その30 ギルドシステム

 この人、絶対昨日俺たちをつけてた人だ。

 魔力の気配が昨日の尾行者とそっくり。というかまんまだ。

 向こうも当然気付いているだろう。というか追ってた側だしな。

 だが、あれは冒険者ギルドの真っ当な仕事。

 別に警戒する必要はないが、やっぱりぎこちなくはなってしまうな。


「ごめんねカミナ。どうしても二人をカミナに紹介したくてっ」


 やべぇ、ちょっと舌先を出してお茶目に振る舞うエメラ最高だ。人妻の魔力恐るべし。


「ううん、気にしないで。それで、エメラはこの方たちとどういう関係なの?」


 何故かカミナのエメラに対する視線が強いが、やはり怒っているのだろうか?


「そうね、詳しくは言えないけど、凄くお世話になった方々よ。二人共このシェンドの町で冒険者を始めたから、カミナに紹介したくてね」

「へぇ~、そうなんだー! じゃあもしよかったら今度一緒に依頼を受けない?」


 何となく猫被ってるのはわかるが、まだ依頼は続いているのだろうか?

 可能性は高いよな? だってエメラから「いつもソロだからパーティを組んでやって欲しい」とか言われてここに来たんだから。


「え、ええ。時間が合えば是非」

「是非にです!」


 これだけの積極性があれば、かなりの美人だし仲間が出来ないのもおかしい。

 女冒険者のカミナか。

 赤髪の童顔美人。瑞々しい唇がとてもえろす。スレンダーな身体にフィットした動きやすそうな服装。

 ……ん? 足下に魔力が集中している。なるほど、このブーツはマジックアイテムか。

 ランクDになれば隣町にあるダンジョンに潜れるという話だが、そういったところで見つけられるのだろう。


「そ、それじゃあエメラさんたちの再会を邪魔しちゃ悪いし、行こうか、リィたん?」

「うむ」


 リィたんはしれっとしているが、カミナのリィたんへの視線がマジ強い。殺意なんじゃないかってくらい半端ない。

 かといって俺への視線は別の意味で強いし……何だろう、これ?


「なんだ、気付かなかったのか? カミナという女、ミックに対して求愛行動をしていたぞ」

「は?」

「女の私やエメラに対しての威嚇行動、そして男のミックに対しての熱視線。どう見てもあれは求愛行動だ。人間の感情は複雑だと聞いていたが、カミナという女に関しては非常にわかりやす――――」

「ちょちょちょ! え、マジっすか!?」

「……その口元、どうにかならんのか?」


 おっと、いけねぇ。涎がいつのまにか。

 口元を拭い、ニヤケ面を戻すと、リィたんは続きを話してくれた。


「それに、気付かぬか? ミックへの視線」

「へ?」


 冒険者ギルドに向かう中、俺はリィたんに言われ、さりげなく周囲を見渡してみると――――、


「めっちゃ見られてますね」

「大半の男の視線は私に向き、女の視線はミックに向いている」

「やべぇ」

「半々……いや、一部ミックの事を男も見ているな」

「うぇっ!? な、何で!?」

「これは嫉妬と忿怒の感情が見える」

「あ、はい。そうですよね」

「ナタリーも言ってたぞ?」

「なんて?」

「『大人になったミックちょぉ~カッコイイ!』とかなんとか」


 あ、はい。

 ふむ、大体わかってきたな。自分の中で、中々カッコイイと思ってたのだが、この世界の基準では、かなり容姿端麗なのだろう。それは勿論リィたんもだけどな。

 これは、目立つ理由が一つ増えてしまったようだな。

 となると、カミナの調査依頼は終了しているという事かもしれない。


「で、リィたん。今日はどの依頼にするんだい?」


 冒険者ギルドに付いた俺は、ランクFのボードの前に立って「むぅ」と唸っているリィたんに聞く。


「ミックに言われて気付いたのだが、やはりランクアップとやらをした方が、報酬はよくなるようだ。ほら見ろ、隣のランクEのボードは報酬がいい」


 凄いスピードで人間の文化を吸収していくな。流石水龍リバイアタンってところか。


「ならば、一気にランクアップすれば、もっともっと稼げるのではないか?」

「そうだね。でも、ランクアップするには色々条件があるから――」

「――では、その条件とやらをまず聞こうではないか」


 貪欲さも凄い。

 リィたんの後を追い、俺は受付嬢のネムの前にやってきた。


「ネムさん、ちょっとよろしいですか?」

「はい、ミケラルド様。なんでしょう?」

「ランクアップの条件について伺いたいのですが、冒険者がそれを知る事は出来ますか?」

「申し訳ございませんが、それについてはお答え出来ません。ただ、実績と信頼の積み重ねによって上がるとしか、お答え出来ません」

「ありがとうございます」


 やっぱり無理だったか。


「なんと曖昧な!」


 とか、ぷんすこ怒るリィたんも中々可愛い。


「では、一度に受けられる依頼の数をお伺いしたいです」

「ランクFの冒険者でしたら二件まで可能となります」

「一人二件という事でよろしいですか?」

「え、えぇそれはそうですけど……?」


 俺とリィたんは、ネムの返答に見合って笑った。

 それを見たネムの顔が、少しだけヒクついていたのは、きっと気のせいなのだろう。

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