その18 来たぞ人界!

 下乳!

 おっと、これ以上見ると、ナタリーに引っかかれてしまう。

 しかし話すとなると、身長から見上げなければいけないからどうしても下乳が見えてしまう。

 リバイアタンのやつ、俺に話しかけてくれないものか……。


「おいミック」

「はい喜んで!」

「ミックゥウウウウッ?」

「あー、ごめんごめんごめん! えー、で、なんでしょうか?」

「これから先どうするのだ? 我はこれより先の土地に明るくないのだ」

「とりあえずはナタリーの家に向かいます。場所はわかる? ナタリー?」

「んー、近くの町まで行ければ後はわかるよ」

「町の名は?」


 ジェイルがナタリーに聞く。


「シェンドの町」

「知ってますか、ジェイルさん?」

「少し遠いな。リーガル国の辺境の町の名前だ」

「国の名前はあってる? ナタリー?」


 念のため俺はナタリーに国の名前を確認した。いざ行って違いましたってのは怖いからな。


「うん、リーガル国であってるよ」

「リーガル国へはここから北、リプトゥア国を跨いで向かわねばなるまい」

「…………」

「どうしたミック?」

「そのリプトゥア国……紅茶が有名じゃありませんか?」

「よく知ってるな?」

「いや、なんでもありません」


 ミルクティーが飲めるといいな。

 その後、俺たちはオリンダル高山の高所にある洞窟を通り、何事もなく中を潜り抜けた。

 道中暗かったが、いつの間にか芽生えた俺の光魔法で洞窟内を照らすことが出来た。

 これにはリバイアタンも驚き、「面白い吸血鬼」だと言った。

 オリンダル高山の洞窟を出ると、そこは雪の白面が続く平原だった。

 ジェイルの話だと、この白面が途切れ、草原となったらそこは人界なんだという話だ。

 最初足取りは重かったが、徐々に、本当に少しずつだが、雪で足をとられなくなっていった。

 積雪が段々と浅くなっているのだろう。

 ナタリーはとても寒そうで、俺の上着を貸してやった。リバイアタンは全く寒がらず、もうホント、ごちそうさまです。


「ところでリバイアタンさん」

「なんだ?」

「自分の名前、呼びにくいと思った事ありませんか?」

「常々だ」


 変えろよ。


「ナタリーが愛称付けるのが得意なんですよ。リバイアタンさんがもしよろしければ……いかがでしょうか?」

「ふむ、悪くないかもしれんな」

「ほら、ナタリー」

「えーっとね~…………リィタン!」


 まんま過ぎてどうしようもない。

 これを元リバイアサンに名付けるとか喧嘩を売ってるとしかいいようがないぞ!?


「気に入った」


 本人が受け入れました。


「我はこれよりリィタンだ。各々忘れるでないぞ」

「……かしこまりました」


 ……気のせいかジェイルが緊張しているようにも見える。

 いや、それもそうか。怪獣というか海獣様だ。緊張しない方がおかしい。


「おいミック……」


 案の定ジェイルが小声で話しかけてきた。


「あの方をこれからどうするつもりだ。旅を共にするにしても緊張でこちらの神経がもたんぞ」

「そんなにヤバいんですかね?」

「性格はまだつかめぬが、もし怒らせれば町一つ、いや、国一つ崩壊させる力は持ってるぞ」


 神経がスーパノヴァ起こしそうだなそれ。


「実際リィタンって魔族四天王と戦ったら勝てるんですかね?」

「言っただろう? 嘆きの渓谷に入ろうとする魔族はいないと」


 魔族四天王ですら躊躇う実力の持ち主って事か。

 味方なのがせめてもの救い。いや、しかしこれが交渉の力って事だな。暴力以外の力って何て素晴らしいんだ。

 だけど……人界に行っても俺たちの居場所なんてないんだろうな。

 ナタリーの話を聞いた感じ、ハーフエルフであるだけで迫害。人里離れた場所でしか生活が出来ない。

 なら魔族だったらもう最悪って感じだよな。

 だからやるしかないんだ。自分だけの力で、自分の道を進むしか……!


「――っ!」


 うほ、雪に足をとられて……転ぶ! ……!?


「気を付けろ。少しの傷で旅には障害となるぞ」

「あ、ありがとうございます。ジェイルさん」

「もう、気を付けてよね、ミック!」

「ミック、そんなところで死ぬのではないぞ。お前は私が看取るのだからな」


 咄嗟に支えてくれたジェイルの腕に助けられた。

 いや……力を貸してくれる仲間がいる。皆でなんとかしなくちゃいけないよな。

 頑張ろう……絶対にこの世界で生き残ってやる!


 ◇◆◇ ◆◇◆


 旅をして初めて気付いた。

 ジェイルって本当にすげぇ……。狩りからモンスターの習性の把握、危険地帯の横断、その全てが的確で説明も上手い。

 ジェイルの火魔法と、リィタンの水魔法・風魔法のおかげで、狩りで得た毛皮を簡単になめしてしまった。

 流石リィタンだな。水魔法以外に風魔法も使えるのか。

 自身の体毛を魔力で硬質化させ、それを毛皮に通してナタリーとリィタンの衣服を作ってしまった。

 何このかっこいいお父さん?


 リィタンの下乳が見れなくなってしまったのは残念だけど、一言だけ、一言だけ言わせてください。

 横乳最高です!


「……ん?」


 先に見えるのは……緑?


「ほぉ、どうやら着いたようだな。ジェイル、そうだろう?」

「えぇ、ようやくというところでしょう」

「ナタリー! 人界だぞ!」

「うん!」


 魔界を追われ、吸血鬼、ハーフエルフ、リザードマン、リバイアサンの四人は、ようやく人界に着きました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る