その43 囚われのミケラルド
「絶対おかしいって! なんだそれ!?」
「しかしなぁ、これは俺でもどうしようも出来ないぞ」
「おぉ、けどなんか地位がありそうな発言!」
「ふん、これでも俺はここの警備主任だからな!」
「くそ! 侯爵に勝てそうな地位じゃない!」
「勝てる訳あるか!」
どうする? リィたんを助けに呼ぶか?
しかしなぁ、リィたんがそんな事知ったら、怒ってリーガル国とかなくなっちゃうかもしれないし、流石に助けを求められないか。
とりあえず、テレパシーを使って、ナタリーに今日の夕飯をキャンセルしておこう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「おい、何であいつがいるんだよ?」
そこにはおそらくレティシアが乗っているのだろう。
そしてその馬車を覗き、レティシアと何か話している中年オヤジ。
更に、俺を捕えたボロい荷車をロバが引いている。
警備にはマックスと三人のシェンドの町の兵士。
「仕方ない。あの方はサマリア侯爵家の騎士だ。まぁ所謂下級貴族ってやつだな」
荷車の上の檻から中年オヤジを見ていると、汚物でも見るかのような目で俺を見返した後、地面に唾を吐き捨てた。
「あれ、本当に騎士?」
「騎士は平民がなる事も少なくないからな。あの方も平民の出だろう」
「ところで、護衛ってこれだけ?」
「……そうだ」
そう言うマックスの顔は、少しばかり緊張していた。
周りの兵士たちもそうだ。かなり顔が強張っている。
「侯爵家なんだったらお金あるだろう? 冒険者ギルドに護衛依頼すればよかったのに」
「そうもいかん。貴族と冒険者の繋がりに寛容な者は少ない。シュバイツ様も下級貴族とはいえ貴族は貴族だ。命令に逆らう事は出来ん」
という事は、あのシュバイツって中年オヤジがこの場の実権を持っているのか。
それにしてもマックスのヤツ、小声とはいえ、貴族がいる場で色々言ってるな。不満も少なからずあるのだろう。
さて、今回のリーガルへ向かうメンバーは、非常に心もとない。
馬車の御者と、その馬車に乗るレティシア。
先頭を騎乗して歩くシュバイツ。
檻IN俺。その荷車を引くロバ。
マックス含む兵士四人。
シュバイツはランクCの冒険者程度の魔力を帯びている。それはマックスも同じだ。どちらを相手にしてもカミナの方が強いと思う。
御者は論外だとして、マックス以外の兵士の戦力は一人当たりランクE前後。
「不安だ……」
「はははは、それは俺も同感だ」
この中で状況を判断出来そうなのは、マックスか俺くらいだ。
他の兵士は、侯爵家の護衛ってだけで緊張している。マックスの協力により、俺の無罪は理解しているようだが、やはり不安だ。
ランクC……いや、ランクDのモンスターでも、群れを成せばここにいる全員を呑み込んでしまうだろう。
「どれくらいでリーガルなの?」
「護送ならば三日というところか」
「襲われない可能性は?」
「……ははははは」
濁しやがった。
とは言っても、一応流石は騎士なのだろう。シュバイツは現れるモンスターの大半を倒しながらリーガルへ向かった。
リーガルはシェンドの町の北にあるようだ。ランクB冒険者が入れるダンジョンもあるとの事だが、今の俺は囚われの身だしな。
夜。
川に近い木の下で、兵士たちが食事の準備に追われていた。
「ねぇねぇマックスさん、お手洗いに行きたいなぁ」
「あぁん? ったく、仕方ないな」
こちらも生理現象だ。是非とも許して頂きたい。
もはや慣れた檻の中に戻ると、マックスが食事を持ってきた。
「ちゃんと手拭け」
おっと、濡れ布巾を持ってきてくれたのか。
マックスはとても良いヤツである。
「おっと手が滑ってしまった」
と、言いながら、マックスが持っていた俺の食事を、シュバイツが叩き落とした。
「……食事は大事にしろって教わりませんでしたか?」
「だから罪人に食わせず、雄大な大地に還元したのだ。ふん、安心しろ。三日何も食わずとも、死んだ奴はいない」
そう言い捨てて、シュバイツは馬車の方へ戻って行った。
「あれ、どう思う?」
「胸糞悪いな」
マックスも同意見のようだ。
まぁ、今日くらい何も食わなくてもいいか。
最悪、闇空間に携帯食料が入っている。
この檻には魔力を遮断する効果が、そして手錠にも同じ効果がある。並みの魔力では壊す事も、魔法を発動する事も出来ないそうだ。
……
翌日。
「ぐぁ!?」
モンスターの攻撃により、兵士の一人が深手を負った。
幸い、マックスが残りのモンスターを倒したおかげで、致命傷にはならなかったが、このままでは出血多量で死んでしまうだろう。
「そいつはもう駄目だ。置いて行くぞ」
シュバイツがそう言うも、マックスが動く事はない。
「おい、聞いてるのか! 足並みを乱すな!」
自分の部下が傷によって苦しんでいるのだ。
置いて行ける訳がない。
「お、お待ちなさい!」
そう言って馬車から出てきたのは、あのレティシアお嬢様だった。
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