その40 新発見

「もしかして今、魔力まりき還元の指輪を装備しているからか?」


 そう判断した俺は、指輪を外して改めて鑑定をしてみる。

 ……うーん、消えてない。


「と、いう事は」


 闇空間を発動し、中から【吸魔のダガー】を取り出す。


「チャック、これを持て」

「はい」


 今のところステータスに何の影響もない。

 しかし、ここでもう一度チャックの血を舐めれば――――おう、こいつぁとんでもねーぜ。

 しっかり【吸魔】の特殊能力が増えてやがるぜ。


「次はこれだ」

「はい」


 今度は【隠形のブーツ】をチャックに渡し、それを履かせる。

 また血を舐めると、やはり【隠形】の特殊能力が追加された。

 しかし、力の指輪などの底力を向上させるアイテムに関しては、特に影響を及ぼさなかった。

 力が上がった感じもしなかった事から、影響があるのは、基礎能力ではなく特殊能力部分という事だ。


「…………やばいな」


 そう呟いてしまったのも仕方ない。

 俺は、世界中のマジックアイテムを誰かに装備させ、そいつの血を舐める事を心に決めたのだ。

 いや、もしかしたら自分の血を舐めても成功するかもしれない。今回に関しては二つともチャックで試してしまったから、これについては今後要検証だな。


「さて、お前たちをどうするか……だな」


 不気味な程に沈黙している十二人を前に、俺は腕を組みながら考える。

 一つ妙案があるのだが、これについては、冒険者ギルドを騙せるかどうか、、、、、、、が鍵となる。

 奥に人質がいるそうだが、それを助けてからではバレてしまうので、ここでジェイルさんに登場してもらおう。

 テレパシーでジェイルを呼び、詳細な場所を伝えると、彼はすぐに駆け付けてくれた。


「……何だこれは?」

「見てわかりません? 盗賊です」

「いや、風貌からそれはわかるのだが、こいつらをどうしろというのだ?」

「魔族らしい言い方をするならば、人材雇用の良いチャンスかと」

「……そうか、我らの戦力にしろというのか」


 流石だな、ジェイルは俺の狙いにすぐ気付いた。

 現在新たに土地を開拓しているのはジェイルとナタリーだけ。クロードたちも手伝いたいと言うのだが、それはまだ早いと思っている。

 本来であればナタリーもなのだが、あの子頑固だし、そういうところは言う事聞いてくれないんだよね。

 で、開拓に必要な人材がいれば、それだけ集落、村、町、果ては国が早く出来るという訳だ。


「しかし、見たところミックは盗賊討伐の途中だろう? 全員こちらに来させたのでは、冒険者ギルドから目を付けられるだろう」

「えぇ。なので、ボスのチャックだけはギルドにひき渡します。全ての主犯が『仲間とは喧嘩別れした』と言えば、納得してくれるでしょう。まぁ、少なからず疑いは残りますけど、盗賊が散り散りになれば探しようがありませんからね」

「そうか。こいつらはどうする? 根が悪ならばミックはともかくナタリーには近付けられないぞ?」

「ジェイル親分を信奉する善人に変わってもらいます。当然、魔族への偏見をなくした上で」

「言っている事が魔族染みてきたな……」


 ドン引きするような目だが、反対をしてないところを見ると、ジェイルもこの案には賛成のようだ。

 こういった対処はあくまで悪人相手に絞られるだろう。

 悪人が更生し、善人になるのだ。性格がほんの少し変わるだけ。言い訳をするならば催眠療法というやつだ。

 そして、親分が変わるだけだ。顔はめっちゃ怖いけど、根は優しいリザードマンに。

 ジェイルは少しだけ深い溜め息を吐きながら、チャック以外の記憶改竄かいざんを施した十一人を引き連れて戻って行った。

 ナタリーは驚くんだろうな。


 俺はチャックを眠らせた後、盗賊のアジト、その奥へ入って行った。

 すると、そこには、両手両足を縛られた少女が一人、眠るように倒れていたのだ。


「……眠っているだけだな」


 金髪ロリといえば異世界でも定番だが、年の頃合はナタリーに近いんじゃないか?

 ナタリーは今、十一歳。この子はもう少し幼いかもしれない。

 身に纏っている衣服の装飾から、どこかのお嬢様のような印象だ。まつ毛が長く、幼いが将来性を感じる美貌の持ち主だ。

 ナタリーは可愛い系だが、この子はきっと美女になる。

 ふむ、目を覚まさないようだし、盗品である金品だけまとめて闇空間に放り込んでおこう。

 その中に、マジックアイテムが一つだけあった。

 その名も【豪運の指輪】。試したところこれも基礎ステータス部分に該当するのだろう。特殊能力には影響が出なかった。

 しかし、これは中々良さそうなので、常時着けておこう。

 鑑定能力を持っている盗賊がいなければ、こういったマジックアイテムの見落としがあったとしても、仕方ないだろう。


「おし、こんなもんだな」


 換金が楽しみになる盗品の数々だった。

 マジックアイテムがなかろうが、金銀財宝は高く売れる。

 これは世界のことわりと言っても過言じゃないだろう。

 早く帰って換金しよう。そう思って少女を担ごうと近付くと……目を覚ましてしまった。


「っ! キャァアアアアアッ!!」


 きゃ~、面倒臭そう。

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