その36 攻略者

「空っぽ……」

「あぁ、残念でしたね」

「なるほど、こういう事もあるのか」

「えぇ、五回に一回くらいの割合ですけど」


 これに関しては法則があるのか?

 いや、まだモンスターの数に応じて宝箱が出現すると決まった訳でもない。

 追々おいおい調査していけばいいだろう。


「えっ? また出ました……ね?」


 五階層にも宝箱が出現した。

 今回は圧倒的に倒したからかもしれない。

 もしかして、ダンジョンは倒したモンスターの生命力……というより、魂魄的なアレを吸って宝箱を生み出しているのかもしれない。

 カミナ自身は、深く潜れば宝箱が出現する確率が上がるという認識だが、ここまで連続で出ると流石に驚くか。


「オーケー、罠はないよ」

「では、今度は私が。……あ、これは腕輪ですね。戻ったら鑑定してもらいましょう!」


 へぇ、鑑定なんてものもあるのか。

 カミナの言葉に反応し、俺は咄嗟に鑑定能力を発動した。


「【力の腕輪】だね」

「わかるんですかっ!?」


 カミナの言葉ももっともだ。

 ちょっとやり過ぎてるな。これからは自重するべきか。


「まあこれと罠感知くらいだよ」

「鑑定能力があれば、パーティは非常に助かりますよ。少なからず相手の能力がわかりますし、こういった場で役に立ちますから」

「へ、へぇ〜。そうなんだ」


 カミナの俺を見る目が、益々輝き始めた。

 出来れば幻想のまま終わって欲しいものだが、エメラの友人ってのがネックだよな。


「この調子なら、初挑戦でマッキリーのダンジョン制覇出来ますね! これが成功すると、お二人は一躍有名人です!」


 その点に関しては、確かに微妙なラインだ。

 有名にならなければ大きなコネクションは出来ない。しかし、有名になればまた別の問題が増える。カミナ程度なら全然問題ないが、私腹を肥やした大人連中が利用しようと動く事だろう。

 そういった目利きも出来るようになりたいものだ。


「むー、本当に今日はツイてます。六階層だから納得ですけど、四連続で宝箱が出現するなんて」

「中身は……指輪か。【魔力の指輪】だね」

「最大魔力量が少しだけ増えるマジックアイテムです。やっぱりツイてますー!」


 カミナがぴょんぴょんと跳ねて喜んでいる。

 どんなマジックアイテムでも、能力増加に繋がるなら、俺としては嬉しいものだ。


「おぉ~、ここが最終階層か……」


 一面に広がる中庭のような小さい空間。

 その中央には東屋みたいな小さな祠のような場所がある。


「む、何かいるな」

「気を付けてくださいお二人共。マッキリーのダンジョン最下層には、ランクD最強のモンスターがいます」

「ほぉ、あの毛並みと大きな牙、ダイアウルフか。体毛が赤い故その亜種と見た」

「流石です、リィたんさん」


 通常のダイアウルフは灰色でランクDのはずだが、この亜種もランクDなのか。てっきりコボルトの時みたいに別のランクになるのかと思っていたが、そうでもないモンスターもいるって事だな。


「いきます!」

「いや、終わったよ」


 ダイアウルフ(亜種)の頭部がずるりと落ちる。

 打刀でも滑るように斬れたな。やっぱりこの身体能力の恩恵は凄まじい。

 ここら辺だけは、父親スパニッシュにも感謝しないとな。


「あ、あはははは……」


 全力で迎え撃とうとしてたカミナには申し訳ないが、これ以上長居もしたくないしな。

 討伐部位であるダイアウルフ(亜種)の首を持ち、闇空間に入れる。この時、カミナに気付かれないようにその血を指で採って舐める。

 得た固有能力は【遠吠え威嚇】。


「……へぇ、最下層の報酬アイテムみたいなものなんだな」


 祠の中にあったのは、宝箱と、その奥にあった台座の上に置かれた、蓋つきの水差しピッチャーと、銀皿の上にある五枚の草。

 これがおそらく聖水と聖薬草か。

 流石に聖水は怖いからすぐにしまおう。


「罠無し。さて、この中身は……お? 鉱石?」

「あ、ミスリルの原石ですね! これは二番目にレア度が高いやつです!」


 そうか、出来れば【吸魔のダガー】がよかったが、そう都合よくはいかないって事だな。


「帰りは、一番奥の転移装置に乗ればいいんですよ!」


 うーむ、ダンジョン……か。転移装置なんてものがあるって事は、人知の及ぶところじゃないかもしれないな。

 転移は、装置に乗ったらいつのまにかダンジョン入口の裏手に移動していた。

 転移したというより、いきなり景色が変わったような印象だった。


 そして俺たちは冒険者ギルドに報告に向かう。


「マ、マジかっ!?」

「何であんな装備でっ!?」

「おい、カミナたちのパーティがダンジョンを攻略しやがったぜ!」


 という感じで騒がれている。確かに、カミナが言った通り、一躍有名人だな。「カミナのパーティ」ってところがちょっとした隠れ蓑になってくれそうではある。


「今回の報酬です。聖薬草、五枚で金貨三十枚、聖水二リットルで金貨二十枚。ダイアウルフ(亜種)の首、金貨十枚。スケルトンの腕十対、金貨五枚。合計金貨六十五枚の報酬です」

「よっし!」


 俺とリィたん、そしてカミナは皆でハイタッチを交わし、晴れて俺たちは、マッキリーのダンジョン攻略者となった。

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