その37 荒稼ぎ

「「おぉ!」」


 カミナと別れた俺たち二人。

 といっても、冒険者ギルドの裏で革袋両手に目を輝かせているだけだ。

 それもそのはずで、カミナ、リィたん、俺の三人でパーティを組んでいたのだ。当然、報酬は三等分。カミナは「そんなもらえません!」と言っていたが、ここはキッチリしておきたいから、俺が譲らなかった。

 でも、カミナも中々譲らなくて、依頼報酬の金貨六十五枚だけは、俺たちが四十五枚の金貨をもらった。

 まず、【隠密ブーツ】。最近出回っていないという事と、「ある理由」により、買い取り価格が高く金貨百二十枚で売れた。だから俺たちの取り分は金貨八十枚。

【力の腕輪】が金貨二十七枚で売れ、俺たちに金貨十八枚。

【魔力の指輪】が金貨十八枚で売れ、俺たちに金貨十二枚。

【ミスリル原石】は金貨六十枚で売れ、俺たちに金貨四十枚。

 つまり、俺たちのダンジョン探索は、金貨百九十五枚というとんでもない結果となったのだ。


「ポーションを買った残りと合わせて金貨二百七枚あるな、ミック!」


 リィたんがとても嬉しそうである。

 頑張った甲斐があるというものだ。

 因みに先程の「ある理由」とは、固有能力の【交渉】を使ったからだ。これによって買い取り価格が上昇した時、俺に商売の神様が降りてきたと確信した。

 マジックアイテムに関しては、残しておきたいという気持ちもあったが、カミナが同伴ともなると、売った方が賢明だと判断しただけだ。買い取る資金力があれば、全然よかったんだがな。

 だが、俺たちはマジックアイテムを諦めていないのだ。

 そう、普通の冒険者であれば、この後大いに飲み食いする事だろう。

 しかし、我々は人外。

 たった一回、、、、、のダンジョン探索で、喉を潤したくなる程、やわではないのだ。


「ミック、やはりモンスターの数で宝箱が出現するようだ」


 再びダンジョンに潜った俺とリィたん。一階層と、二階層を、前回と同じモンスターを倒しつつ攻略すると、宝箱が出た。

 その下の階層以降は、「最低何匹倒せばいいのか」を念頭に進み、五階層で出現しなかった。追加で倒すと出現するあたり、このカラクリを知ってる冒険者はいそうだな。


「んな……何をしている、ミックっ?」

「え、スケルトンの骨を砕いて……粉末状にしたのを水で割って――舐める!」


 スケルトンから固有能力【斬撃耐性】を得る。

 その後は、最低数のモンスターを狩りながら、あっという間に最下層へ。流れるようにダイアウルフ(亜種)を倒す。

 という流れを、四回程繰り返した。


「お、おめでとうございます。本日付でお二人はランクCとなりました」


 シェンドの町のネムじゃないし、めっちゃ驚いてるみたいだ。


「おっし、こんなもんかな」

「うむ、そろそろ腹が減ったな!」


 そう、人外はこれくらいで打ち上げをするのだ。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 マッキリーのダンジョン、四回分。

 全二十四個の宝箱内容は以下。


 外れが四つ。

【力の指輪】が二つ。

【速度の指輪】が三つ。

【魔力の指輪】が三つ。

【力の腕輪】が三つ。

【速度の腕輪】が二つ。

【魔力の腕輪】が二つ。

【ミスリル原石】が二つ。

【隠密ブーツ】が一つ。

【吸魔のダガー】が二つ。


 何ともビックリな結果になったものだ。

 最高レアである【吸魔のダガー】が二本出た時は驚いたものだ。

 流石に換金は面倒だったので、とりあえず全部俺の闇空間の中に入れている。

 報酬は金貨六十五枚が四回で金貨二百六十枚。

 合計で四百六十七枚の金貨がある。

 これだけで、商売の元手にかなり近づいたな。

 クロード家に戻った俺は、


「何と、もうランクCにっ?」


 クロードの口から出た驚き、そしてエメラはカミナとの同行に驚いていた。


「偶然会ったとしても、いきなりダンジョンなんて、流石ですね、ミケラルドさん」

「ありがとうございます」

「カミナの良いきっかけになればいいのだけれど……」


 エメラはカミナの事を心配しているようだ。まぁ、普段冒険者ギルドの密偵みたいな仕事をしてるんだ。同業者からは疎まれてしまうものだな。


「あ、クロードさん」

「なんでしょう、ミケラルドさん」

「エルフってどこに住んでるんです? 言えなければいいのですが」

「構いませんよ。調べればわかる事ですから。エルフはその種だけで出来た国家をもっています。人間の間ではエルフの国と呼ばれていますが、ちゃんと名前もあります」

「というと?」

「シェルフといいます。ここからだと西に向かったところにあります。人間とは仲良くもなく、中立という感じでしょうか。ミケラルドさんの手前、大変言いにくいのですが、魔族が敵だというのは同じです」

「ははは、構いません」


 シェルフか。いつか行ってみたいものだ。

 人間とは中立……か。まぁ、仲が良かったらナタリーはあんなに差別されないか。


「あぁ、そうだ。これ、当面の生活費です」

「え? いえ、そんなに頂けません!」


 そんなクロードの反応を見て、俺とリィたんは見合って笑う。


「だから言っただろう、リィたん?」

「ならばもう一つの手があるではないか、ミック」


 俺とのやりとりに、クロードとエメラが困惑する。

 俺たち三人ともこの家族には世話になっている。

 ナタリーを助けたとはいえ、魔族をずっと匿ってくれているのだ。

 ささやかな恩返し。

 しかし、それも断られるだろうと俺は踏んでいた。

 ならば、とリィたんが提案したものは、とてもシンプルで、とてもストレートだった。

 俺は吸血鬼。魔族なのだ。

 魔族ならば、簡単に使えるワードがあるじゃないか。


「「貰わないと殺すぞ♪」」


 俺たちの満面の笑みは、クロードの間抜け面と、エメラの失笑で受け取られる。

 やがてクロードも「……はは」と苦笑しながら頭を掻いた。


「それでは、お言葉に甘えます」

「殺されたくないですから♪」


 ナタリーは、本当に良い両親をもった。

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