇空間にソファでも入れておけばいいのか。そうすれば皆の背中や腰を痛める必要もない。
まぁ、それは今度だな。
「さぁ、乗ってください。時間がありません」
「はい!」
ラファエロが威厳を持つのはもう少し後だろうな。
「母上、こちらに!」
「急ぎましょう」
「失礼致します」
レティシア、リンダ、ゼフも着席すると、俺は【超能力:サイコキネシス】を発動する。
「これは!」
「凄い……!」
「……ランドルフは、良い友人を持ったようですね」
「素晴らしい能力ですな、ミケラルド様」
「さ、急ぎますよ!」
持てうる限りの強化を施した俺は、北門から迂回して西にあるシェンドの町……いや、
「シェンドの町には向かわない? それはどういう事です?」
その説明を、ラファエロが疑問に持ったようだ。
「シェンドの町に公爵家の手が回るのも時間の問題でしょう。なので、侯爵家の皆様には、より安全なところに避難して頂きます」
「より安全……? まさかリプトゥア国っ!?」
「いいえ、リーガル国ですよ。ただ、ちょっと異空間みたいな場所です」
「いくう……かん……?」
まぁ、ミナジリ村が一番安全なんだよな。勇者殺しとか元盗賊団とか元騎士とかいるし、そもそも人里離れすぎてバレる訳ないし。
クロードに連絡し、ジェイルとナタリーにこっちの説明をし、エメラにも連絡しておこう。今は店を閉めておいた方がいい。この段階なら、まだ公爵家の手も伸びていないだろう。
シェンドの町の西でエメラを拾うと、俺の集中のため、エメラがミナジリの村について説明してくれた。
まぁ、ハーフエルフのナタリーはともかく、リザードマンのジェイルを見たらたとえ事前の説明を受けていても驚くんだろうな。
「……ジェイルだ」
「ナタリーです!」
そんな二人の挨拶で、硬直したのは何故かラファエロだけだった。当然、ナタリーにではなくジェイルに驚いていた。
どうやらゼフは過去にリザードマンを目撃した事があるようで、懐かしそうな目をしていた。エメラとリンダは馬があったのか、よく話していたから、もしかしたらジェイルの人相と性格も上手く伝わったのかもしれない。
まぁ、ここでも【看破】持ちのレティシアは平静だった。それとは別に、ナタリーとの挨拶に緊張していたようだった。ナタリーのが年上だが、ナタリーとレティシアの身長はほぼ一緒。ハーフエルフとしての特性で成長こそ遅いが、ナタリーはしっかり者である。侯爵家という厳しい躾で育ったレティシアも、ナタリーにシンパシーを感じたのかもしれない。
「シュッツ! シュッツはいるか!?」
「ここに、ミケラルド様――っ!」
「この方たちに粗相の無いように。お前が護衛をするんだ。いいな?」
「っ! は!」
まぁ、これはシュバイツの罰であると共に普段の献身に対する褒美でもある。
顔が変わっているから周りの皆は気付かないようだが、レティシアだけは少しだけ小首を傾げていた。あの子、本当に勘が良いな。
元とはいえシュバイツは騎士。かつて仕えてた侯爵家の者の護衛が出来るのだ。嬉しくないはずがない。アイツ目頭押さえながら振り返ってたな、今。
「ミケラルド様、城の見取り図です」
「ありがとうございます」
ゼフにリーガル城の見取り図を貰った俺は、後の事をジェイルに任せ、
そんな疑問を解消するより早く、俺はマッキリーの町に着いていた。
【チェンジ】を使って姿を変える。当然それは、侯爵家の人間。
同性であるラファエロの姿となった俺は、目立つように歩き、追っ手を裏路地に誘い込み……血を吸った。
「なるほど、ならお前で最後という事か」
「……はい。そこにいる者たちはシェンドに向かう予定でした」
追っ手の数は全部で十四人。意外に多かったな。
流石公爵家、抜け目がない。
「シェンドの町の西にミナジリの村がある。そこで善人として暮らせ。ジェイルにはこちらから伝えておく」
しかし残念だったな公爵家。
俺はお前の力を
さて、次はリーガルに向かわなくちゃな。
直接アルフレドを狙ってもいいが、それでは悪人が世に埋もれてしまう可能性がある。
せっかくの大量スカウトの機会、与えてくれた公爵家には感謝しなくちゃいけないな。
ふふ、ふふふふ。
――さぁ、狩りの始まりだ。
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